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プロトタイプアンサー 前編

 岩田波留が推測を口にした後で、ラブはマイクを握り、アナウンスする。

「早速ですが、敗者決定戦を開始します。このゲームでゲームオーバーになるプレイヤーは最低でも3人です。結果によっては、A組に投票したプレイヤー全員がゲームオーバーになる可能性もあります。そのことを踏まえたうえで、対象の19名の皆様のスマートフォンに新しいアプリをダウンロードします」


いつの間にか黒ずくめの大男たちが、後方の赤いパネルが埋め込まれたドアの前に横一列に並んだ。そんな中で、岩田波留の体は恐怖で震え始めた。最低でも3人が目の前で死ぬ。いくら自分たちは予選では死なないと分かっていても、高みの見物というわけにはいかない。なぜなら、目の前で誰かが死ぬ所を見るのは、誰も嫌なはずだから。

 本選進出を決めた28人の男子高校生は、安心せず、目の前で人が死ぬという恐怖に襲われる。

 それでもラブは、冷酷に敗者決定戦のルールを説明していく。


「敗者決定戦に参加されるプレイヤーの皆様のスマートフォンに、シニガミヒロイン体験版というアプリがインストールされたと思います。シニガミヒロインこそ、本選で皆様にプレイしていただく、恋愛シミュレーションゲームの名前です。B組とC組に所属する皆様は、スクリーンをご覧ください。体験版の映像がリアルタイムで再生されます」


ラブが指を鳴らすと、ステージに白色のスクリーンが降り、青色に染まった画面を映し出した。ラブはステージから飛び降り、19人の男子高校生と顔を合わせる。


「そろそろ敗者決定戦のゲームの説明をしましょうか。19名のプレイヤーの皆様に行っていただくゲームは、プロトタイプアンサー。まずは、シニガミヒロイン体験版というアプリをタッチしてください。体験版に収録されているゲームは一種類のみ」

ラブの指示を聞きながら、19人の男子高校生はシニガミヒロイン体験版のアプリをタッチする。それに合わせて、スクリーンに校舎の廊下に佇む1人の少女が現れた。


その少女の髪型は、艶のある漆黒の髪を腰の高さまで伸ばした、高校生である。可愛らしい二重瞼に前髪を右に分けピンで止めた少女の下に大きな四角い空欄があって、その下には横に4分割された空欄があった。

4つの空欄の右端には数字が振ってある。


「19名のプレイヤーの皆様には、ナンバー00、プロトタイプ、東郷深雪の好感度を上げていただきます。やり方は至ってシンプル。そのスマートフォンの画面に、4択クイズの問題と選択肢が表示されます。その選択肢の中から、一つだけ答えだと思った物を選択するだけです。尚4つの選択肢の内の1つは不正解です。不正解を選んだプレイヤーは敗者となり、公開処刑を行います」


 そのシステムは、岩田波留にとって御馴染みな物だった。恋愛シミュレーションゲームで、メインヒロインと遭遇した時に行われる会話イベント。その答えによって好感度が左右するのは、ゲーム経験者の間では常識だと波留は思う。


「何だよ。簡単じゃないか」

19人のプレイヤーの中から率直な感想が聞こえ、岩田波留は思わず首を横に振った。その動作と合わせるように、ラブも首を横に振る。


「正解を選ぶ確率は4分の3だから、ヌルゲーだと思った皆様。残念ですね。実は正解とされる3つの選択肢には、それぞれ評価があるんですよ。100点満点の答えならS評価、70点の答えならA評価、赤点ギリギリの50点の答えならB評価という風にね。万が一不正解者がいなかった場合は、評価が低い答えを選んだ者が敗者となります。例えば不正解者がいなくて、B評価の答えを選んだ人が、10名いた場合は、その10人全員を殺害します。そしてS評価の答えを導き出したプレイヤーの皆様は、敗者決定戦から離脱できます」


「ふざけるな。それはいくらなんでも不条理じゃないか!」

 最初のゲーム開始直前に抗議していた男子高校生の声を、ラブは言葉を聞き流し、左手でスマートフォンを握った。


「S評価の答えを選べばいいだけの話じゃないですか。今回はヒントなし、話し合いも禁止です。制限時間は、1問辺り1分間。ゲームは最低3人の敗者が決定するまで続くサドンデス。それではゲームスタート♪」


