表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/24

昼休みの惨劇

 4月8日。水曜日。岩田波留は悠久高校に向かう通学路を元気よく歩いていた。彼は今日から本格的にメインヒロインの小倉明美の好感度を上げるつもりだった。だがしかし、岩田波留を含む2年B組の男子生徒の運命は、この日を境に激変してしまう。そのことを彼らは知らなかった。

 ホームルームが終わり、達家玲央は自分の席に座り授業の準備をする岩田波留に近づく。

「岩田君。昨日はありがとうございました。あれから皆で図書館に行って、三橋さんに勉強を教わりましたよ。三橋さんとの距離が縮まったような気がします」

 達家からの報告を聞き、岩田波留は順調に進んでいるように思った。故に嬉しくなった波留は笑みが零れる。

「それは良かったですね」

 それから岩田波留は多くの男子生徒が囲む小倉明美の席を見つめた。


 現実世界と同様の授業が行われ、休憩時間が訪れる。当たり前な流れが繰り返されていく。そして、小倉明美の机の周りには、休憩時間が始まる度に多くの男子生徒が集まっていた。

 クラスメイトの殆どの男子生徒が、彼女の机を囲み、次から次へと質問してくる。もちろん最初は、彼女を攻略しようとしている5人に三橋悦子を攻略する3人の合計8人が集まるだけだった。

 しかし、いつの間にか小倉明美はヒロインに関する情報に精通しているという情報がクラス中に拡散してしまい、今では藁をもすがる思いで、殆どの男子生徒が彼女を質問攻めにしているのだった。このままでは、隣のクラスの男子生徒も小倉明美の元へ殺到するのではないかと、岩田波留は思いながら、輪の中で真面目に質問に答える彼女の姿を見つめていた。

 その一方で自分の席に座り、教科書とノートを机の上に置いた三橋悦子は、不安に打たれながら、男子生徒の輪を見つめていた。


 そして昼休みが始まり、小倉明美は三橋悦子と向き合うように、彼女の表面の机を近づけた。このまま2人は昼食を摂るのだが、明美は眉間にしわを寄せながら、弁当箱を開ける。その様子を見ていた悦子は、心配そうに彼女の顔を覗き込む。

「大丈夫?」

「うん。ちょっと疲れただけ」

「男子に質問攻めされたからでしょう? 私から男子に言いましょうか? 質問攻めするなって」

「大丈夫。男子は困っているみたいだから、私が助けないと……」

「そう」

 短く息をするように答えた悦子は、弁当箱を開け、黙々と白いご飯を食べ始める。その後で明美も、同じように弁当を食べていく。

 2人の昼食が終わり、三橋悦子がトイレに出かけた頃、森川瑠衣は小倉明美に声を掛けた。

「小倉さん」

 自分の名前を男子生徒が呼んだ瞬間、突然小倉明美の視界が黒く染まる。それから数秒後、小倉明美は席から立ち上がり、森川の耳元で囁く。

 それは一瞬の出来事だった。突然森川瑠衣は、口から大量の血液を吐き、教室の床に倒れてしまう。それは予選の段階で波留達が見せられた遺体と同じ。

 教室の一角から、横山雷斗の悲鳴が響く。だが、女子生徒は何事もなかったように、いつも通りの昼休みを過ごしている。まるでグロテスクな遺体が存在していないように。

「男子生徒の皆さん。小倉明美を頼ってくれて、ありがとう。でも、大切なことを忘れちゃうなんて、おバカさんね。私は二重人格者。もう1人の私は危険だってこと。さっきの森川君みたいに、死にたくなかったら関わらない方がいいかもよ」

「どうしてお前は、森川君を……」

 全身を震わせながら、大家碧人が尋ねる。それに対し小倉明美は、クスっと笑い答える。

「森川君は、年齢を偽ってアダルトビデオをレンタルしていたんだよ? そんな人は大嫌いって伝えたら、死んじゃった。一応言っておくと、私はあなたたちのことを知っているから。現実世界に彼女がいるとか、警察官に補導されたことがあるとかねぇ。ということで、挨拶はここまでにして、小倉明美に相応しくない男子を制裁します」

 小倉明美は、冷徹な視線を脅える男子生徒に向けた。彼女の瞳は明るく穏やかな雰囲気ではなく、心が凍り付いたような冷たく暗くなっている。変貌した彼女の姿を見た、岩田波留の体に悪寒が走った。

「次は、教室の隅で女々しく泣いている横山君」

 小倉明美は、笑いながら横山の元に歩み寄り、恐怖から一歩も動けない彼の右肩に触れた。

「ロリコンなんだってねぇ。ハッキリ言ってキモイわ」

 突然窓ガラスが振動する。そして、当たり前のようにガラスが割れ、破片が横山の体に次々と突き刺さっていく。

 飛んできたガラス片は、波留の右頬を傷つけ、彼の頬から血液が垂れた。同様に、横山の近くにいた男子生徒の体は、ガラス片で傷つけられてしまった。

 だが、小倉明美は無傷で、傍らで絶命した横山の遺体を冷たい眼差しで見つめていた。

「嫌だぁぁ」

 冷酷なヒロインを恐れた大家碧人が叫び、教室から逃げ出そうとする。しかし、小倉明美は逃げていく彼の姿を瞳に焼き付けながら、頬を緩める。

「おバカさん。逃げられるわけがないでしょう。大家君。二又かけてる最低な男だから嫌い」

 悪魔のような少女の声を聞いた大家は、口腔から血液を噴き、そのまま動かなくなった。

 僅か1分の間に、3人の男子生徒が絶命し、彼らの心が恐怖に支配されていく。それでも女子生徒は、男子生徒のことを気にも留めず、いつも通りに、友達同士で会話を楽しんでいた。

「最後は岩田君」

 まるで蛇に睨まれた蛙のように動けない波留に向かい、ゆっくりと悪魔のような少女が近づく。思考が停止しそうな恐怖の中で、彼は謎を解くことができた。

 メインヒロインが嫌いと言えば、目の前の少女は死神に変貌する。

 ヒロインの一言が死を招く悪魔の恋愛シミュレーションゲーム。それがシニガミヒロインであること。おそらく、そこにこれまで全クリできるプレイヤーが現れなかった理由が隠されているのではないかと波留は思った。

 だが、その推理が真実だったとしても、現実は変わらない。彼自身を追い詰める死神を化した少女は、確実に少年の命を狩るだろう。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