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195 試合開始

 こうして始まった魔武具試用武闘大会。


 まずは予選である。

 何しろ参加者が何百人もいるので、複数ある試合場で同時進行の試合が行われる。


「参加者番号329番! 第六リングへ至急来られたし! 遅れれば試合放棄と見なす!!」


 とにかく数が多いのでガンガン回して行かないといけない。


 試合ルールは一対一の勝ち抜き形式。

 武器は運営側より貸し出しされる魔武具を使用。それ以外特にこれといった規定はない。


 あとは互いの全力を尽くして戦うのみである。


 決勝トーナメントへの進出枠は十六人。

 その人数に絞られるまで、試合は繰り返される。


 それぞれの戦闘スタイルに見合った魔武具をもって。


「しかしよく間に合ったなあ。魔武具作り。一体どれだけ作ったの?」

「人間族用の魔剣、竜人族用の魔槍。ドワーフ族用の魔鎚。エルフ族用の魔弓。そしてゴブリン族用の魔斧をそれぞれ三十ずつよ」


 ギャリコの指導によって作り出された魔武具たちは、たしかにそれ以前より出来がいいと評判らしい。

 とは言え参加者全員には行き渡らないので、試合中だけ貸し出しで試合が終われば返却。

 鍛冶師たちの調整を受けて再び貸し出されるというシステムだという。


「大会用に作った魔武具はすべて兵士級素材よ。純粋にそれ以上の素材が足りなかったってのもあるけれど、公平性を期すためっていう側面もあるわね」


 たとえば勇者級の魔剣と兵士級の魔剣があったとして、勇者級を取った方が勝ちという勝負の着き方ではあまりに雑すぎる。


 今回は公正な試合ということで、そうした配慮が必要ということだろう。


「……ところでさ」

「はい?」

「凄く今さらなんだけど、人類種同士で試合するのに本物の武器を使って大丈夫なの?」


 本当に今更ながらの疑問であったが、普通の武器では傷つけられないモンスター撃破を望んで開発された魔武具である。

 それが人類種の体を引き裂くなど容易いこと。

 そんなものを使って試合など行えば、武闘大会が血塗られることは確実。


「その辺は考えてあるわよ」

「ほう?」

「魔武具を作る過程で生まれた副産物があるんだけどオイルフロッグってカエルモンスターがいるでしょう?」

「ああ、兵士級の……」

「アイツが体表から出す油には、刃物の切れ味を極端に鈍らせる効果があるの」

「知ってる知ってる。その特性のおかげで兵士級の中では特に厄介なんだよな。油が覆ってないところを狙うか、特別なソードスキルを使うしかない」


 エイジは、往年の戦闘記憶を呼びおこしてげんなりしたが、すぐにハッと気づき……。


「まさか、その油を剣に?」

「そう、同じモンスター由来の品物だからか、魔武具にも充分効果を発揮してるわ。安全装置としてね」


 エイジとギャリコは試合を見守るが、既にいくつかのリングでは決着がついて、勝者の名が呼ばれている。


 敗者は、剣の斬撃なり槍の刺突なりを受けるが、痛みに呻きながら深い傷はなさそうだ。


「何だかよくわからないけど鈍器であるハンマーにも効果を発揮するし、おかげで大会は大過なく進行できそうよ」

「刃傷沙汰にならないのはいいことだ。でも……」


 エイジは思った。


「魔武具の性能を大々的に知らしめるための大会なのに、その魔武具の性能を制限したら意味あるのかなあ……?」

「それよね」


 前提が間違っている不安に今さら遭遇しながらも、大会進行はもはや留まるところを知らない。


 魔武具に関する宣伝効果は疑問でも、大会にかかるエイジの名声に人の熱気は渦巻いている。


 誰もが優勝し、地上最強の誉れ高い覇勇者に挑戦しよう、もしくは名を覚えてもらおうと戦意を燃やしている。


「優勝するのはオレだ!」

「いやオレだ!」


 会場にいくつも並んだリングで、戦いの火花が咲き乱れていた。


              *    *    *


 そのうち一つのリングでは、既に大きな渦が起こり始めていた。


「ランススキル『ストレート・アサルト』」


 目にもとまらぬ一直線の刺突。

 防御が間に合わなかった対戦相手は、槍の穂先を鳩尾に受けて場外まで吹っ飛ばされる。


「あ、相手戦闘不能と判断! よって勝者は……!」


 審判の慌てる口調。


「竜人族のライガー!!」

「ドワーフ鍛冶の用意した油はたしかによくできてるな。殺すまいとだいぶ力を抑えたが、次からは必要なさそうだぜ」


 竜人族のライガーは、貸し出しを受けた魔槍を振り回し、ヒュンヒュン風鳴りの音を鳴らす。


「この魔槍とやらもいい使い心地だ。柄のしなりが尻尾に響くぜ」


 大会参加者は他にも多くおり、その中には竜人族も多くの割合含まれていた。


 人類種の中でも高い身体能力を誇り、ケンカ好きで傭兵になるものも多い。

 だからこそ大会参加者には竜人は多くの割合おり、同族の勇者のことも広く知れ渡っていた。


「あれはライガー……!? 青の勇者……!?」

「勇者が参加しているのかッ!? なんでだよ!?」


 竜人族の勇者参戦。

 その事実に会場が凍り付き、同時に盛り上がる。


「さあ、ザコをふっ飛ばしたぐらいじゃ物足りねえぜ。次来な」

「しかしライガー選手。一度の試合を終えたからには休憩を挟まねば……!」


 審判が恐る恐る意見するところへ、しかし事態はそのまま動く。

 リングの、ライガーの睨む向かい側に、霞のようにいつの間にか次の対戦相手が現れていた。


「恐れ知らずの若造の相手は、ワシが務めてやろうかのう」

「アンタは……!?」


 現れたのはやはり竜人族。

 しかもかなりの老体だった。


 竜人族特有の武器である槍も、むしろ縋る杖のようである。


 その老体の姿を見てライガーがおののく。


「アンタは……、レオポルド!?」

「ほう、ワシを覚えてくれとるかね? 若造にしては殊勝なことじゃ」


 竜人族の老人は、相変わらず槍を杖代わりにして縋りついている。


「オイラは、強えヤツの名は忘れねえ主義でね。先代の白の聖槍の勇者さんよ!!」


 竜人族、先代白の勇者レオポルド。


 現・聖槍の覇勇者シーザーとその座を巡り争ったという、竜人族における伝説的人物である。


「まさかアンタが出場していたとはな。年寄りの冷や水過ぎるぜ!?」

「老体だからこそ、戯れに参加するほど暇を持て余しとる。人間族とドワーフ族が、新しい遊びをこさえようという。首を突っ込みたくもなるであろ?」


 老竜が、借り受けた魔槍を構える。


「遊びはな、子どもだけの行いじゃあらせんのよ?」

「大人気なさすぎるぜジジイッ!!」


 竜人の勇者の新旧対決。


 武闘大会は始まったばかりだというのに前代未聞のビックバトルが勃発。


「どうなってるんだこの戦いは!?」


 集う参加者は驚き戸惑うばかりだった。

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