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42 刃の雨

「なんだよそれ!?」


 詐欺にあった被害者のようにライガーがわめく。


「そんなズルい理由で覇王級なのかよあの鳥!? モンスターのくせに正々堂々戦えよ!?」


 とはいえモンスターもまた自然界の一部。自然淘汰の競争で生き残るのに卑怯も正々堂々もない。


「まだです! まだ手はありますわ!!」


 レシュティアの瞳は、まだ戦意を灯していた。


「攻撃も届かない射程距離外に逃げられるのだとしても! 自分から攻撃してくる時には接近しなければなりません! 人類種を襲うのはモンスターの本能であるからには、ヤツだって私たちを無視して何もしないなんてありませんわ!!」


 地上にいる自分たちを攻撃しに来た瞬間、カウンターを食らわせる。

 それがレシュティアの見出した起死回生の策だった。


「だがそれも甘い」


 エイジには次に起きることが予測できていた。

 上空に座したまま、大きく広げた翼を羽ばたかせる凶鳥。

 その羽ばたきと共に何かが高速度で放たれる。しかも一つと言わずいくつも。

 それらは少しも速度を損なうことなく、レシュティアやライガーのいる地表に降り注いだ。


「きゃああああッ!?」

「なんだッ!? なんだこれッ!?」


 地表着弾と共に土煙が上がり、軌道上にあった木の幹や枝は無残に斬り裂かれて弾け倒れる。

 刃のごとき鋭さで降り注いだそれは真実、刃だった。

 カミソリの輝き、斬れ味を持った鳥の羽。

 レイニーレイザーの翼から離れて射出された羽が十数枚。雨のように降り注いで地表を攻撃したのだった。


「レイニーレイザーが覇王級に認定された理由その二だな」


 さらなるエイジの説明が入る。


「さっきレシュティアが言ったような対応法を試みた勇者は、過去にもたくさんいたよ。でも誰一人として成功しなかった。レイニーレイザーが攻撃時にも近づいてくることはなかったからだ」

「この飛び道具のせいでか!? くそッ!!」

「羽毛が硬質化したものと言われているレイニーレイザーの羽根は、鋼鉄の硬度を容易く超える。そのくせ軽さは羽毛のまま。カミソリのような鋭さだけで空気を斬り裂き直進し、大抵のもの貫通するか斬り刻むというんだから。まあ覇王級の名に恥ずかしくない凶悪さだ」


