124 空中集落
「ソードスキル『五月雨切り』」
それは、前に放たれた同じ技より、規模が明らかに違っていた。
先にクラスタボア三匹を斬り刻んだ『五月雨切り』が、それこそ夕方の通り雨だとしたら、今の『五月雨切り』は暴風雨。
すべてを薙ぎ倒していく嵐の激しさで、ヘビモンスターの群れを蹴散らしていった。
暴雨が通過して行ったあと、元のままの蛇は一匹たりともいない。
すべてが元の状態より短くなっていた。
そんな蛇の切れ端が、見渡す限りに広がっていた。
「セルン」
活躍した鼈甲の剣を鞘に収め、エイジが言う。
「念のために警戒しといてくれ。ヘビモンスターもなかなかしぶとくて執念深い。頭だけで足首に噛みついてくるなんてあり得る」
「承知しました」
セルンが応答するのとほぼ同時に、本当に半死半生のクラスタボアが飛びかかってきた。
頭だけではないが、それでも体の半分が既にエイジの剣で斬り落とされていて、その上で人を襲おうなど並々ならぬ執念深さを感じる。
「危ない!」
いち早く反応したエメゾが覇聖杖をかまえるも、それだけでは足りないのか攻撃が間に合わない。
しかしそれでも何ら問題はなかった。
「はっ」
セルンが、実体化とともに振り抜く青の聖剣で斬られた蛇をさらに細かく斬り刻む。
ソードスキル『一刀両断』を使う必要もなかった。
「なッ、なッ……!?」
それを見て度肝を抜かれる天人族の覇勇者エメゾ。
「そんなバカな……!? 魔力も宿ってない武器でモンスターを殺す? そんなことできるわけが……!?」
「余所の種族の勇者を見たのは初めてか?」
エイジが言う。
「僕のは仕方ないにしても、セルンの青の聖剣には気づいて当然だと思うがな」
「聖剣!? 人間族の聖なる武器!?」
エメゾの真っ白な顔が、セルンの方を向く。
その時には青の聖剣は実体化を解かれてセルンの手の中で消滅していた。
「突然押しかけてしまい申し訳ありません。アナタたちの指示に従わず勝手なルートを登ってきたことも」
「あ、ああ……?」
「実はアナタたち天人族に相談したいことがあり、人間族の隊商に加わって訪問させていただきました。是非ともアナタ方の中で知識ある方に面会させていただければ幸いです」
「は、はい……?」
何やら気圧されて、無条件に頷いてしまうエメゾ。
第一段階は上手くいきそうだ。
「じゃあ、先に進みましょうか。このままボケッと突っ立ってまたモンスターに襲われたらたまらない」
そうしてエイジ一行は、最短ルートをそのまま突き進むことになった。
そして到着した。
未知の種族、天人たちの住む山頂の集落。
タカマガハラに。
* * *
「これは思ったより……」
「洗練された街並みですね」
他の社会圏から隔絶されているだけにうらびれた田舎かと思いきや、高い山頂近くにあるとは思えない発展した都市がそこにあった。
立派な建物が数十件と、規則正しい配列で軒を連ねている。
主な材質は石か。
そんなに大量の石材をどうやってこのような高山部に運んできたか、そこからして困惑するが、地面も石畳で綺麗に整備されており、平地にだってここまで綺麗に整った街は少ない。
「よくまあ、こんな辺鄙なところにこんな立派な街を作れたものだ」
とエイジは呆然とするばかりだった。
「でもこんなところに住んで、ちゃんと生きていけるのですか? 食べ物や飲み物などはどうしているのです?」
何気なくセルンが吐き出したこの疑問に、すっかり案内役となってしまったエメゾが答える。
「食べ物は高原で育てている羊や牛、ヤギで賄っているわ。足りない時は魔法でマーナーを作り出せばいい。水もそう。必要な時に魔法で雨雲を掻き集めるわ」
「このバカでかい石造りの家は……!?」
「山の岩を魔法で切り出してくるのよ。そして念動魔法でここまで運んでくる」
「山頂だと暑さとか寒さとかしんどくないですか?」
「魔法で室温を調節すればどうとでもなるじゃない」
エメゾは、多少慣れてきたのか言葉つきが砕けてきたものの、まだまだ警戒心が濃厚に浮き出ている。
他種族の勇者が訪ねてきたとあれば警戒もするだろうが。
「しかし、その……、さっきから言われて気になっていたんだけど……!」
ギャリコがモジモジと言う。はたして真っ向から尋ねていいのかどうか、計りかねると言ったような表情で。
「魔法って、何?」
「はい?」
ギャリコの不安が的中したのか、エメゾは何を当たり前のことを聞いてくるのか、という表情だった。
「魔法って……、魔法は魔法よ。そんなことも知らないの!?」
「そう言われても……、アタシたちは魔法を知らなくて……!」
「ウソッ!?」
魔法。
それこそたびたび話題に上っている、天人族のみが持つという特別な力。
この魔法の力が。
魔剣キリムスビの鞘を作り出す糸口になるのだろうか。





