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251 覇勇者vs覇勇者

「退避! 退避してください!!」


 セルンの鋭い声が飛んだ。


「エイジ様とグランゼルド様のクラスが本気でぶつかり合ったら、周囲が崩壊して更地になりかねません! 巻き添えになる前に離れて!!」

「うひぃーーーーーーッ!?」

「何てはた迷惑な連中じゃああああ!?」


 神殿内部で始まらんとする究極の勝負に周囲は大わらわ。

 世紀の勝負を見逃すまいと食らいつく者、ただ我が身可愛さに逃げ惑う者で、とにかく混乱する。


「……」

「……ふぉう!」


 そして勝負の当事者たちはストイックだった。

 躊躇なく剣を撃ち合い、激突によってできる衝撃波をところかまわずばら撒く。


「うぎゃあああッ!?」

「本当だ! 近くにいるだけで殺されかねん!?」


 居合わせた者たちは不幸であった。


 幾合かの撃ち合いのあと、ついにハイレベルの戦いに戦場自体が耐えきれず、天井が崩れ去る。


「ぎゃひいいいッ!?」

「倒壊する! 逃げろ! 逃げろおおおッ!?」


 しかしエイジ、グランゼルドの当人らは降り注ぐ瓦礫も気に留めず、逆にその瓦礫を蹴って駆けあがる。


 二人の姿はすぐさま見えなくなった。


「天井の上に出た……!?」


 残された者は唖然とするしかなかった。

 まだほんの小手調べの段階だろう。

 それなのに二人の通ったあとは、まるで自然災害に蹂躙されたかのようだった。


「べらんめい! 戦うならちゃんとしたところで始めろや!」


 聖槍院長の罵声も皆納得するところであった。


「まったく、屋内だろうが容赦ないのう。自分たちの本拠を更地にしてしまう気か?」

「恐らく、そうかもしれません」


 そう語ったのはセルンだった。

 青の聖剣を持つ勇者として、もっとも二人に近い彼女。


「二人は、こんな建物など潰れてしまえと思いながら戦っているのかもしれません」


 エイジはそもそも、聖剣院の終焉を願っていた。

 聖剣の権威を振りかざすだけの害悪機関は、さっさと潰れてしまえと。


 聖剣院の存続を願うグランゼルドもまた、その腐敗には頭を痛めている。


 存続を願うからこそ内部に溜まった膿を出し尽すため、その象徴たる巨大建築を崩壊させてしまえと考える。

 瓦礫の中から新たな聖剣院が再生するのだ。


「どちらが勝っても、この戦いは聖剣院の転機となります。新しく生まれ変わるのか? それとも永遠に死に絶えるのか?」


 歴史の節目は必ず流血によって彩られる。


    *    *    *


 そして神殿の屋根上では、今も激しく金属と金属がぶつかり合っていた。


「そろそろ体も温まってきた。ペースを上げるとしよう」


 グランゼルド。覇聖剣の柄に両手を添えて、振り上げる。


「あのかまえ……!? マズい!?」

「ソードスキル『一刀両断』」


 振り下ろされると共に刀身から放たれるオーラの斬撃。


 もっとも初歩にしてもっとも基本。それゆえにどんな戦局にも対応できる万能のソードスキルが、エイジを襲った。


「うひいッ!?」


 襲い来るオーラ斬撃をジャンプで回避するエイジ。

 斬撃の通ったあとの屋根は抉れ、深い谷のようになってしまっている。


「無闇に避けると追い詰められるぞ」


 エイジが回避する方向を予測して、既に二撃目の『一刀両断』が放たれていた。

 着地点でちょうど重なり合うような狙いに、エイジは回避しようがない。


「ソードスキル『木の葉渡り』!」


 エイジは、空気そのものに魔剣の刀身を叩きつけることで反動を得る。

『木の葉渡り』は本来、空中に舞う枯れ葉などを打って反動を得るソードスキルであるが、エイジは枯れ葉どころか何もない空間に刀身を当て、その反動で軌道を逸らすことに成功。


 二撃目の『一刀両断』を回避する。


「空気そのものを打つ『木の葉渡り』……。お前得意の呼吸スキルとの併用か」

「呼吸スキルを修めると、体の内外を駆け巡る気の流れも意識できる。それを応用しただけのことですよ」

「素晴らしい技術だ。……だが、その技も逃げを打つことにしか使えないなら情けない」

「………………ッ!」


 グランゼルドの指摘通りでぐうの音も出ない。


 だが、彼の『一刀両断』とまともに撃ち合うことはできない。


「ソードスキル『一刀両断』」

「またッ!?」


 息つく暇も与えず、さらなる猛襲が繰り出される。


 今度は『一刀両断』によるオーラ斬撃が四発同時に飛ぶ。

 軌道は放射状。

 逃げ場を潰す意図が完全に現れた攻め口に、エイジは対抗せざるをえない。


「ソードスキル『一刀両断』!!」


 基本には基本で返すより他なかった。


 エイジの魔剣から放たれるオーラ斬撃が、グランゼルド側から放たれた斬撃の一つと正面からぶつかり合う。


「ッ!?」


 同じ『一刀両断』の斬撃だというのに、一方は押し負け、一方がそのまま進む。


「ソードスキル『一刀両断』!!」


 しかしそこは勇者の称号を得たこともあるエイジである。

 通常なら不可能な、ゼロコンマ間隔での『一刀両断』連発で、激突に押し勝ったオーラ斬撃に再びオーラ斬撃を叩きつける。

 それで相殺。


 グランゼルド側の『一刀両断』一発につき、エイジ側は二発でやっと相殺に持ち込めたのだ。


「ソードスキル『一刀両断』」

「!?」


 しかし猛攻は、それだけでやまない。

 次々と放たれる追撃がエイジに襲い掛かる。


「一か所に留まっていると押し込まれる!?」


 慌ててバックステップで回避するものの、グランゼルドはしっかりと軌道を読んで着地点に斬撃を飛ばす。

 回避もダメ、防御もダメ。


 グランゼルドは『一刀両断』の一技しか使ってこないのに、手も足も出ず圧倒される。


 ソードスキル『一刀両断』は、刀身にオーラをまとわせる、ただそれだけの技。

 伴ったオーラで刀身の強度を上げて斬撃の威力を高めたり、オーラを放って飛び道具にしたりと用途は広い。


 修得の安易さから誰も扱え『最低最弱のソードスキル』と揶揄されることすらある。

 しかしその最弱ソードスキルを使って、最強の座を揺るぎなくした。

 それが当代の覇勇者グランゼルド。


 もっとも基本的だからこそ隙がなく、使い手の力量に応じて無限に威力を上げる。


 剣士グランゼルドが、勇者の称号を得るより前から得意技として鍛え上げてきたのがソードスキル『一刀両断』であった。


 すべてのソードスキルを極めたはずのエイジが、たった一つの基本技になすすべなく追い詰められている。

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