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34 青鈍の勇者

 ガキィン! と。

 金属同士がぶつかり合う鋭い音が鳴った。


「ちいッ!?」


 飛びのきながら竜人の勇者ライガーが舌打ちする。


「何のマネだテメエ? 勇者でもねえヤツがしゃしゃり出てくるんじゃねえぞ?」


 襲い来る聖槍の刺突を弾いたのは、割って入ったエイジの剣閃だった。

 ギャリコ謹製アントブレードが、既に鞘から抜き放たれている。


「そうは言われても、我らの勇者様に危害を加えようとするなら黙ってるわけにはいかなくてね」

「人間族の聖槍院……、いや人間の聖なる武器は剣だから聖剣院か。そこから派遣された、勇者の従者ってところだな?」


 竜人勇者ライガーは、セルンを守るように寄り添うエイジのことをそう値踏みした。


「だったらなおさら、そっちのドワーフ娘の存在がひたすら謎だが。まあいいザコは引っ込んでな。オイラが知りてえのはたった一つ、そこの勇者が本物の『青鈍の勇者』かどうかってことだ」

「キミの言ってることは意味不明だ」


 ぴしゃりと言い放つエイジ。


「エイジ様……!」

「いいからセルンは下がって。僕らのチームで一番偉いのはキミなんだから」


 小声でセルンを制する。

 根から不器用な彼女では、このややこしい事態を治めきれないだろうとエイジの判断が働いた。

 エイジからしても、この竜人の勇者が何を考えているのか、今の時点では皆目見当がつかない。

 面倒くさいからと言ってモンスターのように一撃粉砕できないところが人類種相手の辛いところだ。

 まして相手は種族を代表する勇者。

 同じ勇者であるセルンとこれ以上争わせれば、最悪人間族と竜人族の戦争に発展しかねない。

 ならば結局今はフリーのエイジが出張らざるを得なかった。

 で。


「キミはウチのセルンのことを本物かどうか言っているが、正真正銘の聖剣を持っている以上、本物である以外にどんな可能性がある? 彼女は真実、青の聖剣を所持する青の勇者だ。人間族のな」


 青の聖槍を所持する竜人族の勇者が現れたため、区別が面倒である。


「そういうことを言っているんじゃねえ。オイラが言ってるのは青の勇者じゃなく、『青鈍(あおにび)の勇者』のことだ」

「あおにび、……の勇者……!?」


 さっきから頻出している妙な呼称にエイジも困惑。

 そもそも何故、青の勇者の呼び名に『鈍』などと余計な一字が挟み込まれているのか。


「テメエら、人間族のクセに知らねえのか? 自分たちの種族のことだろうがよ?」

「?」

「全人類種に知れ渡る、人間の勇者の伝説。その者は比類なき強さでモンスターを屠り、力無き人々を救う。しかも救う対象は自族だけに留まらない。あらゆる種族を分け隔てなく助けて、その心の広さは世界中に轟き渡る」

「…………」

「その人間の勇者は、いかなる成果を上げて英雄と讃えられても、名も告げず去っていくため正体は誰も知らない。わかっているのは彼が振るう聖なる武器。それこそ人間族の勇者が持つ聖剣! しかも東方の守り部たる証の青色!!」

「…………」


『ん?』とエイジは思った。


「青の聖剣を振るう。それ以外一切が謎の英雄を、力無き者たちは感謝と畏敬を込めてこう呼んだ。『青鈍の勇者』と」

「んー?」

「その名の由来も、本来鮮やかな青色を放つ聖剣が、幾百ものモンスターを斬り刻むことで刀身の青がくすんじまったというありえねえエピソードからだ。自慢じゃねえがオイラも、その『青鈍の勇者』に憧れてな」


 と、穂先から石突まで総身真っ青の槍を掲げる。


「聖槍院に認められて勇者になった時も無理言ってこの青の聖槍を賜った。オイラもまたこの青が鈍色にくすむまでモンスターを突き殺してえ!」


 そう語るライガーの瞳が、英雄に憧れる少年のように輝いていた。


「そんな『青鈍の勇者』に、いつかは直に会ってみてえとオイラも常々思っていた。そしてついに我が目の前に現れた青の聖剣。その持ち主こそ長く憧れてきた『青鈍の勇者』だってのに、それがこんなヒョロッちい小娘とは何の冗談だ!?」


 と後方のセルンを指さす。


「取り出した青の聖剣までピッカピカの晴天みたいな青色でよ! こんなの認めねえ! だから試してやる。コイツが正真正銘『青鈍の勇者』なら、まさかオイラに容易く負けたりはしねえだろう!」

「い、いえ……!」


 セルンが、弁明するかのように訴える。


「アナタが言っているのは私のことではなく……! 多分、私の前に青の聖剣を使っていた……! モガフゴッ!?」

「わかったわかった。しかしキミも聖槍を賜った勇者なら知っているだろう?」


 空気を読んでセルンの口を塞いだギャリコに、エイジは親指を立てつつ語る。


「勇者同士の諍いはご法度だ。たとえ他種族の勇者相手でもね。神が与えた聖なる武器は、人類種がモンスターに立ち向かうためのもの。人類種同士で争うために使ってはならない」

「たしかに聖槍受領の儀でそんな注意受けたっけなあ? ……だが『青鈍の勇者』はオイラの原点だ。うやむやのまま過ぎ去ることはできねえ」


 竜人の勇者ライガーは、鋭く聖槍をかまえる。


「オイラは何があろうと、そこの小娘の実力を見定めさせてもらうぜ。従者ごときが邪魔だ。どきな」

「そういうわけにもいかない」


 エイジはアントブレードを平らにかまえる。


「セルンは真面目な子だ。かつ不器用。そんな子に安易なルール破りをさせてしまうのは心苦しい。だからキミがどうしてもと言うなら……」


 剣に殺気がこもる。


「……この僕がキミを叩き潰してあげよう」

「はっ、言うねえ」


 ゲッと鳴らす咽喉の音に不快さがありありと表れていた。


「聖なる武器でもねえナマクラ刀で、オイラの聖槍に挑もうってのか? 人間族がここまでヒト様を舐めるのが得意な種族だったってのは初耳だぜ」

「ナマクラ刀じゃない。魔剣アントブレード」


 ギャリコが作り上げた、究極の一刀へと続く試しの刃。


「コイツの出来栄えをキミで試すのもいいだろう。どうせモンスターの方は、セルンの成長を促すために譲るつもりだったからな」

「えッッッ!?」


 その発言に一番驚くのはセルンだった。


「何をわけのわからねえことを……! ま、院仕えの身の悲しさってヤツか? 聖剣院に所属する兵士なら、自族の勇者様は身を挺してお守りするしかねえもんな!?」


 槍の穂先から噴き出す、禍々しい聖気。


「悪いが一瞬で吹き飛ばしてやるぜ。そしてすぐさま本命とバトルだ!!」

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