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198 途中反省会

 試合行程は無事消化でき、その日のうちに決勝トーナメント出場者が全員出揃った。


 その中にはライガー、レシュティア、サンニガ、ドレスキファなどの主要な勇者たちも決勝へコマを進めることができた。

 セルンも、苦戦しながらなんとか勝ち抜いた。


 本来であればこのまま、決勝進出おめでとうのお祝いが催されるところであろうが……。


              *    *    *


「ふざけんなよ! クソ女め!」


 試合終了後、集合した主要メンバーは一様に義憤に駆られていた。


「魔武具をお試しするための武闘大会だってのにわざわざ聖剣使うとは! どれだけ空気の読めない迷惑客なんだよ!」

「わたくしもライガーに同感です。聖剣を使っているのなら決勝進出など当然のこと。それを自慢するなど厚顔に他ありません」


 顔ぶれの怒りは、一点赤の勇者スラーシャへと向けられていた。


 スラーシャは、本来武闘大会で使用してはいけないはずの聖剣を使い、対戦相手の持つ魔武具を悉く折ったり斬り裂いたりして勝利を収めてきた。


『魔武具など何の役にも立たない。聖剣の代わりになどなるはずがない』と行動でアピールするつもりなのだろう。


「大会で貸し出しされている魔武具は、すべて兵士級素材で作られている」


 ギャリコが重々しく言った。


「その理由は色々あるけれど、兵士級素材の魔武具で聖剣に勝つことはまず不可能だわ。等級が違うもの」


 一般的にモンスターの等級は、『勇者が戦ってどうなるか』というのが判断基準にされる。


 兵士級の格付け基準は『聖なる武器を持った勇者なら簡単に倒せる』というもの。

『勇者でも本気でかからなければいけない』モンスターが勇者と同格とされる勇者級。


 聖剣に対抗するなら最低、その勇者級素材で魔武具を作り出さなければならない。


「さっき聖鎚院長に確認を取ってきたけど……」


 ドワーフとして地元の伝手を発揮できるギャリコが言う。


「スラーシャってヤツがかなり強硬に抗議してきたらしくて。大会を中止しないと、聖剣院と懇意にしている人間族商人に呼びかけて、彼らの流通網にドワーフの商品を扱わせない、とまで言ったそうよ」

「また無茶苦茶なこと言うなあ」


 世界全土に張り巡らされた流通経路を使い、全人類種の生産品を全人類種の手元に届けるのが人間族の功績である。

 その流れから締め出されると言われれば、曲者の聖鎚院長とて怯まざるをえない。


「さすがの聖鎚院長も、条件をつけて妥協するのが精いっぱいだったみたい」

「それが赤の聖剣を持っての大会出場か……!」


 相手が力づくで来るなら最終的にエイジが何とかしてくれるだろうと踏んでのことか。

 要するにこちらへ丸投げの計略だった。


「実際そんなこと可能なのか師匠? 人間族の流通網から締め出すって?」

「確率的には半々かな。ドワーフの作る工芸品は必ず売れるし、人間族の商人が扱う中で大きな割合を占めている」


 それをまったく扱えないとなればドワーフにとっても痛手だが、人間族商人たちが被る経済的被害も計り知れない。


「聖剣院にとってはどれだけ商人が困ろうと他人事だし関係ないってスタンスなんだろうけれど。自分たちのために食い詰めろなんて要求は、あまりに無茶苦茶すぎる」


 しかしその無茶苦茶が通ってしまうのが今の人間族だった。


 聖剣院に逆らい、勇者による通商ルートの護衛が解除されたら商売自体ができなくなってしまう。


「それを恐れて、大損覚悟で商人たちが従う可能性もゼロじゃない。というかけっこう高いんじゃないかな?」

「そんな……!」

「しかし、この大会が成功して魔武具の存在が知れ渡ればそうでもなくなる。聖剣院に守ってもらえなくなる代わりに、魔武具所有の傭兵隊を護衛に付ければモンスターだって怖くはなかろう」


 つまりそれは……。


「武闘大会を成功させれば、聖剣院に一泡吹かせてやれるってことだな!?」


 元々部外者だったライガー、レシュティアなども、この一件ですっかり聖剣院に怒り心頭だった。


 叶うならばその横暴を叩き潰したいと義憤に燃え盛っている。


「キミらはそう気負わなくていいよ。最悪でも僕が出ればなんとでもなることだし」


 エイジは、腰に下がった魔剣キリムスビの柄をポンポン叩いていった。


「そうよね、大会で魔武具側が不利なのは、あくまで兵士級素材に限定されているから。覇王級素材で作った魔剣キリムスビにエイジの実力が加われば、あの女勇者に負けることなんて絶対にないわ!」

「いやいや、待ってくれよ……!」


 その発言にライガーが物申す。


「何でもかんでも師匠に任しちゃあ、オイラたちの立つ瀬がないぜ。相手は勇者。なら同じ勇者のオイラたちこそがアイツの非道をぶっちめるべきだ」

「ライガーの言う通りですわ。明日の決勝。ここにいる誰かが必ずあの勇者女と当たるはずです。その時こそ本物の勇者の戦いというものを見せつけてやりますわ!」


 レシュティアも明日への闘志を燃やす。


「セルンさんも、やりますわよね?」

「えっ? ……ああ」


 そしてセルン。

 昼間の不調が尾を引いているのか、元気がない。


 この席でも結局ここまで発言が一つもなかった。


「…………」


 それをエイジも気づいていた。なので気を使った。


「さあ、陰気な話はこれぐらいにして。キミらも今日は戦い通しで疲れただろう。明日は決勝だ。しっかり備えておくといい」

「はあ? これぐらいまだ何ともねえぜ師匠? モンスター戦では何日と戦い通しなんてざらなんだしよ?」


 ライガーたちはまだ話足りないのか不満げだが、強引に押し通す。


「そんなこと言っていいのか? 明日はこの中の誰かがこの僕と戦うんだろ? 寝不足で本気を出せませんでしたなんて言い訳は聞かないからな」

「そうですわ!」


 指摘されて若き勇者たちは目の色変える。


「明日は優勝して、栄えあるエイジ様への挑戦権を勝ち取るのです! しっかりコンディションを整えておかなければ失礼に当たりますわ!」

「もう優勝した気でいるのかいレシュティア! 悪いがオイラこそレオポルドのジジイに勝って絶好調の勢いよ! テメエのことも決勝辺りでブッ倒してやるぜ!」

「あら大した自信ですこと。ではエイジ様との対戦の前に前哨戦ですわね?」

「おう、お前とな!」


 闘志を燃やし合って、ライガーとレシュティアはエイジたちの宿舎をあとにした。

 恐らくそれぞれの宿へ向かったのだろう。


「あの二人、まったく同じ方向へ帰ってくけど……?」

「まさか……?」


 そしてセルンが口を開くことはなかった。


              *    *    *


 翌朝。

 武闘大会は順調にスケジュールを消化し、いよいよ決勝トーナメントが今日から始まる。


 対戦の組み合わせは、運営側が前もって厳正な抽選を行っていたが、そこで思わぬ組み合わせが発表された。


 第一回戦の目玉となる対戦カードは……。


 セルンvsスラーシャ。

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