31 終始合一
究極ソードスキル『一剣倚天』と、基本ソードスキル『一刀両断』が類似する。
「そ、そんなわけありません! 習得に必要なソードスキル値がたったの1、誰でも覚えられる簡単なソードスキルである『一刀両断』が、最高難易度『一剣倚天』に通じるなどと……!?」
「だからかもしれないな……」
エイジは腰を据えてじっくりと話し始めた。
「ソードスキルを修めようとする者なら誰でも最初に覚えるだろう『一刀両断』。道を極めた者が最後に挑む『一剣倚天』。最初と最後だからこそ、二つは相通じるのかもしれない」
「そんな……」
「前にも言ったことがあるが『一刀両断』はもっとも基本的であるだけに、すべてに通じるソードスキルだ。あらゆる状況に対応できて、威力はソードスキル値に比例するから、必要な数値さえ満たせば斬れないものは基本ない」
だからこそそれ一つしか使えないセルンが勇者にまでなることができた。
他のソードスキルならば、どれだけ突き詰めてもそれだけで勇者になれるほどの強さは得られない。
「それに対し、究極ソードスキル『一剣倚天』の効果は『生と死を同時に斬滅する』こと」
「? どういうこと?」
言葉の意味が飲み込めず、素人のギャリコが首をひねった。
「それは秘伝だから、これ以上事細かに言葉で説明することはできない。『生と死を同時に斬滅する』という意味は、『一剣倚天』を極める者が、その体で理解しなければならないんだ」
そしてセルンは……。
「キミならば、その意味を既に体で理解しかけているのかもしれない」
「ッ!? どういう意味です? 私にはまったく理解できません!!」
「この世にあるすべてを両断するのがソードスキル『一刀両断』ならば。この世とかの世をすべて斬り捨てるのがソードスキル『一剣倚天』。両者の違いは、この世を突き向け、かの世にまで斬撃を届かせることができるか、それだけだ」
「それは……、オーラを集中させることでゴースト系モンスターにダメージを与えられるソードスキル『霊光斬』とは違うのですか?」
「あんな技とは次元が違う。『一剣倚天』はそれを含み、それ以上の広がりを持った剣だ。その広がりの正体を知るとっかかりは恐らく『一刀両断』にしかない」
話のスケールの大きさに圧倒されるしかないセルン。
「初心を忘れない者だけが、最後までたどり着ける。それは紛れもない事実だ。何故なら現覇勇者であるグランゼルド殿が『一剣倚天』を除いて、もっとも得意とするソードスキルもまた『一刀両断』なのだから!!」
「ッ!?」
それを聞いた途端、セルンの顔つきが変わった。
狼狽える生娘ではなく、一人の剣士の顔つきになった。
「わかりました……! エイジ様、私に『一剣倚天』をご教授ください!!」
「おお!」
「私とて聖剣院に所属し、剣の頂を目指す者。覇勇者であるエイジ様に直接ご指導いただくなどこれほどの栄誉はありません。どうか私を、今よりさらに強くしてください!!」
「いいだろう、これでキミが覇勇者になれば晴れて僕は用なしと言うわけだ」
どこかに下心が見え隠れするエイジだった。
「じゃあ、早速『一剣倚天』の伝授を始めたいところだけれど、色々ぼんやりしたことは言っても結局『一剣倚天』はソードスキルだから、その修得には見合ったソードスキル値が必要になる」
「ううッ……!?」
「しかも究極スキルとなると、修得にはソードスキルだけじゃなく複数のスキル値が絡んでくるからな。……まずは身体能力三大スキルと言われる筋力、敏捷、耐久、この三つのスキル値がそれぞれ最低1000は必要だ」
「「せんッ!?」」
これにはセルンだけでなく無関係のギャリコまで驚く。
「ちょっと正気なの、その要求スキル値!? 耐久スキルが比較的高くなるアタシたちドワーフでも、一番得意な耐久スキルで1000越える人はなかなかいないわよ!?」
「まして私たち人間族は、『すべてが平均』こそ特徴だと日頃から言われる種族。取り立てて伸び悩む分野はありませんが、だからこそ飛びぬけて1000も超えるスキル値を叩き出すなんて……!」
数字の大きさにくらくら来ている二人だった。
「だからこそ全部を平均して千越えさせることも可能なんだろう。必要なのは底上げだ。あと肝心のソードスキル値は2000を最低ラインと思って」
「にせんッ!?」
またしても無茶な要求にセルンの気が遠くなる。
「そうだな……、道のりの遠さをチェックするためにもセルン。もう一度スキルウィンドウを見ておこうか?」
「あっ、ハイ。わかりました」
特に戸惑う様子もなくセルンは、虚空に指で四角形を描く。
四角の軌道に沿って、透明なガラス版のようなものが現れた。
そのガラス版は虚空に固定されたように浮かび、その上にいくつもの数値を刻んでいる。
