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47 万能物質

 それから小一時間経過。

 ライガーは、地面に並べられたそれを胡散臭げに見下ろしていた。


「……なんだこれ?」

「アナタが薙ぎ倒したバンブールの幹よ」


 エルフたちが、自分の勢力圏内で品種改良を施しながら育てたという竹の近類種。見た目的にはほとんど竹と変わらないが、改良されている分強度も上がっているらしい。


「で、そんなもん持ってきてどうするつもりだよ?」


 ギャリコが用意したのは、エイジにライガーが挑みかかったケンカで巻き添えを食らい、折れたり倒されたりしたもの。

 調整林の持ち主であるエルフたちも、残骸の二次利用にまでとやかく口出しはしなかった。


「アナタのジャンプを見て思ったのよ。アナタって聖槍を地面に突き立てて、その反動で高く飛ぶでしょう?」

「ああ。聖槍院に古くからある由緒正しいランススキルだぜ。『ランス・ポール』っていうランススキル値10程度で覚えられる初歩技だ」


 竜人族は、それに自分たち特有の跳躍スキルを加えて想像を絶する高さまで飛び上る。

 すでにその模様は、何度となくギャリコたちの前で披露されてきた。


「で、それを見て何を思ったんだい、ドワーフの嬢ちゃん?」

「嬢ちゃんはやめてよ。……アナタのその槍、スキルを活かすのに合ってないんじゃないのかって」

「はあッ!?」


 心外とばかりに声を荒げるライガー。


「オイオイ、何も知らねえ素人だからって言っていいことと悪いことがあるぜ! これは聖槍。竜人族を守る使命を帯びた青の聖槍だ!」


 その最強武器である聖槍が……。


「竜人の勇者の力を活かせないって、んなわけねえだろ!!」

「熱くならないでよ。たしかに聖槍は最強クラスの武器だわ。モンスターを倒すのに欠かせない攻撃力を持っている」


 しかし最強の武器が、高く跳ぶための道具としての機能も、最高水準であるとは限らない。


「機能は、先鋭化すればするほど余計なものを削ぎ落とすものよ。アナタの棒高跳びに必要なものは、地面に突き立てた棒が持ち主に返す反動」

「う……ッ!?」

「それには棒自体にしなりがあればあるほどいいけれど、聖槍の柄にしなりなんかあったらダメでしょう? 敵に突き刺した時、その押す力を柄自体が吸収しちゃうから」


 それでは貫けるものも貫けなくなってしまう。


「あと長さね。強いしなりがあるほど強い反動が起きて高く跳べる。なら強い反動を得るために一番簡単なことは棒を長くすること。でも武器としての槍には、攻撃や防御に適した長さがあるわ」


 あまり長くなっては、懐に入られた時の対処ができなくなる。

 長すぎる槍は武器としての機能を果たさず、適切な長さ短さが追及されなければならない。


「つまり、槍には槍に適した特性、高跳び棒には高跳び棒に適した特性があって、それは別だってことか?」

「それで用意したのが、この竹よ」


 竹の幹が、それ自体しなりを持っているのは既に知られていた。


「あとは高く跳ぶにもっとも適した太さ長さを、アナタの目で選び出してほしいの」


 竹は自然のものであるから太さもまちまちで、長さもまた成長段階や、戦いの巻き添えで折られた状態から様々なものがあった。

 断面などはギャリコの手で整えられ、枝も綺麗に落されている。


 ライガーは、その中から真剣な面持ちで一本選び出す。


「これだな」


 太さは、親指と人差し指がしっかり輪になって繋がるぐらいの標準的なもの。

 対して長さは、当人が使い慣れた聖槍の二倍以上はあった。


「それでいいの?」

「わからねえ。それをこれから試すのさ。とりあえずある中で一番長いのでやってみよう」


 ライガーは選んだ竹の柄をかまえると、真剣な面持ちで助走を始める。

 たたたたた……、と軽快な足取り。


「ランススキル『ランス・ポール』!!」


 これまで、他スキルと併用して叫びすらしてこなかったスキル名を口にする。

 それだけジャンプそのものに集中しているということだった。

 地面に突き立てられた竹の柄が、それこそ弓のようにしなる。

 その反動を一身に受けて。

 ライガーはバッタのように高く跳んだ。


「おおおおおおおおおおおおおッ!! すげえええええええッ!?」


 間違いなくこれまでで一番の高度。


「こんだけ跳んだのは初めてだぜ! 道具を変えただけでこんなにも違うのかよ!?」


 上空で大喜びのライガー。


「聖槍で跳んだ時の、一.五倍は高いな……!」


 地上から見上げて、エイジもさすがに感嘆した。


「それでも本番時はセルンさん、レシュティアさんという重りをつけて跳ぶわ。道具の切り替えは、その分を相殺するぐらいと思った方がいいかも」

「「重くないです!!」」


 何度でも厳重に抗議する乙女たちだった。


「それでレシュティアさん、アナタの方にも用意しているものがあるの」

「え?」


 ギャリコがレシュティアに手渡したもの。

 それは一本の矢だった。


「実体矢……!?」

「聖弓が生み出すオーラの矢、あれを見て思ったの。あれはオーラの力を攻撃と推進、二つのことに使っているって」


 だからこそレイニーレイザーへ向けて矢を放った時、勢いを失うとともに輝きを減少させ、最後には消滅した。


「もし聖弓で実体のある矢を放てば、オーラの力は推進力だけに使われる。そうすればもっと遠くまで矢を飛ばすことができるんじゃない?」

「そうすれば射程距離が広がり、レイニーレイザーを捉えられるかもしれない、と言うことですね!?」


 セルンが期待に声を弾ませるも、矢を持つ当人は表情暗い。


「失礼ながら、それは素人考えに過ぎませんわ」

「えッ!?」

「たしかに理屈は合っています。アナタの考える通りに射程距離を伸ばすこともできるでしょう。でももっとも大事なことが欠けています」

「普通の武器では、モンスターを傷つけられないということ?」


 ギャリコから指摘されたことに、レシュティアはわずかに鼻白んだ。


「わかっているではないですか……! その通り、聖弓がオーラの矢を飛ばすのは、ただ無限に矢を放てるという理由だけではありません。聖弓の聖気が交じったオーラ矢でなければ、モンスターの毛皮や甲殻を貫通できないからです!」


 だからエルフ族の聖弓の勇者は、聖弓からオーラの矢を放つ。

 実体矢を使用して、そのオーラをすべて推進力に回しても、通常物質にモンスターを傷つけることができない限り命中しても意味はない。


「レシュティアさん。この矢の先端をよく見てみて」

「は? ……ッ!? これはッ!?」


 矢の、鏃に使われているものに見覚えがあってレシュティアは驚愕した。


「この鏃……! レイニーレイザーの羽ではないですか!?」

「アイツが思っくそ降らせたものを、あとで拾い集めたの。シャフト部分は、バンブールを細かく裂いたものよ」


 ここでも何気に活躍している竹。


「アタシたちは既に実証しているの。聖なる武器以外では傷つけられないモンスターも、そのモンスターの体で作った武器なら倒せるって」


 レイニーレイザーの羽は刃のように鋭い。同モンスターの最強武器。


「ヤツ自身の体から出たものなら、必ずヤツにダメージを与えられるわ! レシュティアさんこれで、レイニーレイザーに一矢報いて!!」

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