204 群れ襲い来る
ドワーフの都にモンスター接近中。
その報せで、一気に武闘大会どころではなくなった。
ドワーフ族だけでなく、そこ場に居合わせた他種族の勇者たちも集まり、報告を聞く。
「前回の『三災悪』事件以来、ドワーフの都の警備体制は強化してあったのです……!」
『三災悪』とは、前回エイジたちが当地を訪問した際に襲い来た三体の覇王級モンスター。
アイスルート。
ソフトハードプレート。
デスコール。
それらのことをまとめたドワーフ側の俗称である。
たまたま居合わせた人間族の勇者と共に、それら三体を撃退した激戦は、今では語り草になっていた。
「だが……、前回の三体に比べて今回は千体以上? 数で圧倒的に違うぞ?」
「ですがそのおかげで、都に到達するだいぶ手前で発見できました。先ほども言った通り、『三災悪』の教訓で監視体制も強化していましたので……!」
「モンスターたちは間違いなく、ここを目指しているんだな?」
「進行ルートから予測して……!」
あの赤の聖剣から発せられた不気味な言葉から間髪入れずに、この窮状。
無関係とはさすがに思えなかった。
「だがどちらにしろ、目の前のモンスターを退けないことには何も始まらない」
「そなたの言う通りじゃ!」
大会主催者として会場のVIP席にいた聖鎚院長が駆け下りてきた。
「このような不測の事態で武闘大会を続行するわけにはいかん。一時中止じゃ。我が覇勇者ドレスキファよ!」
「おう」
一参加者として居合わせていたドレスキファ。
大会用に握っていた魔鎚を置く。
「そして青白赤黒の聖鎚四勇者よ! お前たちの務めを果たす時じゃ! 速やかに戦場に出て、モンスターどもを撲殺せよ!!」
「「「「承知!!」」」」
予選落ちしていた者もちょうどよく居合わせ、いつでも出撃できる体勢だった。
「前回はあんなに情けなかった連中が……!」
いわゆる『三災悪』襲撃の際には、オロオロするばかりで実戦慣れしてなさを露呈していたドワーフ勇者たち。
よく成長したものだとエイジは他人事ながら感動したものだった。
「しかし聖鎚院長!」
「いくら聖鎚の勇者が、覇勇者含めて全員揃っていたとしても千体以上は同時に相手しきれません!」
「何か対策を練らないと、都市に入る前に一体残らず全滅させるなど到底無理です!」
聖鎚勇者たちの言うことももっとも。
多勢に無勢に、街を守る務めをもった聖鎚院長はどう対処するのか。
「安心せい! 今の我々には強力な助っ人がおるではないか!」
「?」
「モンスターの群れが襲い来るという不運に見舞われながら、その最悪のタイミングに他種族の勇者たちがこれだけ居合わせておるのも、何と言う幸運!」
人間族の勇者セルン。
竜人族の勇者ライガー。
エルフ族の勇者レシュティア。
極めつけに人間族の覇勇者エイジまでいれば、敵モンスターが何千体いたところで何を恐れることがあろう。
「他種族の勇者よ! 皆で協力しモンスターから都を守るのじゃ!! 当然協力してくれような!?」
「いくらで?」
「あれーーーーーーーーーッ!?」
エイジの超辛辣な一言。
「だってアンタ。こっちからのお願い事には逐一対価を要求するだろ? なら、こっちだってご褒美がなきゃ動く気がしないぜ?」
意地悪に言うエイジ。
過去の意地悪にはしっかり仕返しすると言わんばかりだ。
「で、では虹色坑道の許可を……!?」
「その対価は武闘大会に協力することでしっかり払っただろう? 僕たちを動かすには別のしっかりした報酬を用意してくれないとな」
「まさかーーッ!?」
大慌てする聖鎚院長。
ただ、あまり意地悪し過ぎると周囲からエイジが悪者と捉えられるので、もうこの辺にしておく。
「まあ、僕が言いたいのは、あんまりヒトの足元見ていると自分が困った時に泣きを見るよってことだ。どうだろう聖鎚院長、僕らが都市防衛を手伝ってやる報酬は、ある条件を飲んでもらうことにするってのは?」
「条件?」
「ここにいる大会参加者たちにも手伝ってもらう」
その言葉に、再び会場が動揺に包まれた。
名もなき戦士たちが口々に不安を呟き始める。
「覇勇者様!? 何を言われるんです……!?」
「そりゃ戦いたいのは山々ですが……! 聖なる武器を持っていないオレたちに何ができるっていうんですか……?」
モンスターを倒せるのは聖剣を始めとする、神から与えられし聖なる武器のみ。
それは数千年と続いてきた真理であり、誰も覆すことのできない常識であるはずだった。
だから聖なる武器を持たない一般戦士たちが戦いに出るというのは「死ね」というのと同義だった。
「それはもはや過去の話だ」
エイジは言った。
「キミたちの手には魔武具があるじゃないか!」
「!?」
「この武闘大会、僕は不満に思っていることがあった。せっかく魔武具のデモンストレーションが趣旨の大会なのに。対人競技じゃその真価を発揮できないとね」
事故を防ぐためにわざわざ性能を落とす細工までする。
それで本当に魔武具の恐ろしさが世に伝わるのか。
「しかし相手がモンスターなら、どんだけ斬り刻もうとおかまいなしだ。やはり対モンスター用の武器である魔武具は、モンスター相手に振るってこそ真価を見られる」
ゆえにこれは格好の機会。
「武闘大会は、ただ今これよりルールを全面変更だ! 試合形式でなく実戦形式! もっとも多くモンスターを倒して! 手柄を上げたものを優勝とする!!」
誰もが虚を突かれ、思考が空白となった。
エイジの提案があまりに意外すぎて。
真っ先に動いたのは、彼の相棒というべきギャリコだった。
「ガブル」
「はいですわ?」
ギャリコは己が右腕というべきガブルに指示する。
「魔武具に塗ったガマ油、落とす作業するわよ。超特急で終わらせる。モンスターは着々とこっちに迫ってるんですからね」
「はいですわ!!」
武器調整や観戦のために会場入りしていたドワーフ鍛冶師たちが一斉に駆け出した。
「聖鎚院長。僕が助太刀してやる条件は、今言ったことを承認してくださること。それでどうですか?」
「まあ、都市防衛の戦力が増えるんなら願ったりかなったりじゃが……!」
「命を懸けて戦うんだから傭兵料金はちゃんと支払ってくださいよ。もちろん全員に」
「えぇーッ!? この人数に支払うとなったら相当な額になるんでは!? 大会準備でも結構な出費になっているのに! 確実な赤字……!」
「都市滅亡を避けられるんなら安いもんでしょ」
青い顔をする聖鎚院長を尻目に、エイジは歩き出す。
「さ、モタモタしている暇はないぞ。指揮系統を整えて作戦を練る」
その背中を見て、大会参加者たちの体が震えた。
「オレたちが……、モンスターと戦える?」
「覇勇者や勇者の人たちと一緒に……?」
「ザコどころか戦力にもなれなかったオレたちが……!?」
次の瞬間。
歓喜と、熱狂と、闘志に満ちた歓声が上がった。
戦士の雄叫びであった。
武闘大会はここから真の盛り上がりを迎える。





