32 パラメータ発表
ギャリコ 種族:ドワーフ
鍛冶スキル:1320
装飾スキル:800
建設スキル:530
筋力スキル:480
敏捷スキル:120
耐久スキル:590
それがギャリコのスキルウィンドウに浮かぶ数値だった。
「ギャリコ殿……。いきなり何をしているのですか?」
「だって、セルンさんばっかりエイジを信頼してズルい! アタシだってエイジに自分のスキル値を知られてもいいぐらい信頼してるんだもん!!」
「だからと言って、必要もないのにみずからスキルウィンドウを晒しては……!?」
『他人にスキルウィンドウを見られるのは、裸を見られるのも同じ』という常識からすれば……。
「この前は覗かれるみたいにチラ見されたけど。今度はアタシから全部見せるの!」
「ええええええええ……!?」
何やら我が身のすべてを捧げるようなギャリコの気迫に圧倒されるエイジだった。
「では、ええと……! えッ!? ギャリコも鍛冶スキル値が上がってる? やっぱりきっかけは先日の戦い?」
「ホントだ……! 1100から1320に上がってる……! ここ一年ぐらい全然上がらなかったのに……!」
ギャリコ自身あの戦いからスキルウィンドウをチェックしていなかったらしく、自身のスキルアップに驚嘆していた。
「くッ! 私のソードスキル値より伸び幅が……!」
一方セルンは悔しそう。
セルンのソードスキル値が920→1040の120アップであるのに対し。
ギャリコの鍛冶スキル値は1100→1320の220アップである。
セルンにとってはいつもしていることと変わらないモンスター退治。
しかしギャリコから見れば、これまでにない材料をこれまでにない方法で加工する魔剣作りは、新鮮で、多くの刺激を与えた。
スキル値の伸びに差があるのは、この辺りに原因があろう。
「身体能力スキルも思った以上に高いな。敏捷が異様に低いのはドワーフ族の御愛嬌だが、筋力耐久が聖剣院の兵士並みにある。これからモンスターとの戦闘でも安心して後ろを任せられるな」
「エイジがアタシのこと褒めてる!?」
割とよく褒めてると思うんだけど……、とエイジは釈然としない。
「……ドワーフは鍛冶スキルだけでなく、他にも製造スキルを所有しているのですね。装飾スキルなど初めて見ました」
セルンも一緒になって、ギャリコのスキルウィンドウを吟味していた。
「ちょっと! なんでアナタまで私のスキルウィンドウ見ているのよ!?」
「こんなところにボカンと出されては見えてしまうのはしょうがないでしょう。アナタだって私のスキルウィンドウ見まくっているではないですか!」
二人とも一人の男だけに自分の秘密を見てほしかったところが、焦ってそれ以外にまで情報流出している。
「まあ、装飾スキルっていうのは製造品の見た目を整えるのに必要なスキルなのよ。ドワーフの製造品で一番売れるのが金銀の装飾品だから、どうしても上がっちゃうのよねー。……でも、アタシから言わせてもらえば」
「?」
「セルンのスキルウィンドウにある『料理スキル:560』ってのが気になりまくるんだけど……!!」
「なッ!? いいじゃないですか! スキルウィンドウは、使用頻度の高いスキル六趣までがデフォルト表示されるんですから! 余り項目に関係ないスキルが表示されても!」
「関係ないスキルって言っても。560って数値はなかなか……!? セルンって意外に家庭的な女の子?」
「料理スキルなんてサバイバルしてたら勝手に上がるスキルなんですよ。勘違いしないでください! 私はいつだって剣一筋なのです!!」
主要スキルを公開することで話題が膨らむのも常の事である。
旅の仲間がギスギスするよりはよっぽどいいことなので、エイジはこのまま乙女たちのじゃれ合いを温かく見守る。
「これから一緒に旅をするのに互いのパラメータを知っておくのはいいことだしね」
仲間の得手不得手を把握しておけばサポートが容易になるし、手の内を見せ合うことで信頼関係も生まれやすい。
「そういうことなら?」
「もう一人の方も、旅の仲間として絆を強化すべきですよね?」
