44 力を合わせて
聖剣を使う人間族の勇者セルン。
聖槍を使う竜人族の勇者ライガー。
聖弓を使うエルフ族の勇者レシュティア。
この三人で力を合わせて覇王級モンスター、レイニーレイザーを討つ。
「そんな……! ありえませんわ!!」
まずレシュティアが混乱とともに反発した。
「異種族の勇者で手に手を携え戦うというんですの!? そんなの、各種族のプライドを踏みにじる行為ではないですか!?」
「僕はその手の理屈が一番嫌いだ」
エイジは声を静かなまま言う。
「プライドって何だ? 守るべき人々を、モンスターに好き放題食い荒らされて何もしないことの方が、プライドのない恥知らずな行為じゃないのか?」
「うう……!?」
「守るべきものを守れない屈辱に比べれば、他種族の手を借りることなんて屈辱でも何でもない。違うと言うならキミは勇者じゃない」
「それは……!?」
厳しい言葉の数々に、レシュティアはどんどん縮こまる。
「可愛い女の子をいじめ倒すのは、あまり感心しねえなあ」
そんなレシュティアの肩に手を置き、優しく支えてやる者がいた。
竜人族の勇者ライガーだった。
「でもアンタの考えにオイラは賛同するぜ。なあ、レシュティア?」
「ライガー……?」
「元々オイラたちの憧れる『青鈍の勇者』だって、そんな考えの下に戦ったんじゃねえか? 分け隔てなく、どんな種族でも助けてくれたんじゃねえか?」
人類種の間に広く伝わるという『青鈍の勇者』の伝説。
その虚像に純粋な憧れを持つ者たちが、今こうして戦う力をもって集っている。
「同じ人に憧れるオイラたちなら、けっこう上手くやれるかも知れねえ。どうせ一人じゃ無理なんだ。だったら皆で頑張ってみようぜ!」
自分の肩へ置かれた手に、自分の手が重ねられているのを、レシュティア自身気づいていないようだった。
「……あるいは、他の方法がないわけでもない」
「えッ!?」
エイジの唐突な発言に、レシュティアはさらに揺れる。
「何のかんの言ってもレイニーレイザーは覇王級モンスターだ。それがエルフの勢力圏に現れた以上、もっとも筋が通るのはエルフ族の覇勇者がアレを倒すことだ」
「!?」
エルフ族に神から聖弓が与えられ、それを管理する聖弓院がある以上、他種族同様、覇聖弓を使うエルフの覇勇者がいてもおかしくない。
「レシュティア、キミは通常の聖弓を与えられた通常の勇者だ。より格上の覇勇者を呼んで、ソイツに後を託すのもけっして恥ずかしい選択じゃない」
「……それは、できません」
悲しげに言う。
「エルフ族の覇勇者トーラ様は、御年百七十歳のご高齢。体を壊し、もう無理はできないというのに、覇聖弓はまだあの方を解放してくれない……!」
「……ウチも似たようなもんだなあ。長老ジジイが『お前らが不甲斐ないから、覇聖槍がワシを離してくれんのじゃ! てやんでい!』ってボヤいてやがる」
「トーラ様に養生いただくためにも、私が簡単に音を上げてはいけないんです! ……承知しました」
レシュティアは威儀を正し、そこにいる全員に向けて深く頭を下げた。
「皆さん、どうか助けてくださいませ! 私と一緒にレイニーレイザーを倒してください!!」
気高すぎて他種族との交流を断ってしまうほどに誇り高いエルフ。
そのエルフであるレシュティアが、竜人族であるライガーや人間族であるセルンに対して頭を下げる。
それは並の決意で出来ることではなかった。
「だからオイラはやるって言ってるだろ。頭を下げる必要なんざねえよ。……なあセルン?」
「ええッ!?」
話を振られて戸惑うセルン。
「アンタは何も言ってねえが、どうするんだい? やるのか、やらねえのか? アンタも種族のプライドとやらが邪魔して戸惑ってんのかい?」
「まさか、私もやります!」
力強く断言した。
「自種族さえよければいい、という聖剣院の方針には、私も忸怩たる思いでいたのです。エイジ様と再び行動を共にするようになって、その思いはさらに強くなりました」
「おお、言うねえ」
「この共同戦線に、私も是非参加させてください! 皆で人類種共通の脅威を打ち砕きましょう!!」
三つの異なる種族の手が重なった。
ここにエルフ、竜人、そして人間族の共同戦線が発足したのだ。
「……ただ」
セルンの声が早速萎む。
「具体的にどうやって、あの鳥に立ち向かえばいいのでしょうか? 私たちの攻撃はどれ一つも届きませんでした」
「それをキミが考えるのさ」
エイジが挟む言葉に、セルンの表情が煤ける。
「やっぱり……?」と言った風に。
「竜人族のライガー、エルフ族のレシュティア、そして人間族のキミ。槍、弓、剣。それぞれまったく違う個性を組み合わせて、レイニーレイザーを倒す戦術を組むんだ」
ソードスキル『一刀両断』のみを特化し、他のソードスキルを使えないセルン。
それゆえに多種多様なソードスキルを使い分ける戦術を組めず、兵法スキルが伸び悩んでいた。
「スキルの代わりに個性豊かな人材を組み合わせて、キミの兵法スキルを大いに刺激させるんだ。ソードスキルや身体能力スキルだけじゃ足りない。兵法スキルも伸ばさなければ覇勇者への道は開けない」
義に寄って立つだけでなく、冷静な分析を元にピンチを成長の機会に変えようとするエイジの判断の苛烈さ。
「セルン、キミの兵法スキルを見せてみろ。ライガーとレシュティアを使い。どうやったら不可能を可能にして覇王級モンスターを倒せるのか。キミが可能性をこじ開けるところを僕は見たい!!」





