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180 再来訪

 ドワーフの都、マザーギビング。


 ドワーフ族の中心地にして世界最大規模の鉱山を抱えるその街は、間違いなく世界屈指の巨大都市であろう。


 エイジたちは既に一度、このドワーフの都を訪れている。


 旅の仲間であるギャリコが若き日に修業した街でもあり、様々な思い入れがある。

 そんな街に、エイジたちは再び舞い戻ってきた。


              *    *    *


「帰ってきたなー」


 思わずそう言ってしまうエイジである。


 ドワーフの都は、エイジたちの旅にとって最初の目的地であり、次の目的地へ向かって出発した場所でもある。

 新たな目的も達成し、再びやって来たこの街に『戻ってきた』という感慨が湧くのは、致し方のないことなのかもしれなかった。


「ここまで来るのに大変だったー……!」

「本当に疲れましたね……!」


 同行のギャリコ、セルンも到着するなり脱力感が酷い。


 二つ目の目的地ヨモツヒラサカからここドワーフの都へとんぼ返りする道のりは、決して平坦なものではなかった。


 黒の勇者モルギアと共に戦ったキマイラ討伐もあり。


 その他にも経路上にある様々な国家や都市の実力者に引き合わされ、体力よりも精神力を消費する旅であった。


「エイジ様への歓待もさることながら、ギャリコへのアプローチも凄かったですよね」

「タグナック辺りから、アタシが魔剣作れるってことが知れ渡ってきたから……」


 元凶のタグナックでは、「倒したモンスターの材料で魔剣を作る」と約束したものの、倒したキマイラの死体はほとんど再利用不可能になってしまった。


 泣いて縋るタグナック王に「後日ちゃんとしたのを作るから」と約束してなんとか振り切ってきた。


 そんな旅路のエイジたちである。


 その一方で……。


「うおー! でけー! 人いっぱいいるー!!」


 さらなるエイジの同行者たちの一人、サンニガは初めて見る都市の光景に瞳を輝かせていた。


 孤高の種族オニ族として、故郷であるヨモツヒラサカから一切出たことのなかった彼女。

 そんなサンニガが初遭遇する都市の光景は、それこそ異世界的な印象となろう。


「……旅の途中で、人族の王都とかいくつか通過したけど、やっぱりドワーフの都は別格だからなあ」

「あんまりはしゃいで遠くに行かないでよ。迷子探しとか、これ以上の手間はゴメンだわ」


 彼らがドワーフの都に戻ってきたのは明確な目的あるがゆえであり、だからこそ本来寄り道などしていられなかった。


 先の旅で掴んだ重大情報。

 人類種とモンスターとの終止符を打てるという最後のモンスター、ラストモンスター。


 その詳細を求めてエイジたちに浮かんだ唯一の心当たりは、ドワーフの都の地底奥深くに封印されている『敵対者』ウォルカヌスしかなかった。


 神に匹敵する能力と広い心を持つあの存在ならば、ラストモンスターのことも知っているかもしれないと。


 そしてもう一つ。

 もはやエイジとギャリコのライフワークとなっている究極の魔剣作り。

 その総仕上げとなる鞘の完成にも、ウォルカヌスのさらなる協力が必要であるとわかった。


「とにかくウォルカヌスに会おう」


『敵対者』ウォルカヌスの所在地は、ドワーフの都が抱える大坑道、虹色坑道の奥深く。

 つまりウィルカヌスに会うためには坑道に潜らなければならない。


「また許可が必要ね。聖鎚院長の」


 以前もそうした。


 ドワーフの都を支配しているのは、聖なるハンマー聖鎚を管理する聖鎚院なのである。

 都に付随する虹色坑道の管理も聖鎚院が行っていた。


「またアイツに頼み事しないといけないのか……。嫌だなあ……」


 去日を思い出して「うへぇ」とした表情になるエイジ。


 聖なる武器を管理する機関は各種族に一つずつ存在するが、どこも似たようなものだなと思わせるものがドワーフ族の聖鎚院長にはあった。


「以前許可取るにも相当難攻したし、あの苦労再びと思うとげんなりするぞ?」

「まあ、大丈夫でしょう? 前回の件で聖鎚院はエイジに大きな借りが出来たし、そこを考慮したらさすがに無条件で入坑許可してくれるわよ!」


 それもそうか。

 あははー。

 とエイジたちは笑い合った。


 エイジたちは以前、都に襲来する覇王級モンスターを退けるのに協力した実績がある。

 そこを考慮すれば向こうも協力してくれる。


 そう楽観していた彼らであったが……。


               *    *    *


「ならん」


 エイジたちに謁見までは許した聖鎚院長は、にべもなく拒絶した。


「コイツの面の皮の厚さ舐めてたわ……!」

「聖なる武器を管理する連中はどの種族も同じか……!」


 エイジとギャリコは、小声で話し合った。


 それにかまわずドワーフにしては髭一本もないツルツルした顎を撫でて聖鎚院長は言う。


「たしかに前の騒動ではお前たちの世話になった。しかしその報酬は様々な形で与えてある。ゆえに我らとお前らとの間に貸し借りなどない! よってお前らの頼みを無条件で聞き入れてやる義理もないわけじゃ!」

「勝手な物言いを……」


 しかし聖鎚院長の主張には筋が通っていて、反論もできない。

 エイジは観念するしかなかった。


「いっそのことまた都合よくモンスターが襲ってこないかなあ……?」

「何を言う!? 覇勇者ともあろう者が縁起でもないことを!?」

「うそうそ。では聖鎚院長? 願いを聞き届けてもらう代わりに、今回は何をやってあげましょう?」

「うぅ……?」

「よく考えて提案してくださいね? あまりあこぎなことをすると、本当にまたモンスターが襲ってきた時、助けたくなくなってしまいますからね?」


 言外にあるエイジの凄味を、聖鎚院長とて無知覚でいられるほど鈍感ではなかった。


「……フン、わかっておるわ。貸し借りはないが、前回の災難におけるお前の働きに感謝の念がないわけではない。それに免じて格安の条件で虹色坑道に入ることを許可してやろう!」

「よかろうですな」


 何故か偉そうなエイジ。


「ちょうどよく、お前に打ってつけの役目がある。それを果たしてワシに恩を売るがいい」


 負けないぐらい偉そうな聖鎚院長。


「どんな仕事か、詳しく聞いてから受けるかどうか判断しよう。説明してくれ」

「抜け目ないヤツめ。だがの、お前らはきっと興味を抱くぞ?」

「お前ら?」


 その言葉に問答を控えるギャリコやセルンも反応する。


「何しろ、あの企画はお前たちこそが発端じゃからの。ワシの可愛いガブルちゃんのところに行って説明を聞いてくるがいい」

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