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偽りの家族

「1週間以内に、4000経験値稼げないと、即死亡。結構面白そうですな」

 生放送終了後、岩田波留は学習机の前に設置された椅子に座り、呟く。彼の手にはスマートフォンが握られている。そして彼は机の上で頬杖を突きながら、シニガミヒロインと呼ばれるアプリをタッチした。

 画面に映るのは、『ステータス』と『参加者名簿』と『処刑者リスト』という文字。波留は何となくステータスという文字をタッチしてみた。


岩田波留


レベル1

知識:0

体力:0

魅力:0

感性:0


死亡フラグケージ:0


累計EXP:0


Next Level EXP :100


 現状のステータスを確認した波留は納得する。画面に表示されたステータスは、彼自身が経験してきた幾つもの恋愛シミュレーションゲームと類似している。

「このゲーム。確実に勝てる」

 自己暗示のように呟いた波留は、不意に思い出す。そういえば、予選後半戦の時に届いたメールを未だに読んでいないことを。

 メインヒロインに関する情報を改めて整理するために、彼はメールアプリをタッチして、随分前に届いた情報を閲覧する。


『ナンバー12。二重人格者な学級委員長。小倉明美。B組。難易度A。三橋悦子は親友の1人。B92 W60 H83』


 スリーサイズの情報の直前に、小倉明美というヒロインに関する情報が追加されている。その一方で、波留は首を捻った。三橋悦子が親友の1人であることが、腑に落ちない。親友の1人とはどういうことなのか? 他にも親友がいるのか? 様々な憶測が波留の頭を過る。

 とはいっても、新たに解禁された情報は有意義な物であることに変わりない。


「マニュアル人間の理系女子高生、三橋悦子」

 彼女の肩書と名前を口にした波留は、頬を緩ませた。


 多少の不安を感じつつも、波留は自分の部屋から飛び出した。ドアを開けた先は廊下になっていて、少し歩くと木製の下り階段がある。

 ここがゲームクリアまでの住処だと思いながら、波留は周囲を見渡し、階段を降りた。

 1階に降りた波留は、適当に右へ曲がる。その先には2つの扉があった。前方にあるのは、ステンドガラスが填められたスライド式のドア。一方、右にあるのは白色の襖だった。

 おそらく右の部屋は和室だろう。ということは前方の部屋は、リビングではないか。そう思った彼は、前方のドアを横にスライドさせて、室内に足を運んだ。

 案の定、その部屋はリビングになっていた。十畳程の空間内に、薄型のテレビやソファーが置かれている。他には食卓の長い机と椅子がある。その景色は、ありふれたリビングだ。

 聞こえてくるのは、キャベツを千切りにする音。観察すると食卓を挟んだ対面式のキッチンで、波留にとって見知らぬ女が野菜サラダを作っていた。

 40代後半くらいの茶髪の女は、顔を上げて波留の顔を見て、微笑んだ。


「波留。おはよう」

 その瞬間、岩田波留は察した。彼女は仮想空間内の自分の母親だと。仮想空間内とはいえ、朝の挨拶をされたのは、何年ぶりだろうと波留は思った。

 両親が共働きで、中々顔を合わせない現実世界の家族。それに対して、仮想空間の家族は顔を合わせてくれる。

 波留はデスゲームに巻き込まれていることを忘れて、その温かい事実を受け入れた。

「おはよう。お母さん」

 ニコっと笑った波留は母親に挨拶を済ませた。それから数分後、黒縁の眼鏡を掛けた男がリビングに顔を出し、食卓には朝食が並んだ。

 仮想空間内の父親らしき男とも挨拶した後で、波留は食卓の椅子に座る。そうして仮想空間内の母親も座り、偽りの家族が食卓に揃った。


「いただきます」

 一斉に手を合わせ、朝食が始まる。仮想空間内だからお腹が減るはずがないと波留は思った。だがそれとは裏腹に、腹が鳴る。

 彼は食卓に並べられた白ご飯や野菜サラダ、目玉焼きを食べていく。そんな中で彼は、悪くないと思った。仮想空間とはいえ、ここでは家族が揃ってご飯を食べる。現実世界では、こんなことが滅多にない波留は、首を小さく縦に振りながら、現状を楽しんだ。

「そういえば、今日は始業式よね?」

 食事中、母親は唐突に息子へ話しかける。

「そうですね」

 波留は首を縦に振り、返事する。

「お前は高校2年生だ。そろそろ女と付き合え」

 父親の発言を聞き、波留は目を点にした。その後で母親は顔を赤くして激怒する。

「あなた。そんなことを言うもんじゃありません」

 ちょっとした夫婦喧嘩や楽しい会話を挟み、波留は手を合わせる。

「ごちそうさまでした」

 朝食を終わらせた彼は、自分の部屋に戻る。


『クローゼットの中に、制服があるからそれを着て、学校に行ってください』

 先程のラブからの指示を頭に浮かべ、波留はクローゼットを開ける。そこには、クリーニングされた黒色の学ランと白色のワイシャツと黒い長ズボンが畳まれていた。その近くにある革製のベルトを長ズボンに通し、履いてみる。ズボンのベルトは波留の体型に合わせて、丁度良い所に穴が開いていた。

 白色のワイシャツと黒色の学ランに袖を通し、着替えは完了する。脱ぎ捨てたパジャマを畳み、クローゼットの中に仕舞った時、机の中に置いていたスマートフォンが振動した。

『シニガミヒロイン。処刑者リストが更新されました』

 ホーム画面にこのような文字が表示され、岩田波留は生唾を飲み込む。


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