これがスキルウィンドウと呼ばれる奇跡で、この世界にいる人類種なら人間族だろうとドワーフだろうとそれ以外の種族でも分け隔てなく誰にでも投影可能だった。
スキルウィンドウには、出現させた当人が頻繁使用する上位六つのスキルとその数値が刻まれ、自分がどのスキルをどれだけ習熟させたか一目でチェックすることができる。
セルンが投影したスキルウィンドウは、このような数値が書き並べられていた。
セルン 種族:人間
ソードスキル:1040
筋力スキル:1001
敏捷スキル:910
耐久スキル:880
兵法スキル:470
料理スキル:560
「上がってるじゃないかソードスキル」
スキルウィンドウを覗いて、エイジが褒めるような調子で呟いた。
「こないだ見た時は920だったのに、100以上の伸びとは。1000台からここまで急激に伸びるのは、やはり才能がある証拠だな」
「あうぅ……!?」
褒められて照れることを我慢できないセルン。
「そういえば……。前の戦いでアイアントを斬りまくりましたから、それで上がったのでは?」
「数をこなしたとはいえ、アイアント程度で100ぐらい上がるんならまだまだ伸びしろはあるってことだ。それに身体能力スキルも、どれも1000近くあってほぼ必要値を満たしている」
筋力スキルはギリギリ1000以上。
敏捷、耐久もわずかばかり1000に及ばないものの、多少の鍛錬ですぐにでも必要値に達しそうだ。
「こないだはチラッとしか見なかったけど、総合的にいいスキルウィンドウじゃないか。さすが勇者と誉めそやすに値する」
「そんな……! あのッ……!」
セルンはテレッテレになって顔が真っ赤になっていた。
何より褒めてくれるのがエイジと言う点が大きい。
「問題は兵法スキルだな」
「うッ……!?」
しかしすぐに冷や水が浴びせかけられた。
「兵法スキル値470……! これは勇者として立派に恥ずかしい数値だぞ?」
「ご、ごめんなさい……!」
兵法スキルは、別名裏ソードスキルとも呼ばれる、ソードスキルを学んでいけば自然と同時に上がっていくスキルだった。
『一剣倚天』を極めるためには、この兵法スキルも最低2000は必要となる。
「兵法スキル値は、複数のソードスキルを組み合わせて戦略を練ることで刺激され育つスキルだからな……。使うスキルが『一刀両断』しかないセルンじゃ、たしかに伸び悩むのは仕方ないか……!」
それゆえ『一剣倚天』を修得するために『一刀両断』だけ極め尽くせばいいというわけではない。
他のソードスキル習得にまったく意味がない、と言うことにもならないのだ。
ソードスキル。
身体能力三大スキル。
裏ソードスキルこと兵法スキル。
以上三種が『一剣倚天』習得のために必要不可欠なスキルとなる。
「やっぱり『一刀両断』だけじゃダメじゃないですか!? 他のソードスキルも価値あるじゃないですか!?」
「そこの不足分を補うのが、師匠の腕の見せ所。何かいい手を考えるさ。でもまあ、アイアントぐらいでスキル値が上がる伸びしろがあるなら、やっぱり必要なのは実戦の……」
とエイジが考えを巡らそうとしたその時である。
「ねえ……ッ!!」
ゾッとする気配を感じて、エイジは鳥肌たてつつ振り返る。
そこには怨霊のごとく恨めしそうな表情のギャリコがいた。
「何故ッ!?」
「え?」
「なんでアナタはそう毎度毎度、平然とセルンさんのスキルウィンドウ覗き見しているのよッ!?」
「あッ!?」
ギャリコはそこをきっかけに不機嫌となったようだ。
スキルウィンドウには、その人が修得したスキルと、その数値が偽りなく表示される。
つまりそれは手の内が丸わかりになるということで、大抵の場合、他人に自分のスキルウィンドウを見せることは禁忌だった。
人によっては「他人にスキルウィンドウを見せるのは裸を見せるも同じ」と言って羞恥心を抱いたりもする。
「落ち着いて! 落ち着いてくださいギャリコ殿! 私たちの場合はいいんだと前に言ったではないですか!!」
「でもッ!?」
「私は聖剣院の勇者見習い時代から、エイジ様の指導を受けてきました。よりよい御指導のためにも、スキル値のチェックは必要不可欠なのです!」
言い方を変えれば、自分の裸を見せられるくらいの信頼関係がなければ剣の師弟は成立しないということだった。
簡単に他人には見せないスキルウィンドウも、普通に見せ合う世界がある。
「私とエイジ様の間には、それだけの信頼関係があるということです。どうか弁えてください」
「………………ッ!!」
エイジはまだ、頭部を襲う痛みに悶えて地面を転がっていた。
その横で、ギャリコが何だか悔しそうな表情を作っている。
「だったら!」
「!?」
「だったらアタシのスキルウィンドウも見なさいよエイジ!」
なんかそう言って、ギャリコも虚空に指先で四角形を描き出した。





