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三橋悦子の居場所と倉永詩織攻略のための勧誘

 岩田波留は西山一輝と共に、デパートの中を歩いている。3階建ての建造物に多くの専門店が集まるこの場所は、平日にも関わらず多くの若者で溢れていた。

 おそらく他校でも入学式が行われていて、自分達と同じように2年生は休みなのだろうと波留は思った。

 この場所にヒロインがいるのかと二人は疑いつつ、周囲を見渡しながら歩く。すると、ファッションショップから見覚えのある乗除が現れる。

「岩田君?」

 波留の目の前に現れた少女は小倉明美だった。休日にも関わらず彼女と接触でき、波留は心の中で喜ぶ。

「小倉さんはどうしてこんな所にいるのですか?」

 早速波留が尋ねると小倉明美は喜びをまぶたに浮かべながら答えた。

「ちょっと買い物にね。それで岩田君は西山君と何をしているの?」

「二人でデパートに遊びに来ただけですよ」

「仲が良いんだ」

「そういえば今日は三橋さんと一緒ではなかったのですか?」

「いつも一緒じゃないからね。悦子は図書館で勉強してると思うよ」

「そうですか。ありがとうございます」

 何とか小倉明美から情報を聞き出すことに成功した波留は隣に立つ西山と顔を合わせた。

 それから波留は、メインヒロインに頭を下げ、少女から離れていく。その後ろ姿を見つめた明美は、右腕を前へ突き出す。

「西山君。ちょっと待って」

 少女の声を聞き、西山は立ち止まり彼女の顔を見た。一方で岩田は、なぜ自分ではなく西山を呼び止めたのかと疑問に思い、彼と同時に立ち止まった。

「何っすか?」

「もしかして西山君って悦子のことが好きなのかなって思って。どうなの?」

 突然の質問に西山は言葉を詰まらせる。答えによっては命を落とす破目に陥るのではないかという思考が支配して、彼の口からは言葉が出ない。その極度の緊張は、隣にいる岩田にも伝わってくる。

何とかして、この緊張状態から彼を解放しなければならない。そう考えた岩田波留は、西山の右肩を優しく叩き、彼の代わりに明美からの問いに答える。

「三橋さんと友達になりたいってだけですよ。そうですよね。西山君」

「そうっすよ」

 岩田にフォローされた西山は首を縦に動かした。それを見た明美はニッコリと笑う。

「そう。だったら西山君が悦子と友達になれるように応援するわ」

 まるで嵐が過ぎ去るように、小倉明美は二人の前から去った。その後で西山は深い溜息を吐く。

「岩田君。ありがとうっす」

「危ない所でしたね。あそこで好きだって言ったら大変なことになっていたかもしれません。兎に角、西山君は図書館に向かってください。僕は達家君と中田君が探し回っている東側のエリアに向かい、このことを伝えに行きます」

「嫌っすよ。それだと抜け駆けしているみたいっすから」

 岩田は頭を掻き、西山の意見を尊重するように頷く。

「分かりました。一緒に来てください」

 そうして2人はデパートを去り、達家達が探索している西側のエリアに向かい走り始める。


 達家達との合流を目的に走り始めてから10分が経過した頃、岩田波留と西山一輝は十字路を直進していた。丁度その時、車が1台通るだけでやっとな狭さの道を貫く左右の通路から1人の男が姿を見せ、目の前を走り去る岩田に声を掛ける。

「岩田君」

 突然男に呼び止められ、岩田波留は声の主の顔を見た。そこにいたのは松井博人。

「松井君。今急いでいるので、後にしてくれませんか?」

「1分だけ。いや30秒だけでも構わないから、話を聞いてくださいよ。あなたは学級委員選挙の時、言いましたよね。このクラスから1人も退学者を出さないって。その言葉が本当なら、協力してほしい」

 松井の言い分を聞いた岩田は、立ち止まり彼と顔を合わせる。

「分かりました。それで何をすればいいんですか?」

「倉崎詩織のファンになってほしい。そのためにはお金が必要です。もちろん脅迫しているわけじゃない。金が余っているんなら、劇場でグッズを買って、倉永詩織の握手会に参加してほしいんです。西山君もお願いします。1000円の出費で僕を助けてください」

 何となく事情を把握した岩田は右手を松井の前に差し出す。

「分かりました。協力します。ただし条件があります」

「条件?」

「西山君達には考える機会を与えてください。即断即決は面倒なことになる可能性もありますから」

「分かりましたよ。今週の金曜までに結論が出れば、それでいいですので。ありがとうございました」

 松井博人は岩田に頭を下げ、右から左の方向へ歩き始めた。

 十字路を抜けた先は、商店街になっている。シャッターの降りた寂しいこの場所には、人気がない。そんな時、岩田波留の瞳は目の前を歩く見覚えのある2人の男を捉えた。

 間違いないと思った波留は、彼らを追いかけながら、声をかけた。

「達家君。中田君」

 案の定、その2人は達家玲央と中田蒼汰だった。2人は岩田波留の声を聞き、彼と顔を合わせる。

 岩田の隣に立つ西山は、困惑する2人に事情を説明した。

「実は三橋さんの居場所が分かったんすよ。一緒に図書館に行こうっす」

「マジかよ。スゴイな」

 中田に褒められ、西山は頭を掻き照れる。

「デパートで偶然小倉さんに会って聞いただけっすよ。やっぱり岩田君が言うように、小倉さんは何でも知っているっす」

「兎に角、早く図書館に行く必要がありますね。ということで、岩田君。今日はありがとうございました。ここからは僕達の力だけで三橋さんと仲良くなります。自分がやるべきことを見失ったら、元も子もないでしょう。だから行き詰ったら、また協力してください」

 達家を含む3人は、岩田波留に頭を下げ、彼と別れた。それから達家達は図書館に向かい歩き、岩田波留は彼らの後姿を優しく見つめた。


 デパートで小倉明美と遭遇できなかった岩田波留は、そのまま連日開催される『メインヒロインアンサー』に挑む。

 その日の問題も全問正解した波留は、改めてステータスを確認。その後でステータスを振ってみた。

 

岩田波留


レベル10

知識:50

体力:0

魅力:50

感性:0


死亡フラグケージ:0


累計EXP:1380

Next Level Exp :620


「残り2620ですか。油断大敵だけど、結構余裕がありそうですね」

 現状を把握した波留は、感想を口にしたまま瞳を閉じた。しかし、この時の彼はもう1人の小倉明美の恐ろしさを知らなかった。


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