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193 大会当日

「青の聖鎚ダラント!」

「白の聖鎚ヂューシェです!」

「赤の聖鎚ヅィストリアだぜ!!」

「黒の聖鎚デグ!」


 聖鎚の四勇者が集合していた。


「おおー、久しぶり」


 ドワーフ族の勇者として同族を守る使命を帯びた彼ら。


 ここ数日はドワーフの都を出て、モンスター退治のため山野を巡回していたのだが、この日を選んで結集した。


「その用向きは?」

「もちろん! ボクらも大会に出場するためです!!」


 魔武具試用武闘大会。


 ついに今日、開催当日を迎えていた。


 会場はドワーフの都の一画に特設されている。

 試合を行うためのリングが一つならず並び、そこでの名勝負を見守るための観客席もひな壇の形で豪勢に築き上げられている。

 あれならば優に数千人が観戦することができるだろう。


「ああいうのを何日かそこらでシッカリ拵えられるんだから、やっぱりドワーフの建築スキルも凄まじいよなあ」

「ドワーフ族が主催する武闘大会で、ドワーフの勇者が戦わないわけにはいきません!!」


 ドワーフ勇者の四人はとにかくテンションが高い。


 モンスター退治の遠征から帰ってきたばかりだというのに、少しも疲れる素振りを見せず、武闘大会への情熱を燃やしている。


「あー。じゃあやっぱり大会出場のために戻ってきたの?」

「だからそう言ってるじゃないですか! ボクたち四人で大会を蹂躙し、ドワーフ勇者ここにあり! と見せつけてやるんです!」


 荒ぶる気もちに任せて聖鎚を振り回す。


「おっといけない! この大会では聖鎚は使わないんだった!」

「スミスアカデミーの生徒が作ってくれたモンスター素材のハンマーを使うんだよね!」

「魔鎚ってヤツだな!」

「上等だぜ! つまり相手と同条件で勇者の純粋な実力を見せてやれるんだろう!?」

「「「「やってやろう!!」」」」


 と、固く拳を打ち付け合うドワーフ勇者たち。


 大会盛り上がりの素が、ここにもまた一つ転がっていた。


「あっ、セルンさんお久しぶりです!」


 ドワーフ勇者たちの視線が、エイジの隣に立つセルンへと移った。


「セルンももちろん大会に参加するんだろ! エイジ様と一緒に!!」

「ええ、まあ……!」


 セルンとドワーフの四勇者は、過去に協力して覇王級モンスターに立ち向かった戦歴がある。


 格上である覇王級を普通の勇者たちが打倒するには一致団結する以外にない。

 心を一つに合わせて困難を打倒することにより、一人の人間勇者と四人のドワーフ勇者の間には、それ相応の絆が出来上がった。


 互いに心から再会を喜べる程度には。


「本戦では、オレたちで無双してやりましょうぜ! 勇者が、ただ単に聖なる武器を持ってるだけで強いってのが間違いだと教えてやりましょう!」

「ええ……、まあ……!」

「どうせ優勝は、ここにいる中の誰かで間違いないですって! 他の連中の身の程知らずをわからせてやりますよ!!」


 ドワーフ勇者たちは、出会った頃のミーハーぶりはまったく影を潜め、歴戦で積み上げた自信に満ち満ちていた。


 数々の勇ましい発言も、その自信から発したものであろうが……。


「そんなにうまく行くかねえ……?」


 と新たに参入する声。

 竜人族の男と、エルフ族の美女である。


「ん? キミたちは誰?」


 初めて見る顔に戸惑うドワーフ勇者たちだったが。


「ご紹介いたします。竜人族の勇者ライガー殿と、エルフ族の勇者レシュティア殿です」

「「「「ええええええええええッ!?」」」」


 ドワーフ勇者たち素直に驚く。


「他種族の勇者まで大会に参加を……!」

「そういうことさ。ってなわけで本戦で当たった時は正々堂々戦おうぜ。握手」

「は、はあ……!」


 というわけで、地元勇者だからとて簡単には優勝できそうにない現実を実感してしまう。


「ところで、そっちにも青の勇者いるんだろ?」

「あ、はいボクです」


 ドワーフの勇者で青の聖鎚を持つダラントが手を挙げる。


「じゃあキミこっち来て」

「ええ……!?」


 手を引っ張られてライガー、ダラント、レシュティア、セルンが並ぶ。


「集合! 青の勇者チーム!!」


 青の聖槍と青の聖鎚と青の聖弓と青の聖剣を持った勇者たちが揃うのだった。


「あー!」

「何かそれカッコいい! ワタシもそんな風にキメたい!」


 何故か他のドワーフ勇者たちに大絶賛だった。


「……こういう風に、和気藹藹と進めばいいけどなあ」


 エイジは願望を述べるが、それは空しい願望であった。


「見苦しく姦しい……」


 この世のすべてを侮蔑するかのような傲慢さに満ちた声。


「ここには、本当の勇者と呼べるものはいないようね。ただ一人、この私を除いて」

「ッ!? スラーシャ!?」


 そこに現れたのは人間族の勇者、赤の聖剣を使うスラーシャだった。

 その登場に、和気藹藹とした雰囲気が吹っ飛び一気に緊張が上がる。


「何故いる? 聖鎚院への抗議には失敗したんだろう? ならとっくに尻尾を巻いて逃げ帰ったものかと思ったが」


 実際に大会が開催されているのが、スラーシャの思惑が通らなかった何よりの証拠だった。


 聖剣院の意思を受け、聖剣の特殊性を冒す魔武具の拡散を阻もうと、聖鎚院に抗議しに来た走狗スラーシャ。

 その思惑が果たせずになおドワーフの都に留まる理由は。


「私も大会に参加することにしました」

「なんだと?」

「ドワーフは下等種族だけあって頭の作りも下等らしく、話し合いが通じない。ならば行動でわからせるしかないと思いまして」

「わからせる? 何を?」

「魔武具などという下等なオモチャが、聖剣の代わりになれるなど絶対にないということを」


 スラーシャは薄く笑ってから踵を返す。


「しかしその他にも楽しみはありそうです。下等な他種族勇者がこれだけ雁首を揃えるなら、そのすべてを倒して人間族の勇者こそが最強だということを明確に知らしめるのもいいでしょう」


 心からの侮蔑を込めて。


「それからもう一人、同じ人間族であっても勇者とは呼びようもない紛い物も……」

「……ッ!?」

「一緒に叩き潰してあげますわ」


 去りゆくスラーシャの背中に注がれる全員の視線は冷たかった。


「……おいヅィストリア。アイツお前と同じ赤の勇者だぜ? 同色勇者でポーズキメ合えば?」

「やだよ。あんな嫌なヤツとお近づきになりたくない」


 ドワーフ勇者たちも、スラーシャにもった印象は最悪らしい。


 同じ人間族として恥ずかしいエイジだった。

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