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45 作戦会議

「そ、そうは言いますが……!?」


 セルンの困惑は、傍から見る者が痛々しく感じるほどだった。

 ライガーとレシュティアと自分自身。この三人を組み合わせて覇王級モンスターを打ち破る作戦を立ててみろ、とは言うが。

 自分には荷が重いと、表情が語っていた。


「エイジ様はもう既にレイニーレイザーを倒す秘策を組み終えているのではないのですか? 私たち三人だけでも実行可能な?」


 当人は頑なに拒もうが、エイジは実力的にも文句なしの覇勇者。兵法スキルもセルンを遥かに超えたスキル値を保持しているはずだった。

 そんなエイジならば、恐るべき覇王級モンスター相手でも、その攻略法を一つならず思いついていても不思議ではない。

 実際に演じてみせたソードスキル『木の葉渡り』を使用する方法以外にも、色んな方法でレイニーレイザーを殺すことができるはずだ。


「…………」

「…………ッ!?」


 しかしあえてそれをせず、作戦立案からセルンに譲るのは、後進の成長を促すのが目的。

 自分が試され、同時に信頼されていることを感じるセルンは、逃げたくても逃げることができなかった。


「……一つ、思い付きがあります」


 とにかく何でも言ってみるしかないと口を開くセルン。


「ライガー殿のランススキル『メテオ・フォール』はとても強力でした。圧倒的オーラ量を込めた聖槍で、遠距離の敵を爆砕できる」

「ほう」

「エイジ様と戦った時、ライガー殿は槍を上から下へと投げ下ろしましたが、あれを水平もしくは上方向に向かって投げることはできないのでしょうか?」


 その指摘に、周囲で聞いていたレシュティアやギャリコも「あッ!?」と唸る。


「そうよ! ライガーは跳躍スキルで高く飛んで、その分あの鳥との距離を縮めている!」

「そこからさらに槍を投擲すれば、届く可能性も充分ありますわ!!」


 跳ぶだけでは届かない。

 飛ばすだけでは届かない。

 しかしその両方をかけ合わせれば、天高き安全圏に居座る鳥に、一撃食らわせることができるかもしれない。


「だってさ、どうだいライガー?」


 セルンの案を受け、エイジが当のライガーへ打診を送る。

 しかし今の面子でもっとも明快な、ある意味ムードメーカーになりそうな男は起死回生の案に表情を輝かせなかった。


「…………」

「やはり無理か」


 エイジの断言に、波紋が広がる。


「ランススキル『メテオ・フォール』は、一度跳躍してから真下に向かって槍を投げつける」


 何故そんな面倒な段階を設けるのか。

 かつてエイジは、その理由を二つ上げた。


「まず一つは、どんな生物にとっても死角である頭上をとるため。二つにはスキルが引き起こす大爆発に自分自身が巻き込まれないよう距離を取るため」

「…………」

「そして三つ目の理由があるな?」

「……何でもお見通しってわけかよ。もうアンタには感心しすぎて溜め息も出ねえ」


 二人の会話に、他の者たちは真意も読めず戸惑うばかりだった。


「いいさ、オイラの口から説明させてくれ。恥を晒すにも自分でやる方が少しは潔いさ」

「ど、どういう意味です?」

「オイラの『メテオ・フォール』にゃ、まともな命中精度なんてないんだよ」


 その告白に、全員が息を呑んだ。


「どっかに狙って当てるなんて、まったく無理。とりあえず方向だけ定めて、投げつける。それだけのスキルなのさ」

「僕に対して放った二投も、的である僕自身から完全に外れていた。二投目なんて、『燕返し』で打ち落とすために自分から当たりに行ったぐらいさ」

「『メテオ・フォール』を上空から投げ下ろす、アンタの言う理由三つ目……。というか最大の理由は、その命中精度のなさをカバーするためなんだよ」


 標的に命中しなくても、とにかくどこかに当たれば槍身に込められたオーラが放出されて大爆発を起こす『メテオ・フォール』。

 上空から真下に向かって投げつければ、とにかく地面には当たって爆発する。

 倒すべき敵もその近くにいて、爆発に巻き込ませる可能性は高いだろう。

 これが水平もしくは上方向に飛ばし、標的を外せば、槍はずっと向こうに通り過ぎていって爆発の余波にすら巻き込めない。


「じゃあ、上空高くを飛ぶレイニーレイザーには……!?」

