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28 旅立ち

 それから数日の後、エイジとギャリコは旅装を整え、鉱山集落の前に立っていた。

 二人はこの地を発って、ドワーフ族の首都を目指す。


 鍛冶スキルをもっとも得意とするドワーフが、技術を一心に集めた都なら、ハルコーンの角を精錬し剣に鍛え上げられると信じて。


「……こうなることは、わかっていたんだよなあ」


 見送りとして門前までやって来た親方ダルドルは言う。


「ギャリコのヤツはドワーフのくせして剣に首ったけでよ。エイジさん、アンタが最強の剣を作りたいって言ってきた時、コイツときっと結びつくと思っていた」

「でも、それを避けようとはしなかったんですね」


 だからこそダルドルは、唐突に弟子入り志願したエイジを、坑道エリアで働かせた。ギャリコが監督役を務める坑道エリアに。


「ワシはこれでも親バカでよ。娘の夢と言うなら叶えてやりてえ。アンタとギャリコが交じり合うことで、とんでもねえ剣ができるってんなら、それを見てみたくもある」

「まかせて、お父さん!」


 ギャリコは気負うように言った。

 実際その身には、彼女の体格の数倍になるような大きいリュックが背負われていたが。


「アタシ、この人と一緒に最強の剣を作ってみせる。そしてドワーフの鍛冶が世界一だって知らしめてみせるわ!」

「柄にもねえこと言ってんじゃねえよ」


 娘の大志を、一生にて吹き飛ばす父親。


「お前は、自分自身のために剣作りをするんだろう。一族の面子なんてつまらないもん背負わねえで、ただひたすら自分のためにやりな。自分勝手こそ職人が、最高の逸品を作り出す最高のスキルだぜ」

「お父さん……!?」

「世のため人のためなんて大したことはな、こっちの大先生に任せておけばいいんだよ」


 そういって親方の視線が、エイジへと戻る。


「娘をよろしくお願いします」

「任せてください。傷一つなくアナタの下へお返しすると誓います」

「いやいや、そんなに気を使わなくてもいいんだよ。どうせコイツの命はアンタが救ってくれたんだからな。むしろ返却なんてしなくていい、傷モノにしても全然かまわんさ」

「お父さん!!」


 顔を真っ赤にして噛みつくギャリコに、父親は大口を開けてガハハと笑った。


「異種族間の結婚も最近はあるらしいからな。お前も、誰もしたことのないデカいことをするつもりなら、それくらい思い切ってみれや。……なあ、野郎ども?」

「「「「「「「「「「おおッッ!!」」」」」」」」」」


 いつの間にか集落の出入り口に、大量のドワーフが集合していた。

 集落中のドワーフが集まったのではないか、と言うほどに大勢。


「アニキ! お嬢! 行ってらっしゃいませ!!」

「お二人がいない間、坑道エリアはオレたちで盛り立てます!!」

「モンスターが来たって大丈夫だぜ!!」

「ああ、今のオレたちにはこれがあるもんな!!」


 と若い男ドワーフたちが掲げるのは、アイアントの殻から作り出したアントナイフ。

 アイアントの群れを壊滅させたおかげで、素材が余るほど手に入り、今では鉱山集落で動ける男ドワーフなら誰もが携帯していた。

 中には、アイアントの頭部をそのままに柄をくっつけて、アイアントのハンマーを拵えた者までいた。


「ドワーフはやっぱりハンマーだからな!」


 魔剣が行きわたればそれだけで、多少のモンスターは怖くなくなる。

 これもまた、エイジとギャリコ二人の成果だった。


 ドワーフたちの盛大な見送りを受けて二人は旅立ちの一歩を踏み出した。


              *    *    *


「お別れは済みましたか」


 鉱山集落を出て、少し進んだところに鎧装束の乙女が待ち受けていた。

 人間族の勇者セルン。


「セルン、こんなところでどうしたんだ?」


 ここ数日姿が見えなかったのでてっきり聖剣院へ戻ったと思い込んでいたエイジは困惑する。


「お別れの挨拶なら、集落前で皆と一緒にすればよかったのに。アナタだって一緒にハルコーンを倒してくれたんだから、皆お礼言いたがってたわよ」

「礼なら、討伐から帰還した時に過剰なほど頂きました。それに本来私は、彼らに感謝されるいわれはありません」

「まだ気にしているのか……」


 覇王級モンスター、ハルコーンをけしかけたのはセルンが所属する聖剣院。

 エイジの気を挫いて聖剣院に戻させるという目的のために、聖剣院は周囲のドワーフ集落がハルコーンに抹消されることを意にも介しなかった。


「……エイジ様の言われる通りです。今の聖剣院は、人間族を守る機関としての資格を欠いています。使命を守ることよりも、己が利権を守ることばかりを追求する」


 エイジを呼び戻そうとしているのも、強力な手駒を失いたくない、ただそれだけが理由。

 しかしセルンの中にある動機は、組織とはやや異なってきた。


「聖剣院は変わらなければなりません。そしてそのためにもエイジ様には、聖剣院に戻っていただきたい!」

「キミはまた……」

「私は本気です! 聖剣院が真なる人間族の守り部となるには、エイジ様に覇勇者となって聖剣院を率いていただくしかない! 私はそう考えます!!」


 聖剣院の上に立って改革者となれ。

 セルンはエイジにそう求めるのか。


「……残念ながら僕の考えは違うよ」

「わかっています。ですからエイジ様のお考えが変わるまで、私もエイジ様と同行させていただきます」

「えぇー?」


 なんと魔剣作りの道行きに人間族の勇者たちまで加わるという。


「ご安心ください。これは私独自の判断として、兵士たちの同行は許していません。先日のように裏で謀略を巡らせることはないかと」

「そういう心配はしていないけど……!」


 あくまで困った表情のエイジに、別の方向からも圧力が加わる。


「いいじゃない、一緒に来てもらいましょうよ」

「ギャリコ!?」

「セルンさんの持っている聖剣は、アタシが剣作りを目指すきっかけになったものだから。魔剣作りの参考にきっとなるわ!」

「必要なのはセルン当人じゃないんだね……!」


 ギャリコが受け入れては、エイジもやれやれと賛同するしかなかった。

 三者三様、様々な思いを抱いて旅が始まる。


「ではまず、ハルコーンの角を剣に変えるため……!」

「高熱炉のあるドワーフの都へ……!」

「行きましょう!!」


 エイジとギャリコとセルンは歩き出した。

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