早くも、奥底を晒し合うことで深まる仲が発揮される。
「ねえエイジ? 三人中二人がスキルウィンドウ開いているのに、一人だけ見せないのはズルくない?」
「私も、聖剣院にいた時からエイジ様のスキルウィンドウを見たことは一度もありません。覇勇者を目指せとおっしゃるなら、エイジ様のスキル値を是非とも参考にいたしたく」
二人でズイズイ迫ってくる。
「いや……、僕のスキルウィンドウはトリッキー過ぎて参考にならない。なので見せたくもない。ということで!」
「あッ、逃げた!?」
「待ちなさいよエイジ! 信頼を示すためにも見せなさーい!!」
思わぬ飛び火をして、一目散に逃げだすしかないエイジだった。
* * *
それからしばらくしても、ギャリコとセルンは諦めなかった。
「ねーねー、エイジってばスキルウィンドウ見せてよー」
「私たちのを見ておいて自分だけ見せないのは卑怯です。エイジ様、これからの参考のためにも!!」
二人は実にしつこい。
何故そこまで自分のスキルウィンドウに興味があるのか、とエイジは戸惑い通しだった。
あれから数日経って旅路も大分進んだが、二人の興味が別のものに移る気配がまったくない。
「……そろそろ、目的地についてもいい頃じゃないかな?」
「エイジ、露骨に話を逸らさないでよ! アナタのスキルウィンドウをね……!」「だからギャリコ、キミが望んだモンスターの出没地。この辺じゃないかって言っているんだよ」
「アタシが望んでいるのはアナタのスキルウィンドウよ!」
「だから!」
まったく埒が明かなくなっている。
本来、ドワーフの都に向かうべきところを、各地に出没するモンスターを求めて寄り道しようと言い出したのはギャリコだった。
そこかしこでモンスターを倒し、その素材を得て、魔剣作りの経験やノウハウを積み上げようと。
都合のいいことに現在エイジのパーティには現役勇者のセルンがいたから、彼女を通じ聖剣院の情報網をいくらでも利用できる。
彼らは有象無象の兵士級モンスターなど端にもかけないので、入ってくるモンスター情報は間違いなく勇者級もしくは覇王級だろう。
そうしたモンスターの害から人々を守る意味でも、エイジはこの寄り道に乗り気だった。
周囲の風景も、ドワーフの鉱山集落とは趣を変えて、緑が生い茂っている。
森ではある。が、ただの森ではなく変わった様相の木々が並び立っていた。
葉だけでなく幹まで緑一色で、刃のように細長く先の尖った葉を茂らせていた。
幹自体よくしなり、風に葉をさらさらと鳴らしている。
「竹……、ってヤツだな」
「タケ?」
ギャリコたちも、迷い込んだ竹林の玄妙さに浮ついた気持ちが治まっていた。
「ゴブリンたちから聞いたことがある。木のように長く伸びるが草花の仲間で、木の幹のように硬い茎を伸ばすらしい。彼らはそれを利用して様々な道具を作り出すのだと言っていたが……!」
エイジは、唐突に足を止めた。
警戒のために。
「エイジ様? どうしたのですか?」
「森の中にしては地面が平坦すぎる。余計な草を刈り取って……、メインである竹がよく伸びるようにしてある」
「?」
「人の手が加えられているぞ。この森」
正確には竹林であるが。
エイジの指摘に、ギャリコもセルンもすぐさま意味を察し、緊張する。
人工的な手を加えて、森を自然任せにせず繁栄させる。
そんな物好きなことをする人類種は、一種しかいない。
「エルフ族……!」
「アタシたちエルフの勢力圏に入っちゃったっていうの!?」
閉鎖性においても全種族一と名高いエルフ。
もし発見されれば、モンスターの前に一戦にもなりかねない。
「モンスターが出たのは人間族の勢力圏外とは言っていたが……。まさかエルフのシマだとは……!」
「伝令カラスは、その辺何も伝えていませんでした。いくら自分たちの利害以外に興味がないからと言って……!」
どうすべきか。
エルフとのいさかいを避けるためにも一旦竹林から出るべきか。
エイジたちが決めかねているうちに、事態は進行した。
もう風もやんでいるのに、笹がサラサラ鳴った。





