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14 魔剣誕生

「え?」

「えぇッ!?」


 聖剣を超える剣を作り出せるかもしれない。

 というギャリコの告白に驚いたのは、セルンよりもエイジだった。


「どういうことだギャリコ!? 聖剣を超える剣を作れる!? ってこと。そんな方法があるなら何故もっと早く僕に教えてくれなかったんだ!?」

「きゃああああッ!? 興奮しないで揺さぶらないで!? 仕方ないでしょう、思いついたのはつい最近なんだから!」


 と押し迫るエイジにドギマギするギャリコだった。


「どういうことなのでしょうか、ドワーフの女性の方?」


 セルンも、心中穏やかならぬ剣幕でギャリコに詰め寄る。


「もしエイジ様をここから去らせたくないと出まかせを言っているなら、どうか今のうちに撤回してください。私は聖剣院から、エイジ様の帰還を邪魔するものは何であれ排除するようにと命令を受けていますので」

「セルン、一般人を脅すな」


 もう一押しでエイジを陥落できると確信していたセルンにとっては、いい横やりであろう。


「出まかせじゃないわよ! ……じゃあ実際見てもらおうじゃない。そろそろ実験に入れるかなと思ってたところなの」


 そう言って部屋から出て行くギャリコ。


「?」

「……?」


 ついてこいと言うまでもなく、エイジはそのあとを追う。

 そうなると当然セルンも追いかけないわけにはいかなかった。


              *    *    *


 そしてギャリコがやって来たのは、彼女のプライベート空間。秘密で作った専用工房だった。

 かつては彼女が、自由時間に剣を打つための場所。

 そうして作られた剣は、先日エイジがすべてアイアントとの戦いでへし折ってしまった。ギャリコの作品群でいっぱいだったこの場所も、今ではがらんどうとなっているはずが……。


