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04 剣の蔵

「着いたわよ」


 ギャリコのあとを追ってエイジがたどり着いたのは小屋だった。

 位置的には鉱山集落の外れにあり、人の気配はまったくない。

 しかも小屋とは言っても、外装からしてしっかりした造り。金持ちが趣味で作った離れ家と言っても信じられそうだった。


「アタシが建てたのよ」

「え!? 一人で!?」


 突然の告白に、エイジはまたビックリ。


「ドワーフは建築スキルだって高いのよ。アタシは鍛冶スキル以外まだまだお父さんや兄さんたちに及ばないけれど、これくらいの工房作りならわけないわ」

「工房……?」


 理解の追いつかないエイジにかまわず、ギャリコは小屋の中に入っていく。

 慌てて追うエイジ、屋内に入ってますます驚愕した。


「これは……!?」


 小屋の中には、鍛冶道具が一式揃っていた。

 炉と金床という基本設備は元より、ハンマーにふいご、金バサミなど必要な道具も揃っている。


「鍛冶場……!?」

「アタシの個人工房よ。ここで自由時間、好きなものを打って作っているの」

「はあ……! つまり……!」


 ギャリコは自由時間まで使ってせっせと訓練し、鍛冶スキル値を上げていたということだった。

 超マジメだった。


「アタシは元々鍛冶師志望なの。そのためにお父さんにお願いして、三年ほどドワーフの都で修行もしたわ。帰って来てからは、鍛冶以外のスキルも身に付けないとダメって言われて坑道エリアの監督にさせられたけど……」

「はああ……、水浴びに行ってるかもしれないって先輩たちの予想は大外れだったんですね」

「えっ、水浴びはするわよ? 鍛冶仕事はメチャクチャ汗掻くし」

「えっ!?」

「えっ!?」


 何だか互いに顔を赤くし無言になる。


「……それでねエイジ。鍛冶と言っても打って作るものは様々だわ。農具を中心にハサミなんかの日常品。鍛冶師は普通の人が想像する以上に色んなものを作って、ドワーフ以外の他種族にも流通させている」

「そうですね!」

「アタシがその中で、ここで何を作っていると思う?」


 その声音に、ほんのり妖しさを感じてエイジは戸惑った。

 ギャリコの個人工房には、クローゼットのようなものが三つも並んでいて、いずれも固く戸を閉ざしてあった。

 どうやら鍵までかけてあるらしい。

 その鍵を、ギャリコは一つ一つ開けていく。まるで着ている服のボタンを一つ一つ外していくかのように。


「この作品箱の中は、お父さんにも見せたことがない。他人に見せるのはアナタが初めて……」


 そしてギャリコは、ついにクローゼットの戸をガバリと全開にした。


「見るがいいわ! アタシの力作たちを!!」

「これは……!?」


 クローゼットの中に収めてあったのは、剣だった。

 剣。

 しかも一振りではない、三つのクローゼットがギチギチになるほど多数。


「凄い数の……、剣ですね。これ全部ギャリコさんが作ったんですか?」

「そうよ! アタシのライフワークよ!!」


 ギャリコが早口になりだす。


「鍛冶スキルを鍛えているのも、剣が打ちたいから! だからお父さんに頼み込んでドワーフの都まで行って修行した! アタシはね凄い剣を作りたいの! 今まで誰も作ったことのない凄い剣を!!」

