46 四種目の協力者
竜人勇者のライガーが、エルフ勇者のレシュティアを抱えて飛べるか実験中。
跳躍。
「うおおおおおおお~~~~~~~ッ!! ジャンプッッ!!」
「きゃあああ~~~~~~~~~~~ッ!? 高い高い高いッ!?」
ジャンプ力こそ自慢の種たる竜人の面目躍如と言ったところか。
人一人を抱えていながら実によく高く飛ぶ。
「きゃあああああッ!! 怖い! 地面があんなに遠くに! これ落ちらたら確実に死にますわ!!」
「着地もオイラが世話焼いてやるから心配するな!! それよりも矢を射ろ矢を! それを検証するために飛んだんだろうが!」
「んもおおおお! やってやりますわ!!」
ライガーに腰を支えられている状態で、レシュティアは聖弓を実体化させ、その弦を引き搾る。
「アロースキル『正鵠ノ射』!!」
オーラを集中して形作られた気矢が、光の軌道を描きながら放たれる。
一射、二射、三射…………。
空中に留まっている間に何と五射まで放つことに成功。
「そろそろ限界だ! 落ちるぞ!!」
「ひゃああああああッ!? 怖いいいいいいッ!?」
重力に引かれてひゅるるる…、と降りてくる。
さすがのライガーも、人一人を抱えての着地には慣れていないのか、ズドンと体から落ちる。
「ぐああああああッッ!?」
「のおおおおおッ!?」
しかもそれだけでは衝撃を押し留めきれず、地面をゴロゴロ転がるのだった。
「あだッ!?」
結局その辺の木の幹にぶつかって、やっと止まったのだった。
「あだだだだッ!?」
「ライガーさん……、レシュティアさんを抱きかかえたまま自分の背中で木にぶつかりに行ったわ!」
「レシュティア殿を庇うため……? 紳士ですね……!!」
かくして検証終了。
各自の所見を話し合うことになる。
「どうでしたレティシア殿?」
まずは作戦の中核から意見を求める。
「たしかにライガーさんに上空へ連れて行ってもらったことで、標的に近づけるようになったのは事実です。上空での射も思ったよりスマートにできました」
でも……、とレシュティアが表情を曇らせる。
「それでも、レイニーレイザーには通じないと思います」
「えッ? 何故!?」
「単純に、まだ距離が足りません」
それは純粋な力不足だった。
ライガーのジャンプに加え、レシュティアの正確無比な飛び道具の飛距離を合わせても、まだレイニーレイザーのいる高度には届かない、ということ。
「私たち聖弓の勇者は、いかなる的でも射抜けるよう空間把握能力も感覚スキルで研ぎ澄まされています。その感覚が教えるのです。先の戦いで記憶したレイニーレイザーのいた高さに、私の矢はまだ十間は及びません」
聖弓を使用した遠当てのスペシャリスト。人類種一の感覚スキルを持つエルフのレシュティアが言うからには間違いないだろう。
「だとしたらキツイな。レシュティアを乗せたあのジャンプ、オイラにとっちゃ全力だった。あれ以上の高度を出せと言われても、簡単には無理だぜ」
「私も、あれ以上遠くへ矢を飛ばすのは……。地道にアロースキルや筋力スキルを上げる以外に手は……!」
真っ当なやり方では、一朝一夕に飛距離を上げることは出来なさそうだった。
「まだ問題はある」
そこへ沈黙を守っていたエイジが割って入る。
「キミたちは高度不足ばかりに目が行っているようだが、この作戦、他にも実行困難な要因があるぞ」
「え? それは……!?」
「レイニーレイザーが、こちらの接近する間、何もせずに待ち受けてくれると思っているのか?」
「はッ!?」
その指摘に全員が凍りついた。
たしかにそうだった。あの憶病で狡猾な覇王級モンスターが、みずからを討伐しようとする危険の接近を、黙って見過ごすはずがない。
「何故今まで気づかなかったのです……!?」
セルンがワナワナと拳を震わせるのは、自分の迂闊を責めてのことだった。
「必ずやあの刃羽の雨を降らせて、接近者たちを迎撃してくるだろう」
「オイラがランススキルで防御するのは難しいぜ。ジャンプ中は姿勢制御に集中したいから、下手に防御にリソースを割いたらジャンプの勢いが止まっちまう」
「では……!」
すぐさま対策を立てるセルン。
「私も一緒に乗せて飛んではくれませんか?」
「ええッ!?」
「防御役を私が務めます。敵が撃ち出す刃の羽は、私のソードスキル『一刀両断』で弾け散らして見せます!」
「そ、そりゃいいけど……! ただでさえレシュティアが重いのに、アンタまで乗せて飛ぶのかい? さらなる重量過多でジャンプ高度が落ちるんじゃ……!?」
「重くありませんよッ!!」
「重くないですわッ!!」
ライガーの不用意な発言によって乙女二人が激発した。
しかしどう考えてもセルンまで乗せて飛ぶのはウェイト追加に他ならず、重くなった分ジャンプ高度が下がるのは不可避。
益々最重要目的から遠ざかってしまう。
結局、翼をもたない人類種は、どう足掻いても天空に届かないのか。
人類であることを超越した人類――、覇勇者でもない限り、対抗不能なモンスターにはどうあっても対抗できないのか。
モンスターを討ち破る使命を持った勇者たちに、無力感と悔しさが広がる。
「そこで、別の方面からアプローチしてみるのはどうだろう?」
その重い空気に一石を投じたのはエイジだった。
今回はセルンたちに任せて何もしないと決め込んだようだが、助け船のつもりだろう。
「別の方面からの、アプローチ?」
「どういう意味ですの?」
ライガー、レシュティアも大いに戸惑う。
「このパーティには、キミたちとはまた違う毛色の技能を持った子がいるということさ。あらゆる個性を組み合わせてこそ、兵法スキルも刺激されるだろう」
そう言ってエイジが肩をもって押し出したのは、ドワーフの女性ギャリコ。
「ギャリコ殿!?」
セルンの声が躍った。
「そうですアナタがいました! どうかアナタの腕を私たちにお貸しください!!」
「え? え? ええええ……ッ!?」
いきなり迫られ戸惑うギャリコ。
「アナタの魔剣を発明した発想力、卓越した鍛冶スキルは、この戦いでもきっと役に立つはずです! 何か、これまでの流れで気づいたことはありませんか!? どんな小さなことでも言ってみてください!!」
藁にも縋るような迫力のセルンだった。
「セルンも『利用できるものは何でも使え』と言う兵法スキルの基本精神が身についてきたねえ」
生暖かく見守るエイジだった。
そして救世主扱いされたギャリコも戸惑いつつ……。
「だったら……! 実はもう思い付きがいくつかあるのだけれど……!」
「もう!?」
相変わらず鍛冶師としての仕事が早かった。
「じゃあ、ちょっと準備があるから少し待っててくれる?」





