155 独りの夢では
タグナック国王サンニーとの会食を終え、エイジとその仲間たちは用意された自室へと戻った。
会食中に上がった話題を、改めて協議するためだった。
「王様は魔剣を欲している」
エイジが率直な事実を述べた。
「具体的に何を欲しているのかは、彼自身まだわかってないようだがな。とにかくリストロンド王国が魔剣を振るって快進撃をしているのが、相当羨ましいんだろう。わからないでもない話だが……」
「アタシが、あの人たちに魔剣を作ってしまったから……!」
魔剣政策の当事者であるギャリコが、表情を曇らせていた。
「いや、何故悔いるのです?」
そこにセルンも発言する。
「魔物討伐の手段が増えるのはよいことじゃないですか。勇者四人に覇勇者一人。各種族にたったこれだけの人数では、モンスターを抑えるのに足りないと昔から言われていました」
だからこそ勇者以外の不特定多数が、モンスターに対抗できる力を得る魔剣は、人類種の福音になりえる。
「魔剣が大量生産されて、世界中に流通するようにでもなれば、それだけで世界は変わります。なのになぜそのように深刻そうな……?」
「セルン」
エイジが、いつになく真面目な顔付きで言う。
「キミの言うようなことになれば、おのずと聖剣院は価値をなくし、崩壊にまで追い込まれるだろう。いまだ聖剣院に属しているキミはそれでいいのか?」
「致し方ありません」
意外にセルンは断言した。
「私も、エイジ様やギャリコとの旅で認識を改めました」
いかに現状が腐敗であっても、聖剣以外にモンスターへ対抗する手段がないならば、聖剣院は人間族にとって絶対必要。
だからこそ自分やエイジなどが頑張って、聖剣院を改革して正常な形にしていくべきだ、というのが勇者になったばかりのセルンの考えだった。
今は違う。
「魔剣という新しい手段が出来た今、聖剣院はその役目を終えても何ら問題はありません。問題は人間族が……、人類種全体がこれからも存続していくかどうかです!」
「セルンも随分過激な考え方になったなあ……!」
「エイジ様やギャリコにつき合わされれば誰でもそうなります!」
ふむ、とエイジは押し黙った。
「ギャリコはどう思う?」
「何が?」
「魔剣が大きく流通することに関して。まず可能か不可能か?」
「世界中に行き渡るレベルで……、ってことならアタシ一人じゃとても無理よ。でも、アタシだけじゃなく他のドワーフも魔剣作りに着手するようになれば状況は大きく変わると思う」
「そんなこと出来るのか?」
「何でもできるわけじゃないわ当然。覇王級や勇者級の素材は、扱いが難しすぎてそんじょそこらのドワーフ鍛冶師じゃ歯が立たないだろうし」
「僕がこれまで使ってきた覇王級や勇者級素材の魔剣は、ギャリコだからこそ作り出せたと?」
「そうよ、バカにしないでよね!」
とギャリコはフンスと鼻息荒くした。
実際鍛冶スキル値二千を超えるギャリコは、もはやドワーフ族屈指の名鍛冶師と言っていいほどだし、その彼女が剣作りに並々ならぬ意欲を燃やすからこそ魔剣作りはここまで進むことができた。
それでもギャリコ以外のドワーフ鍛冶師とて無能ばかりではなく、ギャリコの域に追随する名人とて一握りはいるだろう。
素材のレベルを落とせば一般的な腕前の鍛冶師でもなんとか加工は可能であるし、例えば兵士級素材を使った魔剣の生産方が確立されれば、爆発的に広がっていく可能性もある。
「それこそ魔剣だけに留まらず、他の種族の武器だって作られるかもね。魔槍や魔弓、魔鎚。ドワーフの都では魔鎧なんてのも作ったっけ……!
「人間族だけじゃなく、全種族を席巻することだって不可能じゃないってわけね……!」
あまりにも壮大な未来予想図に、エイジの口から空気が漏れた。
「どうしたもんかな?」
「どうしたものでしょうね?」
額を突き合わせて思い煩うエイジギャリコの二人。それを見て大層不可解なのはセルンだった。
「何をそこまで深刻ぶっているのです。普通に魔剣大流行すればいいんじゃないんですか」
「それがねー」
まずギャリコが言った。
「実のところこんな未来は予想していなかったのよ」
と、それこそ予想だにしていない一言。
「アタシは魔剣が作りたかった。でもそれは、昔アタシを助けてくれた最強の剣士に似合う最強の剣を作りたいって、アタシの鍛冶師魂が突き動かされたから」
魔剣とはそのための手段であり、いわばギャリコにとって重要なのは地上最強、究極の一剣を作り出すことだった。
技ある者が、その技術すべてを注ぎ込んだ結果がどうなるかを知ることこそ望みだった。
「だから、人類種全体に行き渡るみたいなことには興味ないのよね。それって大量生産品てことでしょう? そんなの作っても何も楽しくない」
「コイツ……!?」
これまで見え隠れしていたギャリコの職人気質が、全容を晒しだしていた。
「僕も……!」
さらにエイジまで言う。
「魔剣は僕一人だけが使えばいいと思っていた。自分で言うのも何だが、僕は地上最強の剣士だ」
そうなるために忌み嫌う聖剣院に所属し、ソードスキルを極め、最強の聖剣たる覇聖剣を賜るほどの実力を得た。
すべては自分自身が最強の剣士となるために。
「最強となった僕が、最強の剣さえ手にすれば、モンスターはすべて駆逐できるものとばかり思っていた。そのための究極ソードスキル、そのための魔剣」
それこそエイジが、今日まで自分を磨き上げてきたすべてだった。
世界を変える力を、おのれ一人のうちに作り出そうとしていた。
「この人たちは……!」
二人の主張を聞き、二人の生き様をここまで見てきたセルンは戦慄に襲われた。
技を修めることに、すべてをかなぐり捨てるほどに直向きなこの二人。自分の力をすべて出し切る以外の道がまるで視界に入っていなかった。
「これがスペシャリストの見る世界……!?」
一種の視野狭窄ではあるものの、ここまで一つの目標に執着できる者だけが道を極めることができるのかと、セルンは焦燥に駆られる。
自分は、彼らの域に達することのできない凡人ではないかと。
だからこそ『魔剣を量産すれば万事オッケー』などという凡人の発想を持ってしまった。
セルンはそのことに果てしない焦りを覚えた。
天才はすべてを一人で行う者なのだ。
「しかし……」
エイジが言った。
「サンニー陛下やセルンの言うことにも一理ある。すべてを一人で行おうとするのは、聖剣の勇者の発想そのものだ」
たった一振りの剣をもって、一人ですべてを成そうとするのは。
「覇勇者となることを拒否した僕が、覇勇者の考えに染まったままというのは道理じゃない。皆を脅かす災厄には、皆で立ち向かっていくべきだ。ギャリコはどう思う?」
「アタシ一人で世界中すべての人に行き渡る魔剣を作るのは土台無理よ」
意外にあっけらかんと言い放つ。
「さっきも言った通り、この世界にはアタシ以外にもたくさんの鍛冶職人がいるわ。量産品は彼らに作ってもらって、アタシはアタシの作りたいものを作ればいい。技術は伝播していくものだから」
ドワーフの都に戻ってすることが一つ増えたわね。
ギャリコはそう言ってニヤリと笑った。





