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09 動機

「あ、あの……、とにかく……」


 ほとほと弱り果てたギャリコ。

 結論はできるだけ後回しにしようと迂回できる話題を探す。


「まず、どうしてそんなに剣作りに拘るんですか? エイジ、様は勇者様なんですよね、人間族の?」

「勇者ならスッパリ辞めてきましたが」

「辞めたんですか!?」


 そんな簡単に辞められるものなのかと衝撃を受けるギャリコ。


「でもでも……! 勇者でさえあれば聖剣を使えるわけですし、聖剣でモンスターをバッタバッタと倒していけばいいんじゃ……!?」


 その方がずっと直接的であるし、面倒がない。

 そう思うのは、ギャリコが勇者や聖剣のことを知らないから言えるのだろうか。


「実のところ僕は……、聖剣を使いたくないんです」


 エイジは絞り出すように告白した。


「それでも我慢して聖剣を使っていたのは、ソードスキルを会得するためです」


 モンスターと戦うためには力が必要であり、人間のエイジが強くなるには聖剣院に入門してソードスキルを学ぶことが唯一の道だった。

 聖剣院で成長すれば聖剣を与えられて振るうのは必須の義務であり、そうしなければより高度なソードスキルを学べない。


「だから究極のソードスキル『一剣倚天』を会得したら、僕はすぐ聖剣院を離脱しました。あそこにもう用はないので」

「うはぁ……!?」

「そして次に求めるべきは、聖剣に代わる剣を作り出すこと。その手段を求めて、ダルドルさんを訪ねたんです」

「鍛冶スキル、ですか……」


 しかし鍛冶スキルを学んだところで、聖剣に匹敵する剣を人間やドワーフの手で作り出すなど無理。

 それは昨晩アイアントとの戦いで立証されたようなものだった。

 鍛冶スキル値1100を誇るギャリコが丹精込めても、ただの鉄から打ち鍛えた剣は、モンスターアリ一匹倒すには至らなかった。


 アイアントを絶命せしめた要因は、エイジのソードスキルを極めた絶技と、数十もの物量による力押しによるもの。


「アタシには、わからない……」

「ギャリコさん」

「たしかにアタシも、自分の手で聖剣を作り出したいと思って勉強して、練習もたくさんした。でもその結果できた剣は全部アイアント一匹に砕かれてしまった」


 聖なる武器とは、モンスターに対抗するため神が人類種に与えたもの。

 それを人類種風情が真似て作るなど、所詮最初から無理だったのではないか。

 理を知らぬ不遜な行いなのではないか。


「エイジ様だって言っていたじゃないですか、アタシの剣は聖剣に遠く及ばないって」

「それでも諦めなければ必ず目標にたどり着けます! 僕が作りたいのは聖剣じゃない。聖剣を超える剣です! ギャリコさんに学べば、きっとそれができると確信した!」

「熱くなるのはいいけどよ」


 議論が沸騰しだすのを、親方ダルドルが制した。


「あれだけ大変なことがあった次の日だ。お前らも少しは骨を休めることを考えな」

「親方……」

「お父さん」

「あんまり働き詰めると髭が真っ白になっちまうぜ。昨夜の活躍のご褒美ってことで特別に終日オフにしてやる。外でも歩いて気分を変えてきな」


 半ば追い出されるようにして二人の唐突な休日が始まった。


              *    *    *


 鉱山集落は、昨晩の余韻をまだいくらか残していた。

 ドワーフたちはどこか浮足立っていて、道行く者たちの表情も何処かオドオドしている。

 モンスターによってどこか壊されたり死人が出たというわけでもないので事後処理はとっくに終わっているようだが、やはりどこか興奮冷めやらぬという風だった。


「しかし概ね、いつもと変わりませんね……!」

「あんなに大変なことがあった直後なのに……!」


 場合によっては、そのまま集落が滅ぶことすらありえたのに。

 当然のようにこの日やって来た平穏は、エイジが死力を振り絞って勝ち取ったものだった。


「あの、ところで……」

「はい?」

「さっきから何で敬語なんです?」


 前にも一度浮かんだ疑問を、エイジは再び口にした。


「昨夜まではタメ口だったのに。何だか他人行儀じゃないですか」

「とんでもない! 命を助けていただいた勇者様に今までタメ口だったことがアホみたいなことだったんで! 本当のことに気づいてまだ失礼なことは出来ません!」


 そう言われて、エイジは苦笑交じりに頬をポリポリ掻く。


「僕はもう勇者を辞めたんですから気遣いは無用ですよ。むしろ今は坑道エリア下働きのエイジとしてギャリコさんの部下なんですから。しっかりとご指導よろしくお願いします」

「それでも恩人であることは変わりないですから! むしろエイジ様がタメ口で喋ってください! アタシのこともギャリコと呼び捨てに!」


 ギャリコの豹変に困ってしまうエイジだった。

 元々こうなるのが嫌だから、というのも鉱山集落で元勇者の経歴を隠した理由の一つ。

 ギャリコにここまで畏まられたら、この雰囲気が集落中に広まりかねない。


「じゃあ、こうしましょう。いや、こうしよう」

「?」

「僕も気さくにタメ口で話すから、ギャリコさんもとい、ギャリコもタメ口で。それならまあギリギリ周囲から怪しまれることもないかなあ、と」

「でも、アタシはエイジ様に……」

「エイジ。ノー、エイジ様」

「は、はい……!」


 正体を知ってしまった今、エイジの言うことに強く抗うこともできないギャリコだった。


「あの……、アタシ、何だか夢みたい……!」


 お互い敬語を封印して、改めてお喋りが続く。


「ん、何が?」

「だって、五年前に助けてくれた憧れの人と、こうして一緒にいるんだもの」

「その憧れの人だと気づくのに随分時間がかかったけどね」

「うっ……!」


 割と辛辣なエイジであった。


「あの日アナタに助けられてから、アナタが振るうような剣を作るのがアタシの夢になった。やっぱりアタシはその夢を諦めたくない。アタシは聖剣を作りたい」

「僕だって。必ずキミに弟子入りして剣作りを教えてもらう。そして聖剣を超える剣を作り出すんだ」


 二人の目標は、実はまったく同じであることに二人自身がまだ気づいていなかった。


              *    *    *


 ここでエイジ、ギャリコの生活にまたひと時の平穏が戻るかと思いきや、そんなことはなかった。

 運命は彼らに、さらなる過酷な試練を与える。


 失踪したソードマスターを探し出すために聖剣院が放った覇勇者捜索隊が、ドワーフの鉱山集落へと到来する。

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