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39 シンパシー

「だからと言って……、いいえだからこそ、モンスター討伐にアナタの介入を認めるわけにはいきません」

「なんでだよ!? オイラと同じように『青鈍の勇者』に憧れるんなら、オイラの情熱をわかってくれるんじゃねえのか!?」


 口論はまだ続いていた。


「アナタこそ、同じ『青鈍の勇者』に憧れる者として私の立場を察してください。『青鈍の勇者』様が、人類種の不文律を破って異種族勢力圏までモンスター退治に赴いたのは、各地の勇者の怠慢ゆえ!」


 元々神から五つの聖なる武器を与えられる勇者は、覇勇者含めても計五人。

 各種族に五人ずつでは、どう考えても頻発するモンスター被害をカバーしきれないし、勇者の中にはそれを逆手に取り、自分たちの希少性をアピールする不届き者までいた。


「わざとモンスター討伐を遅らせ、追い詰められた国や都市からより多くの便宜を引き出そうと……。吸い上げる富のない貧しい村落などはハナから無視です。恥ずかしいことにそんな見下げ果てた勇者は、我がエルフ族の中にもいます」

「竜人族もそうさ! オイラの夢はいつか聖槍の覇勇者になって、そんな名ばかり勇者どもを聖槍院から一掃することだ!」

「私だって、いつの日か覇勇者となって聖弓院を浄化することこそ私の目標!」

「「仲間!!」」


 語り合えば合うほど意気投合していく二人だった。


「だけどだからこそ、獲物をお譲りすることはできません……!」

「何でだよ!?」

「わかりませんか? ここでアナタにモンスター討伐を任せて一人安穏とすれば、私は憧れる『青鈍の勇者』ではなく、見下げ果てた腐れ勇者たちの方に近くなってしまうではないですか!!」

「うッ!?」


 その指摘に言葉を飲むライガーだった。


「その通りだ……! オイラ自身、ここでモンスターを倒して無能な現地勇者を嘲笑ってやる予定だったんだ……!」

「そんなことするつもりだったのか……!?」


 ライガーのちょっとした性格の悪さにドン引きするエイジ。


「目標とする『青鈍の勇者』様から遠ざかることはできませんわ。どうか現地のモンスターは現地の勇者に任せて、部外者はお引き取りなさい」

「そうはいかねえ、オイラだって『青鈍の勇者』へと至る道、足踏みするわけにはいかねえんだ。モンスターは必ず、このライガー様が狩り取る!」

「何ですって!?」

「何だと!?」


 意気投合したはずなのにすぐまた対立して険悪になる。


「待って……! お待ちください二人とも……!!」


 それを見かねて仲裁に乗り出すのは、人間の勇者セルンだった。


「ここで勇者同士がいがみ合ったところで意味がありません! 何より優先すべきは、この地に出現したというモンスターを速やかに討伐することです。それまではあらゆる蟠りは棚上げしておくのはどうでしょう?」

「だからそのモンスターをオイラが倒してやるって言ってんだろうがー!!」

「いいえ、モンスターを倒すのは私ですわ!!」

「ひぃぃーーーッ!?」


 しかし少しも鎮静効果はなかった。


「そういやテメエもいたな人間勇者。テメエもモンスターを狙ってここへ来たんだろう?」

「え? ああ、はい……!?」

「一体のモンスターに三人の勇者。これはもう話し合いをしても埒があきませんわね。いっそのこと競争と言うのはどうです?」


 競争? と他二人が首をひねる。


「モンスターを探索し、最初に見つけた者が最初に倒す。それだけのことです」

「ええー? それってズルくね? ここの勇者はテメエなんだから、土地勘だってあるはずだろ。モンスターがどこに潜んでいるかとか、もう見当ついてるんじゃねえか?」

「エルフの聖なる武器を管理する機関は聖弓院ですか……? 聖弓院の兵士を動員して捜索体制も万全ですしね。アナタが最初にモンスターを発見する確率は非常に高い」


 レシュティアの提案に、ライガーもセルンも不満げだった。


「私はこれでも譲歩しているのですわ。何度も言いますが、エルフの勢力圏に現れたモンスターはエルフの勇者が討って当然です」

「「うっ……!?」」

「それでも同じ『青鈍の勇者』様を目標とするアナタたちに共感を抱き、せめてチャンスだけでも与えてあげようと言っているのです。それすら受け入れないなら、これ以上交渉の余地はありません。即刻エルフの森からお立ち退きください」


 本来閉鎖的で、他種族を問答無用に閉め出すエルフの性状を鑑みれば、これでも奇跡的な譲歩と言わざるを得なかった。

 それだけレシュティアの中にある『青鈍の勇者』の存在感が大きいということだろうが、そこに付け込みさらなる好条件を引き出すことはできないだろうし、ムシがいい。


「わかったぜ、その競争乗ってやらあ」


 まずライガーが腹を括った。


「不利な条件を覆してこそ勇者の面目躍如だ。レシュティア、テメエのそのベッピン面を屈辱で歪ませてやる!」

「精々勇ましく吼えることねライガー。その方が勝負に負けたアナタをからかう楽しみが増えますもの」


 バチバチと火花を散らす若き勇者たち。


「で」

「アナタはどうするんですのセルンさん?」


 二人の視線が、セルンへと向かった。

 その集中にドギマギし、後退してしまうセルン。


「アナタだってモンスターを追ってここまで来たのでしょう? 青の聖剣を持つ勇者と言うなら、当然競争に参加する道理」

「そもそもテメエがなんで青の聖剣を持ってるのか、理由を聞き出すのもウヤムヤになっちまったしなあ。いい加減答えてもらうぜ。テメエは本当にオイラたちの憧れる『青鈍の勇者』なのか? 違うだろう?」


 当然その通りだった。

 セルンも彼らの会話の流れで段々感づいていたが、いわゆる『青鈍の勇者』などと呼ばれているのは、セルンの前に青の聖剣を使っていたエイジに間違いない。

 セルンにとってもわけのわからない理由で小突きあげられるのは勘弁なので、さっさと真実を説明したいところだったが……。


「ちょっと待った」


 またしても遮る別件。

 ライガーがケンカを売り出してからずっとこのパターンの繰り返しである。


「エイジ様!?」


 三人がごちゃごちゃ言っている間に、エイジとギャリコは、周囲にいるエルフ兵たちとコンタクトを取っていた。

 最初は警戒して弓矢をつがえていたエルフ兵たちも、他種族と勝手に盛り上がる勇者につき合っていられないと、荒れ果てた竹林の修復にかかり、ギャリコも申し訳ないと言いながらそれを手伝っていた。


 そしてエイジは……。


「今エルフから情報を貰ったが、ここに現れたモンスター、とんでもないのじゃないか」

「我がエルフ兵が情報開示!? 異種族に!?」

「どんな手管を使ったんだよ……!? やっぱりアンタ、底知れねえ……!?」


 驚く二勇者を余所に、エイジは証言を書き留めておいたメモを読み上げる。


「このエルフの森に現れたモンスター。聖剣院からの情報じゃ個体種まで不詳だったが、今やっと判明した」


 まさにそのモンスター災厄に見舞われようとするエルフから知らされて。

 鳥型モンスター、レイニーレイザー。


「コイツは覇王級モンスターだ」

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