233 カラスを殺し
「アロースキル『後光線』!」
「同じく『後光線』!!」
聖弓の勇者であるレシュティア、サラリスがアロースキルを放ち、上空の鳥型モンスターを次々射落とす。
その命中率は高く、急所を射抜かれたモンスターは雨のごとく地表へと落ちてくるが、それよりなお絶対数は多い。
兵士級モンスター、キョウゲンボウ。
小型の鳥型モンスターで、体長は人類種の子ども程度しかないが、それでもモンスターであれば充分な脅威である。
しかも兵士級の特徴として群れで行動し、今もその数は百羽を下るまいと思わせる規模だった。
「クソ! なんて数だ! これでは全滅させるにしても相当な時間がかかるぞ!!」
「そんなに時間をかけている暇はありません! ヤツらが既に、地上の人々に狙いを定めていますわ!」
キョウゲンボウの狩猟スタイルは、上空から狙いを定め、地上にいる獲物へ一気に急降下して仕留める。
この地のような平面な地形は、ヤツらにとって好ましい狩場だった。
キョウゲンボウの急降下速力は、兵士級と言えども全モンスタートップクラスであるという。
一度降下を始めたら、エルフ族の狙撃能力でも射落とすのは難しい。
土地争いのために、多数のエルフゴブリンが集合していたのが却ってアダとなる。
このままでは数人の勇者では処理しきれない数のモンスターによって、一方的虐殺が繰り広げられるのは目に見えていた。
「サラリス様! 向こうのモンスターが狙いを定め始めました! 射落としてください!」
「そんなモンスターそこら中にいるわ! 自分の射程範囲内を片付けるのに精いっぱいだ!」
「こっちだってそうです! ああッ! 圧倒的に手が足りない!」
エルフ勇者の放つ矢が、一息のうちに四羽のモンスターを射落とそうと、それでも空を覆う凶鳥の群れは少しも減っていく気配がない。
恐らく、人類種の匂いをたどって次から次へと集まってくるのだろう。
「ああッ、もう支えきれない……!」
最初の犠牲者へ凶星が落ちてくる。
そう思われる寸前のことだった。
「……エイジ様!?」
エイジが立つ。
星屑のごとき凶鳥たちのひしめく空の下。
魔剣キリムスビが鞘からすでに解き放たれていた。
「バカ何をしている!? 危険だ下がれ!」
彼のことを知らないエルフ族のサラリスは、エイジを一般人だと誤解し金切り声を飛ばす。
「そんな普通の武器で何ができる!? 立ち向かっても死に行くのみだぞ! 余計な手間を増やすな!!」
「サラリス様!」
レシュティアが止める。
「いいのです! あの方はあれでいいのです!」
「何をバカな……! ただの一般人に……!?」
「エイジ様は一般人ではありません。聖なる武器を持っていないからと言って、そう思うのは早計ですわ!」
「なッ……!?」
エイジは、魔剣キリムスビをかまえ、細く長い息を吐く。
「『弐の呼吸』」
呼吸スキルを一気に数段階に上げ、剣に闘気を込める。
「ソードスキル『三千世界』」
一瞬のうちに、空の色が変わった。
斬り刻まれた凶鳥の残骸が、数百。
エイジが一振りのうちに放った斬撃は、空を飛び交う鳥型モンスター百羽以上をすべて斬り刻み、絶命に至らせた。
これこそソードスキル『三千世界』。
修得難易度最高クラス。
勇者以上が扱える奥義の一つで、全ソードスキル最大の攻撃範囲を持つ。
剣筋を世界全体と交じらわせることで、一筋の運剣が、捉えた敵のすべてに襲い掛かる。
己個人のみの剣ではなく世界と交わる剣として『一剣倚天』の前段階になりえるソードスキルは、エイジにとって扱いは造作もないことだった。
凶鳥たちの死骸が雨のごとく降り注ぐ戦場で、赤の聖弓サラリスは驚愕に呆然とするしかなかった。
「全滅……!? 一瞬で? しかも普通の武器で? 何が何だか……!?」
「サラリス様も聞いたことがございません? かつて世界中を席巻した『青鈍の勇者』の噂。あの御方が覇勇者の栄誉を賜りながらも辞退して放浪を続けていると」
「はッ!?」
「それがあのエイジ様です。だからこそ調停役を務めることもできるのですわ」
エイジの噂は、もはや聖剣院必死の情報封鎖もすり抜け世界中に広まっていた。
曰く、『聖剣なしでモンスターを倒す無頼勇者』。
その武勇伝は、全人類種にまで広まりつつある。
「ただの眉唾話だと思っていたのに……! 本当に存在するのか……? そんな超人が……!?」
「驚いてるところ申し訳ないけど、まだ気ぃ抜かない方がいいよ」
「え?」
「最後にとんでもないのが残っていやがった」
凶星悉く斬り刻まれながら、雲一つない快晴の空にまだたった一つ。
大きく禍々しい黒影が見える。
「まだいたのかモンスターッ!?」
「いえ、あれは大きさといい形といい、キョウゲンボウとは違うヤツです。ずっと大きくて……、あれは……!?」
キョウゲンボウの他にもいた、鳥型のモンスター。
兵士級であるキョウゲンボウよりも大きく強く、さらに上空高くにいることで『三千世界』の斬殺範囲から逃れられたということか。
「翼が四つ……。スクエアフォースか」
エイジの指摘通り、たった一羽残ったモンスターは、それまでいた百羽以上の兵士級とはまるで違う異形だった。
普通であれば二枚一対であるはずの翼が、四枚二対あるという異様さ。
体長もキョウゲンボウとは比べ物にならないほど巨大で、あの巨大さを空中で支えんがため四枚の翼だろうか。
「スクエアフォースは覇王級……。まさか兵士級に交じっているとは。鳥系は分別がないな」
「呑気なことを言っている場合か!? 覇王級だぞ!? 今ある戦力で討伐可能なのか」
「そんなの考えるまでもないだろう」
エイジは言った。
「ここは黙って見ておくことだ。ここはどう見ても、あの人に花を持たせてやる段階だろ?」
全身が漆を塗りたくったように黒光りする小兵の雄姿。
その手には黄金色に輝く己が握られている。
ゴブリン族の覇勇者ディンゴが参戦する。
「ゴブリン族には種族特有の戦闘スキルはない。あるのはただひたすら土地を肥やし、生命を育むためのスキル」
それらのスキルを駆使して勇者にまで登り詰めるのがゴブリン族のスタンダード。
「よく見ておくといい。ゴブリン族の勇者こそ、生き抜くための強さを純化させたような人たちだ」
黄金色の斧が、振り上げられる。
「農耕スキル……!」





