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26 勝利の褒賞

「勝ったの……? 本当に……!?」


 真っ二つにされたハルコーンの死骸を見ても、勝利の喜びが実感として湧いてこない一同だった。


 元々は鉱山集落を救うためにアイアントの群れを掃滅することが目的だった戦い。

 それが危機の度合いだけ段違いに跳ね上がり、終始生きた心地のしない勝負だっただけに、まだ色々と感覚がマヒしているのかもしれない。

 それでも、少しずつ通常の感覚が戻ってくる。


「……や、やりましたねエイジ様!!」


 もっとも最初に喜びをあらわにしたのはセルンだった。


「覇王級を屠り去ってしまうなんて……! さすがは覇勇者と認められたエイジ様! しかも覇聖剣ではなく、聖剣にも遥かに劣る剣で。……これほどの偉業。やはりグランゼルド様のあとを継がれるのはエイジ様の他にありません!!」

「いや……」


 セルンの興奮に冷や水を浴びせるようにエイジは言った。


「僕はまだ、現覇勇者のグランゼルド殿には遠く及ばない。僕の放ったソードスキル『一剣倚天』は成功しなかった」

「ええッ!?」

「見ろ」


 エイジは自分の技を検証するように、真っ二つになったハルコーンの亡骸を品定めする。


「たしかにハルコーンの馬体は真っ二つになっている。正中線から綺麗に縦等分だ」

「はあ……!?」

「なのに、ハルコーンの額から伸びている角には傷一つない」

「あッ……!?」


 セルンもギャリコも注目し、エイジの指摘が真実であることを確認する。

 一角獣ハルコーン最大の特徴にして、最強の武器でもある額から伸びた角。

 その角は傷一つなく、両断された本体から離れてコロコロと転がっていた。


 角が斬り落とされた、と言うのではなく、本体が滅せられて角だけが残ったという風だった。


「究極ソードスキル『一剣倚天』は、ひとたび放てば生と死の両方を一挙に斬滅できるという。本来斬れぬものはない必滅剣だ」


 なのに敵の角のみ両断することが出来なかった。

 それは完全無欠のはずの究極剣が不完全であったことを何より示していた。


「事実、グランゼルド殿は『一剣倚天』でハルコーンの角を斬り落としたそうな。覇聖剣でもって。だからこそハルコーンの角が聖剣院の所蔵品になっていたんだが……」


 覇勇者として先代と言うべき人ができたことを、エイジはできなかった。

 それは何よりエイジの究極ソードスキルが不完全である証だった。


「でもそれは……、エイジが下手くそだからじゃない……!」


 ギャリコが、エイジの横に並んで悔しげに呻く。


「アタシの作った剣が悪いのよ。アントナイフじゃエイジの全力に耐えることができなかった。……ホラ」


 ギャリコの指さす先にあったのはエイジの利き手。

 その中には何もなかった。ハルコーンを仕留めた最後のアントナイフがあったはずなのに、影も形もなかった。

 アントナイフは、究極ソードスキル『一剣倚天』を放った反動で消滅し、欠片すらも残らなかった。

 ただエイジの掌に、灰がベットリの残る程度だった。


「やっぱり、魔剣はまだまだ未完成なんだわ。もっと研究してより強い魔剣にしないと、エイジの全力に耐えきれない」

「その原因は、やはり素材の強度だな」


 モンスターの体そのものを素材とすることで、自然の鉱物を遥かに超える強度を武器化した魔剣。

 ただし今回、魔剣の試作品であるアントナイフに使われた素材は全モンスターの中でも最下位アイアントの殻だった。


 だからこそ性能には限界があり、威力において聖剣を超えることもできなかっただろう。


「でも、その問題は解決された」


 エイジが力強く言った。


「元々僕たちがここに来た目的は、アイアントの長クィーンアイアントを仕留めるためだ」


 理由の一つは、今エイジたちが暮らしている鉱山集落にとってアイアントの群れは深刻な脅威であり、集落存続のために群れを取り除くことは必要不可欠だったこと。


 もう一つの理由は、より強力な魔剣を作るためにはアイアント以上の上位モンスターが素材として必要だったこと。アイアントを統率する兵士長級クィーンアイアントは、実に手頃な獲物だった。


 そのクィーンアイアントも、乱入したハルコーンによってバラバラにされてしまった。

 剣の素材として使える部分が残っているかも怪しい。


「アイアントの群れは滅びて、鉱山集落の危機は去ったけど……。アントナイフ以上の魔剣を作る目標からは遠のいてしまったわ……」

「何を言っている」


 ギャリコを励ますようにエイジは言う。


「より強い魔剣の素材ならここにあるじゃないか。クィーンアイアントよりもさらに強力な」


 そう言ってエイジが拾い上げたのは、他でもない。彼が両断し損なったハルコーンの角。


「「あッ……!?」」


 それを見てギャリコだけでなくセルンまで目から鱗を落とした。


「僕らが欲しいのはアイアント以上の魔剣素材だ。ならそれはクィーンアイアントだけにこだわる必要はない」


 むしろ覇王級モンスターが素材となるなら、それ以上にいいものはない。


「理論的に、兵士級モンスターを素材にした魔剣が兵士級までを倒せて、兵士長級モンスターを素材にした魔剣が兵士長級までを倒せるとしたら……!?」

「覇王級モンスターであるハルコーンの角を材料にしたら、覇王級をも倒せる魔剣が出来上がることになる。それは……」


 覇聖剣に匹敵する魔剣ということだった。


「こんなにも早くゴールが見えてくるとはな……! 死ぬような思いで最強モンスターに立ち向かった甲斐があったってわけだ」

「じゃあ、今すぐこの角、鉱山集落に持って帰りましょう! そして剣に加工するのよ! アタシがやる! 絶対やる! 他の人には手出しさせない!!」


 ギャリコが興奮気味にハルコーンの角を抱え上げた。

 周囲にはまだ何匹かのアイアントが判断力を失ったまま走り回っていたが、いずれ力尽きて餓死することだろう。

 女王を失った兵隊アリは必ずそうなる定めだから。


 魔物の脅威も、人の姦計も跳ねのけて、ついにエイジたちはあらゆるすべての目的を達成した。

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