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40 生きた伝説

 つい先日、覇王級モンスター、ハルコーンと戦ったばかりだと言うのに、またしても立ち塞がるは全モンスターで最強の座に君臨する覇王級。


「ねえエイジ、この戦いやめとかない?」


 ギャリコの気が進まなくなるのも当然のことだった。


「アタシたちの目的は、魔剣製造のノウハウを積むためにモンスター素材を集めること。それらで魔剣の試作品を作りまくって、最終的にハルコーンの角を剣化するだけの鍛冶スキルを獲得することよ」


 なのにまた覇王級モンスターの素材をゲッドしても、ハルコーンの角同様加工できない可能性が高い。

 持ち腐れの宝を増やしたところで意味はないではないか。


「そうは言っても、モンスターを目の前にして無視して去ったとあっては、それこそ勇者の名折れです!」


 真面目なセルンが鼻息荒く言う。


「……覇王級と一括りにされても、その中はまた大きな階級で分けられている。以前僕らが倒したハルコーンは、覇王級の中でも上位に食い込む強豪モンスターだ」


 エイジが冷静な分析を進めた。


「じゃあ、今回現れたレイニー、レイ、レイ……!?」

「レイニーレイザー。ヤツは一応覇王級にランク付けされているが、単体での戦闘能力はハルコーンより遥かに下だ。実質的な強さは勇者級だよ。戦い方を工夫すればセルン一人でも倒せるだろうね」

「あの……!?」


 以前からちょくちょく浮かぶエイジの不穏な口ぶりに、セルンはおぼろげな恐怖を覚えていた。


「そりゃいいじゃねえか」


 エイジチームの作戦会議に、外から割り込む竜人の声。

 もうすっかり青の聖槍も再生させたライガーだった。


「どんだけ弱っちかろうが、覇王級の看板を背負っている以上、倒せば覇王級を討ち取ったことになる。聖槍院での覇勇者選抜にいい判断材料を提供できるだろうぜ」


 その前に命令無視して勢力圏外に遠征したかどで手柄も大分相殺されるであろう。


「私も、美味しい獲物を外から来た人に掻っ攫われるつもりはありません」


 青の聖弓を携えて、エルフの勇者レシュティアも勇気凛々充溢している。


「美しきエルフの森を荒らす魔物は、エルフの勇者である私が射抜きます。勇者が覇王級を討ち取ったとなれば、手柄もおのずと重みを増しましょう」


 彼女もまた、強さ控えめ手柄は特盛というレイニーレイザーの特徴に胸躍っているようだった。


 結局集った勇者三人の目的は、同じ一つのモンスター。

 それなのにもう少し仲良く同調できないものかエイジはと思うが、それができないのもこの世界に広がる人類種のサガというべきだった。


 協調はしても協力はできない。

 三勇者の微妙な対立は、そうした世界の縮図ということもできた。


「……しかし」


 ライガーが、しこりが取れたと言わんばかりの晴れやかな顔つきをする。


「やっと疑問が解けてスッキリしたぜ、まさか人間族の青の勇者が代替わりしていたとはな!」

「セルン、ちゃんと説明したんだ」


 エイジが振り向くと、セルンがゲッソリ煤けた表情をしていた。

 ライガーとレシュティア両名が憧れる人間族の『青鈍の勇者』。その唯一の特徴と言える青の聖剣をセルンが所持していること。それが話を大いにややこしくした。


「人間族が持つ青の聖剣は、つい最近所有者が移って代替わりが成された。新しい青の勇者がセルンさん、アナタと言うわけですのね?」

「はい、まあ……!」

「オイラたちが目標にしている『青鈍の勇者』は先代ってことになるんだな? で、その先代さんは今何してるんだよ?」

「えッ!?」


 当然出てくるだろう質問にセルンは頬を引きつらせる。


「私も気になっていたのです。憧れの『青鈍の勇者』様のこと、どれだけ調べても何もわからない。名前さえ判明しない。同じ勇者になれば情報も少しは入ってくるかと思われたのに、まったくないんですもの!」

