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224 魔剣完成

 こうして男神カマプアアと女神ペレは去った。


 神は必要以上に人と接してはならない。


 不可視の領域からとこしえにドワーフ族を見守っていくということなのだろう。


 ただ去る前に、もっとも必要なものはしっかり頂いたが。


「これが……!?」


 ずっと想い焦がれていた、女神ペレの祝福を受けた鞘。


 エイジは、魔剣キリムスビを鞘の中に収めてみた。

 まるで水が流れていくかのように鯉口へ吸い込まれていった。


「……ッ!?」


 すぐさま抜刀。

 その動作は今までになく滑らか。


 祝福を受ける以前には、剣が鞘に吸い付くようになって力任せにしか抜けなかったというのに。


「この滑らかさなら、鞘走りをそのまま斬閃に乗せることができる……!」

「やったわねエイジ!」


 ギャリコが抱きつかんばかりの勢いでエイジに迫る。


「これで今度こそ魔剣完成よ! ついに! ついに完成なのよ!!」

「長い道のりだったなあ……!!」


 エイジとギャリコ、二人並んで涙ぐむ。


 二人が出会った鉱山集落から旅立って、様々な場所を巡り、もはや数年の月日が経とうとしていた。


 それだけの年月を注ぎ込んで完成した至高の一作だった。


「あれがギャリコの成功傑作ねえ……。オレ用の武器じゃないのが残念だな」


 その横でドレスキファがまだ疲労から回復できずにへたり込んでいた。


 場所はまだウォルカヌス山の頂。

 しかし周囲は森が生い茂り、草木の香気がなおさら人体を癒していく。


「ドレスキファ殿、つかぬことをお伺いしたいのですが」

「何だよ?」

「覇聖鎚はどうなったのでしょう? 封印が解かれ、ペレ神が解放された今、その檻として使われていた覇聖鎚がどのようになったのか……?」

「変わらねえよ」


 ドレスキファが手に力を集中すると、虚空より現れるハンマー。

 その総身は黄金色に輝いていた。


「神が解放されただのどうだの難しい話はわからんが、大元を叩かない限りモンスターは生まれ続けるんだろう? なのに武器だけ没収されちまったらどうしようもねえよ」

「これからの覇聖鎚は、女神を封じ込められた檻ではなく純粋な神の加護なのですね」


 世界からすべてのモンスターを消し去るには、やはりすべてのラストモンスターを倒すしかない。

 それまで人と魔物との戦いは連綿と続いていくのだ。


「欲しいものは手に入れた。ならばあとの目標は一つだけだな」


 神のふざけたゲームを終わらせて、地上に平穏を取り戻す。


「そのためには他のラストモンスターも倒さなければならない。ということですよね?」

「竜人族やエルフ族の呪いを掛けられた男神が、この世界のどこかに封じられている。それを見つけ出して封印を解放してあげないと……!」


 その前に……。


「もっと根源的な攻めどころがあるんじゃないだろうか?」

「え?」


 エイジは、既に完成された魔剣キリムスビと鞘が体の一部のようであった。


「神は言っていた。この世界を巡る災禍には明確な犯人がいると」


 それが剣神アテナ。

 他でもないエイジやセルンが属する人間族の祖神である。


「アテナが他の女神たちをそそのかし、男神を封印したあと女神たちまでも聖器に封印した。それは間違いなく世界を自分の思い通りにするためだろう」


 女神アテナが詳細に、どんな目的があり何を望んでいるのかわからない。

 しかし世界を変えるためには、根本的な元凶を解決するより他はない。


「女神アテナを戦って倒すと?」

「目途はまったくわからないがな。ペレの言うことをすべて鵜呑みにすることも危ないと思う」


 そう言いつつも、エイジの瞳には確信めいたものが宿っていた。


「皆も覚えているだろう? つい最近の武闘大会だ」

「え?」

「セルンがスラーシャを倒したあと……」


 スラーシャの使っていた赤の聖剣からおぞましい声が上がった。


 自分の思い通りにならないものを蔑み嫌う声。


「あの声には、明確な邪悪が宿っていた。聖なる武器に女神が宿っているというならば、聖剣の中にいる神は剣神アテナ……!」

「なるほど、あんなおどろおどろしい声聞いたら、たしかにソイツが悪者って思えるよなあ」


 そうした会話の間、セルンは無言だった。

 言うべきことはあるのだろう。しかし、それをエイジたちに納得させるだけの器用さが彼女にはなかった。


「とにかくは女神アテナに繋がるものを何でもいいから探し当てるのが当面の目標だな」


 魔剣が本当の意味で完成し、究極的な目標も見えてきた。

 人間族を創り出せし剣神アテナ。


 その前にたどり着けば、世界の謎のすべてが解けるのかもしれない。


「そのためには、やはり行かなければいけないのかもしれないな」


 苦虫を噛み潰したような顔でエイジが言った。


「行く? 何処へです?」

「剣神アテナの情報を得るには、ソイツがもっとももてはやされる場所へ行くしかないだろう」

「それは……、まさか……!?」

「僕にとっては二度と戻りたくない鬼門だがな」


 剣神アテナを崇拝しているのは聖剣院。

 エイジが袂を分かった組織であった。


「その聖剣院の本部がある剣都アクロポリス。そこにいけばアテナに関する資料や伝え聞きが山ほどあるだろう。ペレの証言の裏付けも取れるかもしれない」

「しかしエイジ様が本部に戻るとなれば、大変な騒ぎになりますよ? 恐らく……、というかまず間違いなく、エイジ様が帰順したと聖剣院側は騒ぎ立てるでしょう」

「そこは僕も悩みどころだが、避けていくわけにもいくまい」


 エイジが最初、聖剣院を決別した目的は『自分自身の手で人々を守ること』だった。


 聖剣院の利権に塗れた聖剣ではなく、自身の良心だけに従って振るえる新たな愛刀を求めて、最終的にギャリコが作り出す魔剣にたどり着いた


 魔剣を作る旅路の中で様々な経験をし、図らずも人類種を苦しめるモンスター害そのものを抹消する手段にたどり着いた。

 知ったからには、突き進まないわけにはいかない。


 魔剣が完成した今、目指すべきは全モンスターの抹消あるのみ。


「エイジ様、ならば私もお供します」

「一緒に久々の里帰りと行くか。ついでにこの魔剣を見せびらかしてやろう」


 セルンとエイジが早速決意を改めているところ。

 いつも一緒にいる三人のうちの一人。

 ギャリコだけ言葉がなかった。


              *    *    *


 そしてエイジたちが山を下り、ドワーフの都へ戻ってきた時。

 聖鎚院の支配者、聖鎚院長から報せを受けた。


 聖剣院の発令による、聖器管理者合同会議。


 議題は『魔剣の製造所持拡散を禁止する条約作成』だった。

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