「……あの、でも、何故剣なんですか?」


 エイジの素朴な疑問に、ギャリコの早口が止まった。


「武器って、各種族によって特色違いますよね? ドワーフ族が得意とする武器は、たしかハンマー。剣を使うのは……!?」

「そうよ、人間族よ」


 ギャリコの声が少し沈む。


「アナタも夕食で聞いたでしょう? アタシが昔人間の勇者に助けられたこと?」

「は、はい……」

「幼児体験ってヤツなのかしら? 助けられた時アタシは十三歳で、もう幼児って年頃じゃなかったけど、それでもあの時の体験はアタシに焼き付いた」


 ギャリコを助けた人間の勇者。

 その勇者が振るう剣。


「勇者が使っていたんだから、当然あれは聖剣ってヤツなんでしょうね。刀身が青くて、とても美しかった」

「はははぁ…………!!」

「アタシはあの時、聖剣の美しさに魅せられてしまったの。鍛冶を生業とするドワーフに生まれては、あの聖剣と同じくらいの剣を作りたい!!」

「それで、こんなにたくさんの剣を打っていると?」

「そうよ! ……エイジ!!」


 ガバリと、ギャリコがエイジに迫る。


「アナタ人間族よね!? だったら聖剣のことも何か知ってるんじゃない!?」

「えええ!? 知っていると言うか何と言うか……!?」


 人間族だったら誰でも聖剣のことを知っているというとは、けっこうな暴論である。

 しかし剣に恋する乙女の勢いは、多少の論理的躓きなどものともしない。


「お願い! 人間のアナタから見て、アタシの打った剣はどう? 少しでも聖剣に近づいてる!?」

「…………!」


 エイジは眉間にしわを寄せながら、クローゼット内に並んでいる一振りを選んで握り取った。

 その瞬間ギャリコの表情が輝いた。

 恐らくはエイジの取った剣が自信作の部類なのだろう。


「ちょっと離れて」


 部屋の中心に立って、切っ先がどこかに当たらないよう気を付けながらエイジはヒュンヒュンと剣を振る。


「わあ……!」


 剣を振る型の美しさに、ギャリコは思わず吐息を漏らした。


「……いい剣だ。柄が手によく馴染む」


 初めて握ったにも拘らず。


「重心もブレず、刀身がまっすぐ伸びていることがわかる。コイツなら試し切りで、兜割りも難なくこなせるでしょう」

「じゃあ……!」

「でも、聖剣には遥か遠く及ばない」


 エイジの率直な一言に、晴れかけたギャリコの顔がたちまち曇った。


「それはギャリコさん自身もわかっているんじゃないですか?」

「うん……。だってここにある剣は、ウチの鉱山でとれた鉄で作った剣だから……!」


 まったくその通りだとエイジは思った。

 鍛冶師の腕がどれだけよかろうと、たとえ鍛冶スキル値が1000を越えようと。

 ただの鉄を材料にしている限り、聖剣を超える剣は絶対に作れない。


「……でも、僕は凄く嬉しい」

「え?」

「僕と同じ目的を持つ人に出会えたから」


 エイジは、一度剣をクローゼットに仕舞ってから、ギャリコの手を固く握った。


「え? え?」

「ギャリコさん……! 僕がここで働いているのも、聖剣を超える剣を作りたいからなんです!!」


 突然の告白に、ギャリコの鼓動が速まる。


「いや、聖剣を超える、覇聖剣をも超える剣を……! そのためには鍛冶スキルを身に付けなければ、と思って鉱山集落に来た。そこで僕の望むスキルそのものを持っている人に出会えるなんて……!!」


 ギャリコにとっては唐突過ぎて混乱せずにはいられない。

 自分の秘密工房に初めて招き入れた他人がエイジだったのは、彼が人間族で、勇者の持つ聖剣と多少なりとも接点があるかも知れなかったから。

 エイジ当人から微かに感じられる、鋭い異常さも心惹かれる原因だった。坑道ではそれを悟られたくなくてあえてエイジに辛く当たったりもした。


 でも、ほんの少し心を許しただけでこんな急展開になるなんて……!

 ……と乙女ギャリコは大混乱だった。


「お願いですギャリコさん、僕をアナタの直弟子にしてください! 剣の打ち方を僕に教えてください!!」

「えッ!? いやあの……!? そんなこと、まずお父さんに相談しないと……!? お母さんにも……!?」


 この分だと程なく押し切られて「ウン」と頷くと思われた、その時だった。


「モンスターだ! モンスターが出たァァーーーッ!!」


 と言う声が集落外れの秘密工房にまで届いたのは。

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