189 各所の反応
聖鎚の覇勇者ドレスキファ。
我らがエイジに、人間族の勇者セルン、竜人族の勇者ライガー、エルフ族の勇者レシュティア。
謎の錚々たる面子で会談は進む。
「少なくとも聖鎚院はさ。魔武具が流行ったところで困りはしないんだ」
聖剣院と違って。
そう意外なことを言う。
「聖鎚院はドワーフ族の代表として、ここドワーフの都を治めている。都市の心臓部とも言うべき虹色坑道も聖鎚院が運営しているんだぜ」
つまり聖鎚院にとって鉱山から産出される鉱物や、それらを加工して作る金属製品こそ運営を捧げる財源であるということだった。
むしろそちらがメイン財源だった。
「聖鎚院にとって聖鎚なんて、大事な大事な鉱山をモンスターから守る手段程度の認識でしかねーよ」
だからドワーフ族にとってモンスターを倒す手段が聖鎚のみである必要などまったくなく。
むしろ手段が増えた方がより万全に鉱山を守ることができて得なぐらいだった。
「それ以上に聖鎚院長は、魔武具をドワーフの目玉商品として売り出す気満々だしな。損するどころかビジネスチャンスだよ」
「したらば聖剣院の抗議に従って、魔武具作りを放棄することは……」
「絶対ないね。どんな屁理屈をこねてでも必ず初志貫徹するわ」
立派なのかあさましいのかわからない宣言ぶりだった。
「なるほど……、聖鎚院は聖鎚の恩恵だけで利を得ているわけではないのですね」
意外そうな口調でセルンは言った。
「何だか意外です。聖剣院は、聖剣で人々を守る見返りとして多くの寄付金を集め、それで巨万の富を築き上げているというのに。……あのッ」
セルンの興味が別の方面へと向いた。
「聖槍院や聖弓院はどうなのです? 竜人族やエルフ族にとっては聖なる武器の扱いはどのようになっているのでしょうか?」
「ウチは特に何もしてないぜ?」
竜人族のライガーが言った。
「聖槍院なんて実質的に種族の寄り合い所みたいなものでしかないからな、一族のケンカ自慢が集まって、テキトーに勝ったヤツに聖槍を渡すんだ」
「いかにもケンカ好きらしい竜人族の原理だよね」
そもそも竜人族に富を蓄えるという意識は低い。
人類種最強の身体能力を持つ竜人にとっては己が腕っぷしこそ財産。
金銀などというただ光るだけの石ころなど財産には値せず、従って聖槍院を高度に組織化して、財源を作り出す必要もなかった。
ただ純粋に、聖槍を管理する寄り合いでよかったのである。
「そもそも利を得ようとすること自体、不純ですわ!」
エルフのレシュティアが聞いてもいないのにプリプリ言い出した。
「卑しいです。狡知です。金銭などというものは心を堕落させ、汚してしまう悪魔の価値観ですわ!」
「これまたエルフらしい意見だねえ」
「そのため我らエルフ族の聖弓院は率先して、『富を持ってはならない』と誓約しております」
聖弓院に所属する者は、みずから進んで清貧の生活を心がけ、モノを持ち過ぎず、貪りすぎず、欲しない。
それを下から上まで徹底し、聖弓の覇勇者トーラですら一般エルフと変わらず、森の中に作られた木の小屋で質素に暮らしているという。
「聖弓院に所属する者は、みずから森に入って木の実を拾う務めを課します。必要なものは森が全部与えてくれます。それをみずから取りに行くことすらしない者に、神から賜った聖弓を管理する資格はないのですわ!」
「耳が痛い痛い」
エイジは苦笑するより他なかった。
「もっと多くの人たちに聞かせてやりたい演説だったよ。セルン、キミはどう思う?」
「何と言うか、ちょっと衝撃です……!」
要するに、聖なる武器で守ってやっているのだと恩着せがましくして、自族から寄付金をせびり取っているのは人間族の聖剣院だけだったのである。
「各種族によって富の概念は違う。技術や物流を売り物にして率先して利益を上げているのは人間族とドワーフ族、あとゴブリン族ぐらいのものだ」
そのうちドワーフ族は鉄鋼製品、ゴブリン族は農作物という実質的な売り物を保有しているが、人間族は生まれ持っての商人。
その最大の資産は、他種族の生み出した商品を移送する流通システムで、形ないものだった。
自然、聖剣院はタカリ屋になるしかない。
「勉強になる一席だなあ」
エイジはあくまで他人事のように言った。
「まあ、ゴチャゴチャと長い話になったけれど、結局のところ聖なる武器のプレムアム感がなくなって困るのは聖剣院だけ、という話だよ」
従って他の種族の同じような組織が協力して、魔武具作りを潰すこともありえないということだった。
「スラーシャのヤツも抗議するだろうが、抗議したところまでで終わりだよ。それ以上は何もない」
「その辺は安心してくれよ。聖鎚院を代表して、聖鎚の覇勇者たるオレが請け負ってやるからよ」
ドレスキファは自信満々に、みずからの意外と豊かな胸を叩いた。
「大船に乗ったつもりで、お前ら試合本線に備えて体作りでもしていてくんな」
「アンタは出ないのかよ?」
ライガーからの何気ない質問に、ドレスキファが止まった。
喉の奥から「んぐふッ」と空気が漏れ出す。
「いや、普通そうだろ? ここは聖鎚院のお膝元、だったら聖鎚院を代表するドレスキファさんこそ大会に出て存在感を示すべきなんじゃね?」
「…………ッ!!」
当然といえば当然という指摘に、ドレスキファは無言しか返さなかった。
「……アレ? どうしたの?」
「彼女は出ないよ」
エイジは言った。
「聖鎚院長が言ってたけどさ。仮にドレスキファが大会に出て、早い段階で負けたとするじゃん? それはそれで聖鎚院の権威はガタ落ちじゃない?」
「えー?」
「聖剣院とは質が違うけど、聖鎚院は聖鎚院で守りたい権威があるんだよ。幸い客寄せの広告塔としては僕がいる。人間族である僕が負けたところで傷つけられる権威は人間族のもので、聖鎚院は痛くもかゆくもない」
「うわー」
そういう意味でもエイジは、聖鎚院によって都合のよい駒だった。
「ドレスキファは、大会に直接関わらないように厳命されてるんだってさ」
それを言われてドレスキファ当人は、苦虫を噛み潰したような顔で目を閉じた。
それぞれにはそれぞれの事情がある。