「エルフは閉鎖的だから外からの情報も入って来ねえだろう」

「何ですって!?」

「オイラのとこも同じだけどな。人間族のヤツら、『青鈍の勇者』に関してはかなりの情報制限をしてやがるぜ。なんでだ?」


 それを聞き、興味を持ったギャリコが小声でエイジに問いかける。


「そうなのエイジ?」

「はい、本当です」


 エイジも、周囲に聞かれぬよう小声で答える。

 人類種一感覚の鋭いエルフが周囲にいて小声で話してもどうかとなるが、今は皆セルンの話に集中しているので大丈夫だろう。


「聖剣院は元々、勝手なことばかりする僕を疎んじてたからね。そんな僕を世界中がちやほやするのは許せなかったんだろう。僕の情報を徹底的に隠匿していたよ」


 だからこそ他種族から問い合わされても名前すら教えず、益々謎めいた存在になってしまった『青鈍の勇者』。


「僕自身も、目立つのは嫌なんで願ったり叶ったりだったけどね。おかげで煩わしい式典やパーティにも顔を出さずに済んだ」


 エイジの存在がこんなにも謎めいたのは、聖剣院の利己主義だけでなくエイジ自身にも原因があるようだった。


「……そんな人をよく勇者の頂点、覇勇者に据えようとしたわね」

「その辺は僕らしくない努力も色々してね。覇聖剣を手に入れるためじゃなくて『一剣倚天』を修得するためにだけど」


 ギャリコとエイジが話している間も、向こうではセルンがライガー、レシュティアの両名に詰め寄られていた。


「なあ、頼むから教えてくれよ! 青の聖剣を直接受け継いだからには、先輩後輩で面識ぐらいあるんだろう?」

「私、是非とも『青鈍の勇者』様にお会いして、直接お話を伺いたいんです! 種族分け隔てなく救い守る、その理由はどこから出たのか? 是非ともお聞きしたいんです!」

「それはオイラも聞いてみてえ! でもなオイラはその答えを予想しているんだぜ!」

「何だと言うんですか?」

「義侠心よ!」


 ライガーが自信たっぷりに言った。


「弱きを助け強きを挫く。男らしさを義に求めた義侠心こそ『青鈍の勇者』の根源にあると思うね! オイラは是非とも『青鈍の勇者』に会って聞いてみてえ! あの人ほどの男の中の男にとって、『義』とは何なのか!?」

「素晴らしいですわ! でも少々汗臭くありますわね」

「あぁ?」

「私の推測は少し違います。『青鈍の勇者』様の行動の根源にあるもの。それはきっと『博愛』です!」


 レシュティアも恋する乙女のようなまなざしで言う。


「すべてを分け隔てなく愛する広い心。それこそ『青鈍の勇者』様の強さの秘密であり、成果の根源! 私は『青鈍の勇者』様に直接お会いして、『愛』とは何であるか教えを乞いたいんですの!!」

「また微妙なところで意見が割れたなエルフ女!」

「所詮粗野な竜人とは肝心なところで合いませんわ」


 バチバチバチ……! と二人の間で不花が散る。


「というわけで……!」

「改めて教えてください! 『青鈍の勇者』様のことを!!」

「せめて名前だけでも!」

「教えなさい!」


 二人の勇者に迫られて、目が泳ぎまくりのセルン。

 助けを求めるように彼女が見たのは、当のご本人様だった。


「…………」


 エイジは無言のまま、人差し指一本を口の前で立てた。

 無慈悲なる「黙っとけ」のサインだった。


「…………、………………あのー」

「うん!」

「それで!?」

「先代の青の勇者様なんですが、聖剣を返上したあと聖剣院を辞めてしまって、以来行方もわからず……!?」


 あながちウソではない。

 丸ごとのウソはつき通せないところがセルンの不器用だった。


「今はー、何処にいるかー、ちょっと私にもー?」

「何だ使えねえ!?」

「だったらお名前は!? せめて『青鈍の勇者』様の本名だけでも!!」


 セルンの泣きそうな視線がエイジに向く。

 エイジは無慈悲にかぶりを振った。


「言ったらダメだって関係各所から指示が……!」

「なんだそれ!?」

「なんですかそれ!?」


 不器用なセルンは不器用だけに、二人からどれだけ締め上げられても一切情報をゲロすることがなかった。

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