 レイニーレイザーの刃の羽は、上から下へと打ち下ろされる。

 羽毛が変質して固まり、鋼鉄以上の方さ鋭さを得た羽。

 重力が加速を手伝うため、地表からの攻撃のように途中で失速してしまうこともない。

 この刃の羽があるおかげで、レイニーレイザーは常に空中から一方的に攻め続けることができる。


「うぎゃあッ!?」


 そうしている間にも、刃の雨は夕立の激しさで降り注いでいた。

 地上の勇者たちは逃げる防ぐだけで精一杯だった。フィールドが森であることを幸いと木陰に隠れても、斬り裂く刃がすぐさま木を丸ごと木屑に変えてしまう。


「どんだけ大量放出してるんだよあの鳥!? あんだけ羽撃ちまくったらすぐハゲちまうんじゃねえか!?」

「レイニーレイザーは羽毛の強い再生能力を持つ! 刃の羽は撃ったそばから生え変わるんだ! 弾切れはないぞ!」


 物陰に隠れて凌ぐということもできず、追い詰められていく勇者たち。


「くそぉ!! ランススキル『ローター・シールド』!!」


 ライガーは、槍の柄を高速回転させることで盾とし、刃雨の猛攻を防ぐ。

 だが、そこに居合わせた全員が都合よく有効な防御法を持ち合わせているわけではなかった。


「くぅ……ッ!? ちょ、ちょっと待って……!?」


 特にレシュティア。

 聖弓は長距離からの狙い撃ちは強力でも、一点防御に回ると脆い弱点を持っていた。

 防御に特化したアロースキルもないではないが、勇者としてまだ若いレシュティアはそこまで修得に至らず、刃の雨の中を逃げ惑うしかない。


「あうッ!?」


 その白い足を刃の羽が掠め、痛みに耐えきれず転ぶ。

 うつ伏せの体に、それでも容赦なく刃の雨は降り注ぎ、このままでは剣山と化してしまうと思われた寸前……。


「ソードスキル『一刀両断』!!」


 青の聖剣から放たれる膨大なオーラが、突風と化して刃の雨を吹き飛ばす。

 セルンが、レシュティアを庇うように前に出た。


「アナタ……ッ!?」

「私の後ろに隠れて! ソードスキル『一刀両断』!」


 上段から振り下ろす小細工なしの一閃。込められたオーラを刀身に纏わせ切断力を上げることもできれば、衝撃波として放出し広範囲を薙ぎ払うこともできる。

 それを利用して刃の雨を蹴散らすのは、もっとも応用範囲の広い基本スキルの面目躍如だった。

 しかし、当然ながら上空高くに留まるレイニーレイザーまで刃は届かない。


「どうする? これじゃ……!?」

「ジリ貧です……!」


 ライガーもセルンも、スキルを使う以上は体力を消費し、体力が尽きれば刃の雨も防げなくなる。

 かと言って遠くの敵にまで届く攻撃手段を持たぬ彼らには、有効な状況打開策もない。


「……『威の呼吸』」


 打つ手なし……、と思われたところへ。


「ソードスキル『燕返し』」


 翻る刀身が、正確に刃の羽に当たり、撃ち落とす。

 それを何回も連続で。


 ギャリコを背中に庇い、エイジがソードスキルで正確に刃の羽を打ち落としているのだった。


「ギャリコ、僕の背中からはみ出さないでくれよ。そこにいる限りキミは安全だ」

「大丈夫、何があってもエイジを信じてるから」


 圧倒的なパワーやスピードで刃雨を散らすのではなく、正確に一羽一羽を狙って撃ち落とす。

 その動きはスマートで、ライガーやセルンより遥かにスタミナ消費が少なく見える。


「あのソードスキル……!? オイラの『メテオ・フォール』を撃ち落としたのにも使った……!?」

「『燕返し』は、ソードスキル値1000以上でないと習得できない高位スキルです」


 自身も防御の手を休めずに、セルンが言う。


「投擲、射撃などの遠距離攻撃を撃ち落とすための防御スキルですが、高速移動する物体へ正確に刃を当てられること自体至難の業。その名の通り、飛び交うツバメを斬り裂くがごとき絶技です。聖剣院の勇者であろうと修得し、まして実戦で使用できる者などごく少数……!」

「そんなスキルを、あの人間族は苦も無く使用しているんですの……!?」


 エイジの戦いを初めて目の当たりにするレシュティアは一層戸惑いが大きい。

 かと言って、初めてでないライガーもそれだけで戸惑いを消し去ることもできなかったが。


「……『炉の呼吸』」


 そして、ついに守勢は攻勢へと転じる。


「ギャリコ、何があってもそこから動かないでくれよ」

「え……!? あ、うん!」

「僕が前にいる限り、キミに刃は届かない。……『破の呼吸』」


 ダッ、と地面を蹴ってエイジが飛ぶ。

 天空に座す凶鳥へ向けてジャンプする。


「ッ!? バカ野郎! 竜人のオイラですら無理なのに、人間風情のジャンプであの鳥に届くかよ!?」


 ライガーの指摘も無視して、エイジは一直線にレイニーレイザーへと駆けあがる。

 その間も容赦なく降り注ぐ刃の雨を刀身で弾きながら、エイジはなおも上空へと昇る。


「……?」

「あれ……!?」

「……えッ!?」


 誰もが、不可解さに気づき始めた。

 レイニーレイザーへ向けてジャンプしたエイジ。普通であれば跳躍の勢いがなくなるとともに重力に引かれ、地表へと降りてくるはずなのに、まったくその気配がない。

 むしろ上空へ上がるごとに勢いが増し、どんどん目標へ近づいていく。

 降り注ぐ刃の羽を剣で弾きのけながら、どんどん上昇していく。


「どういうことだよ!? なんでアイツのジャンプの勢いが衰えねえ!?」

「まさか……、ソードスキル『木の葉渡り』!?」


 同じソードスキル使いのセルンだけが気づけたカラクリ。

 その間もエイジは空中で、降り注ぐ羽を正確に打つ。


「ソードスキル『木の葉渡り』は、『燕返し』よりさらに修得の難しい高位スキルです。剣撃の反動でジャンプする移動系スキル」

「なんだそれッ!?」

「つまりあの人間族は……!?」


 エイジは高難易度のソードスキルによってレイニーレイザーの刃の羽を打って、その反動でジャンプの勢いを補給しながら飛んでいる。

 想像も及ばないほどの絶技が、勇者たちの脳裏に想像された。


「もしそれが本当なら……!」

「刃の羽を出しているレイニーレイザーにたどり着くまで、ジャンプの勢いは永遠に持続する……!?」


 その間も、地上に残されたギャリコに刃の羽は一つたりとも降り注がなかった。

 エイジが『木の葉渡り』ですべて打ち散らしているから。


 ――僕が前にいる限り、キミに刃は届かない。


 その宣言は忠実に守られていた。

 どれだけ離れていても、エイジは常にギャリコの前にいて、あらゆる危難に立ちはだかる。


 鯉が滝を泳ぎ登るかのように、エイジも刃の雨を伝ってその頂点へ到達する。


『クェエエエエエエッッ!?』

「今さら慌てても遅い」


 天空の安全地帯に立てこもるモンスターに肉薄。

 普通に斬っても充分に届く距離だった。


 勇者では倒せず、覇勇者でなければ倒せないという覇王級の格付け。レイニーレイザーは、勇者では到達する手段のない天空に居座ることでその称号を得た。

 しかしそれは裏を返せば……。

 覇勇者ならば天まで到達する手段を持っているということだった。


『……弐の呼吸』

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