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247 ドゥームズデイ

 会議開催中は、誰であろうと途中入場できないことが本来の決まりだった。

 その法を破り、乱入してくる者がいた。


 議場の出入りを遮る大扉が、幾重もの斬線を引かれたかと思うとすぐさまコマ切れとなって崩壊する。


「なな、なんだぁーーーーッ!?」


 聖剣院長を始め、多くの人々が突発時に動揺するが、その向こうから現れた人物にさらなる衝撃を受ける。


 エイジだった。

 聖剣院より新たな覇勇者の位を賜りながらも固辞し、行方知れずとなっていた変人。


 後ろからギャリコ、セルン、サンニガも戸惑いながら付いてくる。


 エイジ登場は、そこに集う全員に分け隔てなく衝撃を与えた。


「エイジ殿……!?」

「エイジ様……!?」

「何故ここに……!?」

「あれが、あの……!?」


 せっかく魔武具容認で固まりかけていた会議の流れを根底からひっくり返す。

 それだけの威力を持っている人物だったから。


「エイジ! エイジよ!!」


 もっとも沸き上がったのは聖剣院長だった。

 馴れ馴れしくエイジの下へ駆け寄る。


「ついに! ついに戻ってきたのだな! 新たな覇勇者よ! 剣神アテナはお前の帰還を待ちわびておったぞ!!」


 エイジは答えない。

 視線すら矮小な聖剣院長に向けることはない。


「やっと決心したのだな! 覇聖剣を受け継ぎ、聖剣院を背負って立つことに! それでいい! 剣神アテナの決定には誰も抗うことができんのだ! 運命を受け入れるべきなのだ!!」

「…………」

「すぐにでも盛大な就任式を執り行うべきところだが、今は立て込んでおる。早速お前に働いてほしい。いいか? 今この世界は魔剣という邪悪に蝕まれており、それらの廃絶を……!」

「黙れ」


 ついに口を開いたエイジによって、聖剣院長は硬直してしまった。

 小者を黙らせるのに一言があれば充分だった。


「お前なんぞに用はない。勝手に割り込んで好き放題喚き散らすな」

「なん……だと……!?」

「僕が用があるのは、あの人だ」


 エイジの視線の先にいるのは、覇勇者グランゼルド。

 沈黙の巨人は腕組みしたままエイジの視線を受けとまる。


「アナタがこの会議に出席させられていると聞きましてね。来たくもないのに、こうして馳せ参じました」

「相変わらず建前を吹き飛ばす男だなエイジ。やっと戻ってきたと思ったら、このような大立ち回りか」


 聖剣院長の下らぬ企てに挟む口はないが、エイジ相手になら話すことは多くある。

 グランゼルドの口は唐突に滑らかとなった。


「…………」


 そして老覇人の視線は、若き覇人の腰下へ。


「完成したようだな、お前の魔剣」

「へ?」


 横ですっかり余計者となった聖剣院長が、空気を漏らすような声を上げる。


「ええ、やっと完璧に仕上がりました。我が魔剣キリムスビが」

「ちょっと! ちょっと待て!!」


 金切り声を挙げる聖剣院長。


「何故だ!? 何故お前が魔剣を持っておる!? そのような穢れた、おぞましい!! お前が持つべきは剣神アテナが与えし至高の覇聖剣ではないか!?」

「僕の旅は、この剣を得るための旅だった。多くの苦労を重ねた。実り多き旅だったよ」

「へ?」

「お前、何も知らないのか? 魔剣を作ったのは僕だ」


 その告白に、聖剣院長の表情が凍った。

 驚愕の表情に移り変わる過程で凍ったので、よくわからない不気味な形で固まる。


「……いや、正確な言い方じゃないな。魔剣を作ったのは、そこにいるギャリコだ」


 背後にいるドワーフの乙女を指し示す。


「覇聖剣を超える剣が欲しい。その要請を受けて彼女が知恵を絞り、腕を振るってくれた。お前らが送り込んできたハルコーンの角を材料に。ドワーフ一の鍛冶技術を持つ彼女が鍛え、ドワーフの神の祝福を受けて完成したのがこの一振り」


 シャラリと鞘から抜き放つ。


「魔剣キリムスビだ」


 散々議題に上がってきながら、顧みられることのなかった実物が姿を現した。

 聖剣院長だけでなく、その場にいるすべての人間が刀身の輝きに引き寄せられる。


「あれが……!?」

「なんという透明な輝き!? それでいて何やら妖気を放っているような……!?」

「見詰めているだけで身を引き裂かれるような感じがする……!?」

「ダメだッ!? これ以上見ていられない!?」

「見続けていたら魅入られる!?」


 傍聴席に座る者も含めて、魔剣を初めて目にする者も多かった。

 それらの者たちの心臓に突き刺さるかのように、魔剣の妖気は鋭く際立ってきた。


「このキリムスビこそ最初にして究極の魔剣。その斬れ味は覇聖剣にも引けを取らない」

「なんと!?」

「しかしそれは、魔剣を鍛え上げたギャリコの手柄だということをハッキリさせたい。魔剣を発明したのは彼女だ。もっとも上手く魔剣を作りだせるのも彼女だ。そのことを聖鎚院長もお忘れなきよう」


 魔武具の産業化を狙う聖鎚院長に、最大の功労者が誰であるか釘指すことを忘れないエイジだった。


「いや、あのー、別に大したことじゃないわよ。作りたいものを無我夢中で作って気づいたらああなってただけで……」


 急な持ち上げて照れるばかりのギャリコだった。

 その一方で……。


「ヤツ……、あやつがあ……!?」


 聖剣院長の憎悪の視線がギャリコに向けられた。


「罪深い女……! 悪魔の女だ! 邪悪な武具を生産し、剣神アテナを侮辱する行為……! 絶対に許せぬ生かしておけぬ!!」

「煩い」

「ぎゃああーッ!?」


 エイジに蹴飛ばされて、議場の隅へ転がされていく聖剣院長。


「お前に用はないといっただろう。これ以上余計な話を割り込ませるな」

「私に用があると言ったなエイジ……」


 エイジとグランゼルド。

 二人の覇勇者が睨みあう。


「アナタに聞きたいことがある」

「今さらお前が、私に何を尋ねるという。今やお前はすべてのソードスキルを修得した。私からお前に教えることは何もない」

「父の行方」


 その瞬間、グランゼルドの両目がカッと見開かれた。


「どこでそれを知った……!?」

「この神殿の書庫で母の手記を見つけた。サスリアさんが大事に保管してくれていた」

「あの御方が……!?」


 グランゼルドが困惑するという貴重なシーンであったが、さすがに重鎮はすぐさま落ち着きを取り戻す。


「なるほど……、それで明らかになった実父を探したいというわけか……。無理もない話であるが……」

「違う。僕の目的は、父が向かい消えていった先にあるものだ」


 エイジは言った。


「そこに剣神アテナの秘密がある。そこに行きアテナの邪悪を打ち砕く」

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