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48 秘密の小窓

 高跳び用に特化した竹竿と、レイニーレイザーの刃羽を鏃とした実体矢。

 ギャリコの発想を元にして、届かぬ距離がどんどん縮まっていく。


「何だか行ける気がしてきましたね!!」


 指揮役を任されるセルンも、希望に心が浮き立っている。


「レイニーレイザーの再捜索は聖弓院のエルフ兵たちが進めていますので、我々はその間、本番に向けての調整を続けましょう。ドワーフの……、いえギャリコさん」


 エルフが、多種族を個人名で呼ぶことは非常に珍しいことだった。


「レイニーレイザーの羽で作った実体矢。出来るだけたくさん用意してください。実戦までに感触を体に覚え込ませておきたいので」

「わかったわ!」

「なあ嬢ちゃん! 竹竿の表面が滑るんだが、何かいい対策はねえか? 本番で失敗とか避けてえからよ!」

「だから嬢ちゃん言うな!! ……そうね、滑り止めに溝掘っとくのはどうかしら?」


 既にレシュティアもライガーも、ギャリコに一目置いて大いに頼っていた。


「凄いですギャリコ殿! アナタのお陰で勝機がどんどん高まります!!」

「アナタも働いてセルンさん?」


 とにかくも勇者たちは、使い慣れない新たな道具を自分の手足とするために猛特訓を始めた。

 ライガーの竹竿はともかく、レシュティアが得た実体矢は、鏃に宿敵レイニーレイザーの刃のごとく鋭い羽を利用したもの。

 モンスターを素材に作り上げた剣を魔剣とすれば、いわば魔矢と呼ぶことができる。

 エイジだけでなく他の勇者まで、作り上げられた魔の武器を使い、魔との戦いに臨もうとしている。


              *    *    *


「この辺でいいだろう」


 特訓はさらに突き詰められて、実戦に臨める最高水準にまで引き上げられていた。

 何故か最後の方は実戦形式の組み手となって、ライガー、レシュティア、セルンの三人がかりでエイジに挑みながら軽くあしらわれる形となっていた。


「かー! なんだよ情けねえ!」


 結局最後までエイジに一太刀も浴びせられず、ライガーが自分自身の情けなさを嘆く。


「三人がかりで一本も取れねえなんて、何が勇者だよ! 師匠強すぎ! 覇王級モンスターより強えよ!」

「いや……、その師匠ってのやめてくれない?」


 エイジが、シナイで自分の肩をトントン叩きながら言う。

 そもそもこの組み手を最初に希望したのはライガーだった。今回、ただひたすら高く跳んでレシュティアたちを上空に連れていくのが役目の彼。

 少しでも高く跳ぶためにも、必要なのはランススキルと跳躍スキルを上げること。

 それをもっとも速やかに行うのは、エイジのような強者とより実戦に近い戦闘経験を積むことだった。


 あとから「ズルい私も!」とセルンやレシュティアも加わって、今に至る。


「いいじゃねえか、アンタの戦いでは色んなことを学ばせてもらってる。だったら師匠と呼ぶのは当然だろ?」

「僕はそんな大した人じゃないんだけどね」


 ヒュンヒュンと音を鳴らして振り回されるシナイ。

『斬っても死なない剣』は練習にはもってこいの道具で、今はセルンもシナイを握って戦っていたし。ライガーが持っているのもギャリコが練習用に短く詰めた竹竿だった。


「本当に……、知れば知るほど、この方たちがわからなくなってきますわ」


 レシュティアだけはオーラの調整で当たっても安全なオーラ矢を放てるため、聖弓で実戦練習していたが結局一矢もエイジを掠めることすらなかった。


「かたや勇者をものともしない戦闘能力の持ち主。かたや斬新な道具を次々作り出すドワーフ。それに人間族の勇者まで加わって、まったくわけのわからない一行ですわ」

「そうかい? オイラは面白いけどな」


 勇者が素人に軽くあしらわれるなど、本来ならあってはならない不祥事だ。

 これが聖剣院であれば当人の勇者を召喚し、徹底的な査問が行われるところだが。

 他種族はそれよりずっと大らかなのかもしれない。


「ま、修行につき合ってくれてありがとよ師匠!」


 ライガーが汗を拭きつつ、指先で虚空に四角形を描く。

 その枠の中に現れる数値の羅列。


ライガー 種族:竜人

 ランススキル:1460

 筋力スキル:1300

 敏捷スキル:1159

 耐久スキル:810

 跳躍スキル:1450

 放浪スキル:430


「おおー、上がってる上がってる。ランスも跳躍もなかなかの上がり具合だぜ」

「ライガー! 何をやっているのです!?」


 浮かぶスキルウィンドウにレシュティアが声を荒げる。


「こんな場所でスキルウィンドウを広げるなんて! 人目があることを考えなさい!」

