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199 決勝トーナメント

 予選を勝ち抜き、決勝へと駒を進めた者たちは錚々たる名前が並んでいた。


 人間族の勇者セルン。

 竜人族の勇者ライガー。

 エルフ族の勇者レシュティア。


 ドワーフの都で開催される武闘大会に、これだけの他種族勇者が集うこと自体偉業。


 当然地元のドワーフ勇者も存在感を発揮し、青の聖鎚ダラントと白の聖鎚ヂューシェが決勝進出。


 そして何より、当初は不参加と知らされていた聖鎚の覇勇者ドレスキファまでもが電撃参戦し、当然のように決勝進出。

 優勝すれば聖剣の覇勇者エイジとの前代未聞の覇勇者対決が実現、ということで注目が集まっている。


 ちなみに他のドワーフ勇者――、赤の聖鎚ヅィストリアと黒の聖鎚デグ組み合わせの悪さで予選から同族勇者と激突し敗退していた。


 このように決勝参加者十六名の中にも燦然と輝く勇者の名がいくつも。


 しかし注目すべきは勇者だけではない。

 聖なる武器を賜らずとも、腕っぷし一つで強盗山賊などと渡り合ったり、時にはモンスターに立ち向かうほどの無謀を成し遂げ名を轟かせた猛者たちもいる。


 竜人族、ケンカ百人抜きを達成した喧嘩番長ラーテル。


 エルフ族における最長遠当て記録の保持者でありながら勇者就任を拒否したリンネラ。


『ライアードの蠱災』で避難誘導を指揮し、市民の犠牲をゼロに留めたタグナック第七騎士団長サルストス。


 炭鉱夫生活三十年、そのうち七度の落盤で生き埋めとなりながらすべて生還を果たした不死身のドワーフ、ゴロンゴロ。


 青の勇者だった頃のエイジの下で実力を振るった聖剣院の元兵士。今は傭兵のエノロフ。


 謎の種族。素手で戦い決勝進出。覇勇者エイジの従姉妹を自称する謎の美少女サンニガ。


 誰もが優勝の可能性を秘めた猛者揃いだった。


「こうして見ると……」


 今日も観客役に留まるギャリコが、ふと気づいたことがあった。


「ゴブリン族の姿がまったく見当たらないわね。彼らが使う魔斧もしっかり用意したのに……」

「そりゃ来ないでしょ、アイツらは」

「え? なんで?」


 断定口調のエイジに、さすがに意外の念が湧く。


「だって今繁農期じゃん。クソ忙くてこんな大会に出ている余裕なんかないよ。聖斧の覇勇者であるディンゴ殿ですらこの時期は田植えに駆り出されるっていうのに……」

「なんでそれを早く言ってくださらなかったんですのーッッ!?」

「うわ、ビックリしたあッ!?」


 いつの間にかスミスアカデミーの女生徒ガブルが登場。


「それを知っていれば! ゴブリン用の魔斧の制作は後回しに! というかまったくゼロでよかったのに!! このクソ過密スケジュールの中で魔斧三十丁揃えたワタクシたちの苦労は何だったんですかーッ!?」

「これも経験だと思って。死ぬ思いで作った作品は思い入れが強いでしょう?」

「死ぬ思いでするべきほど価値ある経験なんですの!?」


 キレるガブルをなだめて、再び決勝参加者の顔ぶれに注視する。


 今まで上げられた名は、猛威ではあるが好ましい者たちだった。

 純粋にこの大会に挑戦すること意図しての参戦であろう。


 しかし決勝参加者の中で、ただ一人邪悪な思惑を持って参加する有害の徒。

 その名は何度見直しても消えることはなかった。


 人間族の勇者。

 赤の聖剣スラーシャ。


              *    *    *


 決勝の対戦方式はトーナメント。

 まず十六人による一回戦が八試合行われ、それに勝ち残った八人が準々決勝の四試合を行う。

 それに勝ち残った四人による準決勝二試合。それに勝った二人で決勝を行い、最後の一人を決めるのだ。


 対戦組み合わせは先日のうちに運営側が決めたとされるが、張り出されたその結果に参加者も観客も大いに驚いた。


 他はどうでもいい、たった一つの対戦カードに。


 第一回戦

 セルンvsスラーシャ。


 青と赤の人間族勇者対決。

 その名勝負が第一回戦から実現したのである。


「おいおい! マジかよ!?」

「こんなに早く勇者同士がぶつかり合うとは……!?」

「しかも人間族の勇者! 優勝で待っているエイジ様も人間族だけに、興味深いセレモニーになりそうだ!」


 その対戦表を見上げるのは戦う本人も同様だった。


「スラーシャと……!?」


 セルンの表情に、俄かに緊張が浮かび始めた。


「やれるか?」


 隣にいるエイジが静かに尋ねた。


「キミの調子が悪いのはわかっている。スラーシャは性格最悪だが実力は勇者としての基準を充分に満たしている」


 基本的な戦闘力ならば白の聖剣フュネスよりも上であろう。

 長く続くエイジと聖剣院との軋轢。その延長上にあるスラーシャとの激突には何としても勝たねばならない。


「気負うなよ。負けたとしてもライガーやレシュティアもいる。最後には僕だっている」


 いの一番と決まったこの試合での敗北が、エイジたち一行の決定的な敗北にはならない。


「いいえ、そんな情けない考え方はできません!!」


 しかしセルンは気負った。


「エイジ様の理想を阻む聖剣院の尖兵。この私が何としても止めてみせます! そうでなければ今日までエイジ様の指導を受けてきた私の意味がありません!!」

「だからそれを気負っていると……!」


 エイジが何とか彼女の方から力を抜かせようと四苦八苦していた、その時だった。


「威勢だけはいいことね。紛い物勇者……!」

「スラーシャ……!」


 対戦相手であるスラーシャ当人がやってきた。


「私としても願ってもないことだわ。聖剣院の名を汚す紛い物を、みずからこの手で誅罰する。その機会に早速恵まれたのですから」

「前々から聞き捨てならんな」


 セルンに代わってエイジが舌戦に受けて立つ。


「セルンは聖剣院から正式に選ばれた勇者だし、僕と旅するようになってからお前よりずっとたくさんモンスターを討伐している」

「あらあら」

「聖剣院で暖衣飽食を貪るお前は、せいぜいモンスター討伐は年に一、二匹といったところだろう。実績においてもセルンはお前以上に勇者の資格がある」

「どれだけ言い繕おうと、正当でない理由で勇者になった者に勇者の資格はありません。でしょう、コネ採用勇者さん?」

「コネ……?」


 スラーシャは、ドレスを翻すようにターンして去る。


「リングでの再会を楽しみにしているわ。アナタが私に徹底的に打ちのめされ、無様に転がるその時をね。以降、アナタが恥ずかしくて勇者を名乗れなくなるくらいグチャグチャにしてあげる」


 理由もわからぬほどの、スラーシャのセルンへ向けられる執拗な憎悪。


 武闘大会は第一回戦から大荒れに荒れる。

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