「……あれ?」


 室内中央に、やたらと異質なものが鎮座していた。


「あ、アイアント?」


 正確にはアイアントの死骸だった。

 当然先日エイジが、ギャリコの作品全部の犠牲と引き換えに仕留めたもの。


「始末せずに、まだこんなところに置いてあったのか……。何故?」

「騒動のあと、お願いしてここへ運び込んでもらったの。思いついたことがあって……」


 もう死んでいるモンスターはさすがに怖くもない。

 エイジは何となく死骸に触れてみたら、驚くほど軽い手応えだった。

 それもそのはず、アイアントの死骸は中身が綺麗に取り去られていて、もはや殻しか残っていなかった。


「モンスターは死んでもメチャクチャ硬いから、解体にも苦労したわ。柔らかい部分から切り分けるにしても何本もの鉈をダメにして、今日までの日数かかっちゃった」


 さらにギャリコは、厳重に蓋の締められた瓶を取り出す。

『超危険! 持ち出し厳禁!』と書かれた札が張り付けてあった。


「そ、それは……!?」

「アイアントの体内から取り出した蟻酸よ。使えそうなのは結局これと、殻の部分ぐらいになりそうね」

「使える……!?」


 エイジはいよいよ当惑してしまった。

 ギャリコは一体、これで何を始めようというのか。


「エイジがアイアントと戦った時、アイアントの蟻酸を逆に利用したでしょう?」


 元々敵を攻撃するために吐いた蟻酸を、逆にアイアントに送り返す。

 強酸をまともに浴びて、硬いはずの殻も溶けて大いに防御力を落とした。

 あれがなければ、結局鉄の剣数十本だけではアイアントの殻を突破できなかったかもしれない。


「あれを見て思ったの。聖なる武器以外では傷つけることのできないモンスターも、モンスター自身の攻撃なら充分にダメージを与えられる」


 それはつまり、聖剣以外にモンスターを倒す手段がもう一つ見つかったということだ。


「何十本という鉄製の剣をものともしなかったアイアントの殻……」


 これを材料にすれば……。


「モンスターを倒せる剣が作れるかも知れない」

「おおッ!?」


 結論まで達し、エイジが大きく奮い立った。


「まさしくその通りだ! どうして思いつかなかったんだ!? 考えてみれば簡単なことじゃないか!」


 もたらされた希望に、ソードスキルを極めた達人も興奮を抑えきれない。


「ギャリコ! やっぱりキミは天才だ! こんな革新的な方法を考え付くなんて!」

「だから喜ぶたびにいちいち手を握ってこないでよ!」


 動悸が激しくなるので。


「それに喜ぶのはまだ早いわ、実際に生き物の殻なんかで剣を作れるか。作れたとしてもちゃんとモンスターに通用するか、試してみないと……」


 そしてギャリコは瓶入りの蟻酸を掲げて見せる。


「鉄製の武器がまったく通じなかったアイアントの殻だもの。通常の砥石で磨き上げるのは不可能。だからコイツを使うわ」

「蟻酸で不要なところを溶かして、剣の形に磨き上げると?」

「今のところ、他に方法が思いつかない」


 ギャリコとしてはもう少し形になってからエイジに知らせたかったようだが、セルンという不穏なものが現れて、猶予がなくなってしまった。

 ここからは二人で、二人の目標へ駆け進むタイミングだった。


「劇薬だから、扱いは充分に気を付けないと……! 試しに一滴垂らしてみるわよ」

「うっわ、アイアントの殻溶けた。……凄い煙!? 激臭!? 顔中に突き刺さるような!?」

「換気換気換気! ダメだわこれ、室内でやってたら失神してしまうわ! 外に出て作業しましょう!」

「これ一滴でも肌に付いたらとんでもないことになるな。水場でやらない? 万が一のためにも」

「逆に蟻酸で水場が汚染されるのが怖いのよね……」


 すっかり息の合った二人の作業。

 それをさっきから無言で見守ることになってしまったセルンの瞳は、穏やかならぬ光を宿らせていた。


              *    *    *


 そして悪戦苦闘のあと、ついにある程度の形が出来上がった。


「アイアントの殻製の剣……!」


 初めての試みであったため、刃渡りは随分と短くなり、剣というよりもナイフのような風情になってしまった。

 通常の剣用柄と組み合わせ、何とか剣の形になった。


 待望の試作品。


 しかし、出来上がって無事成功ではない。


「聖剣以外でモンスターを倒すことのできる剣。それを目指して作られたのがこれよ。ちゃんとモンスターに対して有効と証明されなきゃ、成功とはいえない」


 そしてギャリコは、余ったアイアントの殻を、即席で作った台に乗せる。


「試し斬りよエイジ。そのナイフでアイアントの殻、スッパリ斬れるか試しにやってみて」


 握るはソードスキルを極めし剣士の頂点、ソードマスター。

 たとえしくじったとしても原因を使い手に帰することは出来ない。乾坤一擲の勝負だ。


「お待ちください」


 実行の前に、セルンが口を挟んだ。


「試しの前にお約束ください。もしこの試し斬りに失敗したら、エイジ様は聖剣院に戻ると」

「な、何故?」

「当然です。聖剣院の者たちは皆エイジ様の帰還を切望しています。エイジ様の望みが達成できないとわかれば、一刻も早く聖剣院にお戻りいただくべきです。今回の失敗は、そのいいきっかけになるでしょう」


 頭から試し斬りが失敗すると決めてかかった言い方だった。


「エイジ様には、この一振りで諦めをつけていただきます。そのための儀式として私もこの茶番にお付き合いしましょう」

「いいだろう、あとで吠え面かくなよ」


 エイジはナイフを握ると、試し斬り対象と理想的な間合いを詰める。

 ジリジリとにじり寄る足が止まった。


「……『威の呼吸』」


 狙いが定まった瞬間だった。


「ソードスキル『一刀両断』」


 刹那、放たれる剣閃。

 ギャリコどころかセルンすら目で追えぬ速さで、切っ先が疾駆した。


 ガキィン!


 と金属が金属を弾くような音。

 一体どちらが、どちらを阻んだのか。


「あ……!」

「あぁ……!?」

「おお……!!」


 台に乗っていたアイアントの殻は、見事に一刀両断されていた。

 その断面は、鏡のように滑らか。


「エイジ……! ちょっとナイフ見せて……! 鍛冶スキル『状態把握』!」


 鍛冶製品の状態を精査する鍛冶スキル。

 以前はエイジの正体を探るため変則的な使い方をしたが、今度は至極真っ当に。


「……目に見えないレベルの刃毀れも一つもない。柄のぐらつきもない。完璧よ!」


 実験成功。

 エイジとギャリコは、ついに目標到達への足がかりを見つけたのだった。

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