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11 剣の乙女

「セルン!」


 名前を呼びながら駆け寄るエイジの姿に、向こうも気づいたらしかった。


「エイジ様!?」

「覇勇者様!」「ソードマスター様!!」「我ら聖剣院の誇り!!」


 鎧姿の乙女どころか、他の一般兵士までエイジの姿に沸き立つ。


「皆の者! 覇勇者様に礼を!」


 何者かの音頭で一斉に兵士たちが膝を付き、エイジに対して首を垂れる。

 その模様、民が王にひれ伏すがごとしだった。


「やめんか!」


 それにもっとも拒否反応を示すのは、跪かれるエイジ本人だった。


「僕はとっくに聖剣院を辞めたんだ。よって勇者でもないし覇勇者でもない。そんな僕に礼を払う必要はない!」

「いいえ。聖剣院はアナタの辞意を認めておりません。よってアナタは今も、聖剣院の頂点に立つ剣の覇勇者です」


 例の鎧の少女が拝跪の体勢から立ち上がる。


「私は聖剣院長より命を受け、エイジ様の探索にこの半年間を費やしてきました。そしてついにアナタの下へたどり着いた。さあ、共に聖剣院に戻りましょうエイジ様!」

「相変わらずだな、セルン……」


 脱力感を交え、エイジは鎧姿の乙女の名を呼ぶ。

 そのやり取りを、ギャリコがやや険しい表情で見守っていた。


「二人は、お知り合い?」

「うんと……、まあ、僕が聖剣院で勇者やってた時に色々縁があった子なんだけど……」


 見るからに気真面目そうな表情の鎧乙女、セルン。


「エイジ様が勇者として聖剣を振るっておられた時期から、エイジ様の補佐として色々なことを学ばせていただきました。今の私があるのもすべてエイジ様のご指導のお陰です」

「勇者になっただろう、セルン?」


 エイジの率直な指摘に、セルンは目を見開いた。


「さすがエイジ様、一目でお見抜きとは」

「さっきから兵士に『勇者様』と呼ばれていたしね。キミの聖剣を見せてごらん?」

「御意!」


 セルンが虚空に両手を伸ばすと、その手中から青白い炎が燃え上がる。


「!?」


 その光景にビックリするギャリコ。

 火の種など何もないはずの場所から、やがて蒼炎は自然と治まり、その内から総身が真っ青の剣が現れる。


「その剣は……ッ!?」


 刀身を見て、真っ先に驚きの声を上げたのはギャリコだった。


「青の聖剣……、やはりキミが受け継いだか」

「はい。エイジ様が覇勇者となられることで手放された青の聖剣。それをこのたび私が預かることとなり、晴れて勇者を名乗ることを聖剣院から許されました」


 セルンが聖剣を持った手を払うと、再び聖剣は蒼炎を放ち、その中に刀身を消した。

 聖剣にはそうやって自由に虚空へ出し入れする機能があるらしい。


「ま、待って!」


 堪らずギャリコが割って入る。


「なんで聖剣をこの人間族の人がもっているの!? それはエイジのものでしょう!?」

「……? どちら様です?」


 初対面の二人。


「こちらはギャリコと言って、僕がここで大変お世話になっているドワーフの娘さんです」

「それよりも! この女の人が何故エイジの聖剣を持っているの!? 説明してよ!」


 何が気に入らないのか大声でまくしたてるギャリコ。

 その横で……。


「恩人の顔は綺麗さっぱり忘れてやがったくせに、なんで剣のことはしっかり覚えているんだ?」


 ギャリコの父親ダルドルが至極真っ当なツッコミをした。


「剣マニアのギャリコらしいというか……。むしろ青の聖剣に全意識が集中してたから僕の顔まで覚えていなかったんだね」

「どっちにしろ恩知らずな娘だのう……」


 男二人が煤けていた。


「……何が不満なのかはわかりませんが」


 ギャリコの剣幕に、セルンもやや戸惑い気味。


「青の聖剣は、既にエイジ様の手から離れています。エイジ様が『試しの儀』を乗り越え、覇聖剣を手にしたことで」

「覇聖剣?」

「聖剣を超える、聖剣の中の聖剣。我ら聖剣院が保存する中で最高の聖剣です。エイジ様は、聖剣院最高の実力をお示しになって覇聖剣の主有権を得ました。ならば、その前に手にしていた青の聖剣が用済みとなるのは自然のこと」


 勇者がランクアップして覇勇者となる。

 そして手にする剣を持ち替える。


「エイジ様の手から離れた青の聖剣は、新たなる主を必要とします。その選定に、不肖この私が選び出され、新しい勇者として就任したのです」

「勇者就任おめでとう、セルン」


 パチパチパチ……、と拍手を送るエイジ。


「キミの実力なら、充分勇者の責務に耐えられると思っていた。キミが新たな勇者に選ばれて一安心だよ」

「勿体ないお言葉ですエイジ様!」


 セルンが勢いよく首を垂れる。


「そんなわけで、キミは勇者としての責務をまっとうしなさい。こんなところで油を売ってないで」

「そうはまいりません!!」


 勢いよく下げた頭を勢いよく上げる。


「勇者の力を必要とされるからこそ、勇者の中の勇者であるエイジ様のご帰還が望まれているのです!!」

「えぇ……!」

「そのため聖剣院は失踪したエイジ様の探索発見を最優先課題とし、私を派遣しました。そして半年に渡る捜索の末、ついにエイジ様のお目にかかることが叶いました!!」


 セルンは大真面目にエイジに迫る。


「さあエイジ様! 我々と共に聖剣院にお戻りください! そして覇聖剣を手にし、万のモンスターを打ち破りください!!」

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