「今日の修行で、どれぐらいスキル値が上がったか一刻も早くチェックしたかったんだよ。いいじゃねえか」

「そうは言いますけれど、スキルウィンドウを人目に晒すのは手の内を知らせることと同義なのですよ。もう少し用心をもってですね……!」


『スキルウィンドウを見せるのは裸を見せるも同じ』という価値観からすれば、さしずめ今のライガーは風呂上がりに裸のまま歩き回るようなものだろうか。

 上品なレシュティアが顔を赤らめてしまうのも仕方がなかった。


「スキルウィンドウと裸は違うだろー? お互いの強さを確認するために、挨拶代わりに見せ合うのは当然じゃねえか?」


 それが竜人族の価値観らしい。


「見てくれよ師匠、ランススキルが前より20上がったぜ! 師匠に鍛えてもらったおかげだな!」

「……勇者としてもかなりいい数値だな。身体能力三大スキルも総じて高いのは、人類種の中でも特に強靭な竜人族ってことを顧みるべきか……」


 エイジも顎を撫でつつ、ライガーのスキルウィンドウに対し感想を述べるのだった。

 率直にライガーは、戦士として隙のない重厚な数値を持っている。


「なあレシュティア、お前さんのスキルはどうなってるよ?」

「はあッ!?」


 急に話を振られて、動揺するレシュティア。


「何故私に聞くのです!? まさか私にもスキルウィンドウを表示しろと!? そんな恥ずかしいことできませんわ!?」

「別に恥ずかしかねえだろ?」


 二者の反応がまったく異なるところに、種族の違いが見て取れた。


「スキルウィンドウってのは、要するにソイツがどれだけ強いかってことが一目でわかるモンだ。弱いヤツなら晒すのも恥ずかしいだろうが、レシュティアは勇者だ。強い。何を恥ずかしがるってんだ?」

「……ッ!?」


 レシュティアの顔がますます赤くなった。

 それは羞恥か、もしくは照れか。


「ケンカ自慢の竜人族と、お上品エルフの性格の差が、ありありと出ていますね」

「セルンのもあとで見せてくれよ! 師匠のも!」

「僕は笑われるのが嫌なので見せません」

「人間族は、すぐそうやって謙遜ってヤツするー」


 ギャリコに触れなかったのは、弱いと判断されたのだろう。

 強さは誇り、弱さは恥という竜人族の物差しで、気を使われたのだった。


「い、いいですわよ……!」

「レシュティア殿!? 無理はしない方が……!」

「こうなったら、この朴念仁に、私の奥底を見せつけてやりますわ!!」


 半ばヤケとなったレシュティアが指先で四角形を描き、そこに浮かび上がる数値の羅列。


レシュティア 種族:エルフ

 アロースキル:1350

 筋力スキル:800

 敏捷スキル:1200

 耐久スキル:690

 感覚スキル:1520

 恋愛スキル(→ライガー):43


 それがレシュティアのスキルウィンドウに浮かび上がった数値だった。


「おおッ! なかなか高えッ!?」


 目にしてライガーは小さく喝采。


「勇者として標準的な数値だな。筋力耐久が低いのは、女の子としては仕方ないか」

「私の筋力スキル値1000越えてるんですが!?」

「耐久高いドワーフ女子にケンカ売ってる!?」


 お馴染みのエイジ寸評から飛び火してセルンギャリコが騒ぎ立てる。


「アロースキルと感覚スキルはさすがの勇者的数値。これから始める作戦には充分だな」

「ありがとうございます……! でも……!」


 スキルウィンドウの一番下に浮かぶ、まったく関係なさそうなスキル項目。


「恋愛スキル……!?」

「これは……!」


 セルンギャリコが固まる。

 使用頻度が高いスキル上位六種が問答無用に映し出されるスキルウィンドウにおいて、こうした見たいものとはまったく関係ない種類のスキルが出てしまうのはよくあること。


「心理スキルの一種だね。誰かに恋すると浮かび上がるスキルなんだ」


 エイジがいつもの説明を始める。


「これが意中の相手ともども100まで上がると、神に認められて結婚できる」

「レシュティアさんの恋愛スキルは43……!?」

「100で結婚できるなら結構な数値と言えますね……!?」


 全員が微妙な顔つきになってしまった。

 スキルウィンドウの公開は、こういう事故が起こりかねないので皆やらないのだ。


「心理系スキルは上限が100までしかないからなかなかスキルウィンドウには載らないんだけど……!」


 しかもカッコ内に刻まれた文字は(→ライガー)。

 つまりこの恋愛スキルはライガーへ向けられたものだった。


「え? オイラ……!?」

「バカッ!!」


 恥ずかしさのあまりにレシュティアは駆けて行った。

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