ラブが自身のスマートフォンをタッチすると、スクリーンに問題文が表示される。


『そういえば、数学の秋山先生に呼び出されたみたいだけど、何かあったの?』


『A。何でもないですよ』


『B。追試の課題を貰ったんだ』


『C。今日のプリントを風邪で休んでいる平山麻友に届けろって言われてな』


『D。授業中に分からないところがあるって質問したら、職員室に呼び出された。だから呼び出されたんじゃなくて、俺から職員室に乗り込んで質問をしに行ったんだ』


 フルボイスの問題文を聞いた、岩田波留が唸る。手がかりが少なすぎると彼は思った。

 このゲームの攻略法は、ヒロインのことを理解することだが、それは不可能。なぜなら東郷深雪というヒロインが、どのようなヒロインなのかが分からないからだ。

 岩田波留が唯一分かるのは、Aはヒロインに対して冷たいから不正解だということ。

 完全に手詰まりだが、ここで間違えても彼は死なない。間違えて死ぬのは、A組に所属する19人の男子高校生の誰か。


 そう開き直ると、すぐに制限時間を迎えた。そしてラブは、早速結果を発表する。


「それでは、正解発表です。本当は、各プレイヤーのスマートフォンに結果が表示されるだけで、何が正解だったのかという答え合わせはしないんだけど、今回は特別。スクリーンで4パターンのリアクションを再生します。本来のやり方だと、アンフェアですから」

そうしてラブはスマートフォンの画面をタッチした。

「まずは、Dから行きましょうか?」

スクリーン上の東郷深雪は、ニヤリと笑い、画面越しに話しかけた。


『へぇ。結構勉強熱心ね』


続けて、画面を覆うように、Aという文字が表示された。


「次はCですよ」


同じようにラブがスマートフォンをタッチすると、画面上の東郷深雪は微笑んだ。


『優しいんだね』


画面に大きくSという文字が表示されると、ラブは覆面の下で頬を緩める。


「S評価の答えを選択された6名の方。おめでとうございます。敗者決定戦から離脱するプレイヤーは6名。3番の桐谷凛太朗様、10番の百谷次郎様、11番の杉浦薫様、17番の千春光彦様、25番の村上隆司様、40番の櫻井新之助様、以上6名は本選進出となります」


その結果発表を受け、太った外見に黒縁眼鏡をかけたオタクのような風貌の男子高校生、

桐谷凛太朗は奇声を上げる。


「やっぱり、このデスゲームで生き残るのは、恋愛シミュレーションゲーム上級者だったんですよ!」

 

 それを聞いた岩田波留は、心の中で彼の意見を否定した。恋愛シミュレーションゲーム経験者であると自負している波留は、問題の答えが分からなかった。ヒロインに関する情報が少なすぎるため、経験者であっても間違える可能性が高い。それがプロトタイプアンサーというゲームなのだろう。それでも正解した彼らは、運が良かっただけだと彼は思う。

 そんな中で残りの11人は絶望感に囚われた。


「うぉぉぉぉ」


 三人の高校生が後方のドアに思い切り体当たりしようとする。だがその行動は、ドアの前に立つ黒ずくめの大男によって静止させられた。

結果によっては誰が負けてもおかしくない。殆どのプレイヤーたちは、今にも崩れそうな崖の上に立たされたかのような気分になっている。そんな彼らの耳にラブからの説明が届く。


「えっと。皆さん。まだ正解発表は終わりではありませんよ? 次はAです」


間もなくして、頬を膨らませた東郷深雪の姿がスクリーンに表示される。


『そんなこと言わなくてもいいじゃない!』


そのメッセージが流れてから数秒後、ラブはマイクを握り、絶望感に囚われた男子高校生を笑う。


「不正解はAでした。Bを選択された方。ご安心ください。実は不正解を選択してしまったプレイヤーが2人います。不正解者は、16番の新田健一様、24番の小林優馬様。以上2名はリタイアとなります。答えがAだと思った無関係のB組とC組の皆さん。あなたたちは殺しません。良かったですね」


その結果発表を聞き、2人の男子高校生が茫然とその場に立ち尽くす。


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