「まず当てられねえだろうなあ。的が止まってても命中させられる自信はないし、何より空はアイツのフィールドだ。アイツ自身の回避能力だって高いだろう」


 思えば先ほどレイニーレイザーと戦った際、実際にジャンプだけでは届かなかったライガーは苦し紛れでも槍を投擲することはできたはず。

 それをやらなかったということは、それなりの理由があった。


「私はそのことに、もっと早く気付くべきでした……!」


 消沈するセルン。

 そんな彼女に大勢が取り囲む。


「そ、そう気を落とすなよ! 最初に言わなかったオイラも悪かったんだしさあ……!」

「そうですわ! 遠くの的も射抜けないなんて、それでよく遠距離攻撃などと言えたものです! 竜人はもっと謙虚さを知るべきですわ!!」

「んだとッ!?」


 慰めているうちに、何故か口論になる二人。


「私は事実を言ったまでですわライガー。やはり遠くの的を射抜くことにかけてはエルフのアロースキルこそが独壇場。どんなに離れたどんな小さな的でも射抜いてみせます!!」

「へッ! だったらその自慢の弓矢でレイニーレイザーも射落としてみろやレシュティア!」

「うッ!?」


 痛いところを突かれたとレシュティア、表情が歪む。


「テメエがその自慢の弓でクソ鳥落とせたら、最初から苦労はねえんだよ! 自慢なら役に立ってからしやがれ!」

「煩いですわね! あの鳥に関しては、矢の届く範囲にいないのが悪いのですわ! 矢の勢いが衰えない範囲にいれば、必ず当てて見せますのに!」


 ライガーは、持ち前の跳躍スキルである程度まではレイニーレイザーに接近できる。

 そこからさらに投槍で攻撃できると思ったが、命中精度に難ありで実行不可能。

 かたやレシュティアは、自慢のアロースキルは百発百中で的を外す恐れはない。しかし、的まで矢を届かせるパワーが欠けているために、結局レイニーレイザーは倒せない。


「レシュティア殿に、ライガー殿並のジャンプ力があれば、矢の射程範囲まで接近することもできるのでしょうが……!」


 跳躍スキルは竜人族の固有スキル。

 それをエルフ族に求めるのは不条理というものだった。


「……あ!」

「ん?」「どうしたのです?」


 その時、セルンに電撃的な閃きが起った。


              *    *    *


 そして、その閃きが実行可能かどうか、検証開始。


「おいおいおい! 本気かよ!?」


 ライガーが喚くように言う。


「オイラの跳躍力と、レシュティアの命中精度を合わせる! 言いたいことはわかるけど、これ重い! 想像以上に重い! これでそんな高くジャンプできんのか!?」

「ちょっと失礼なこと言わないでください! 私はそんなに重くありません!」


 ライガーの背中にヒッシリとしがみつくレシュティア、怒りの訴え。


「アナタこそ、私を乗せたままキッチリジャンプできるんでしょうね!? 竜人族は粗暴な方が多いですから振り落とされないか不安ですわ!」

「うっせえ! 不安ならしっかりしがみついてんじゃねえ! クッソ柔らかい……!? 色んな所が密着している……!?」

「不安だからこそ全力でしがみついているのです! 上空で落とされでもしたら堪りませんわ……! でも、男の方に抱きつくなんて人生初めて……!!」


 セルンが提案した秘策。

 それはライガーがレシュティアを抱えたままジャンプするというものだった。

 ライガーの跳躍である程度目標に近づいて……。

 そこからレシュティアが弓矢で狙い撃つ。

 地上からでは勢いの届かないレシュティアの矢も、ライガーのジャンプである程度距離を縮めれば、的への到達は可能かも知れない。

 そう考えての連携行動だった。


「とにかく試してみましょう! まずは実際ライガー殿にレシュティア殿を抱えて飛んでもらい、安定性などを検証してみます!!」


 足場の不安定な空中から、しっかりとレシュティアが的を射抜けることが実証されれば。いよいよレイニーレイザーへ仕掛けられる。


「協力すると決めたからには、やるだけやってやるさ……! レシュティア、しっかり掴まってろ!」

「だからさっきから全力で抱きついてるじゃないですか!! 絶対、絶対落とさないでくださいよ! 実は私高いところ苦手なんです!!」


 喧嘩自慢の竜人と、高慢なエルフの本来ありえぬ共同作業。

 種族の垣根を超えた強敵への挑戦が、今ここに始まった。

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