表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/24

2日目の作戦会議

 4月7日。火曜日。入学式開催のため、休校になった岩田波留は、午前10時に目を覚ました。欠伸をしながら、リビングに向かうと、そこに人の気配はなかった。その代り机の上に置手紙がある。

『おはようございます。今日は休みのようなので、起こしませんでした。食事は冷蔵庫の中にある物を食べてください』

 母親からの手紙を読んだ波留は、深い溜息を吐く。登校中に拉致された日の朝も、リビングの机の上に母親からの置手紙があったことを、彼は思い出す。

 回想している少年の腹が鳴る。空腹感に耐えられない彼は、冷蔵庫の中を物色した。


 その時、突然インターフォンが静かな一軒家に鳴り響く。この時間に誰が来たのかと思いながら、彼は冷蔵庫のドアを閉め、玄関へ足を進めた。

 玄関のドアを開けた先に立っていたのは達家達3人の三橋悦子攻略組の面々。

「おはようございます。岩田君」

 達家が挨拶を済ませた後で、西山と中田も頭を下げた。

「今起きた所です。パジャマ姿を晒してごめんなさい。ところで、皆様揃って何の用ですか?」

「決まっているっすよ。三橋悦子の件で相談に来たっす」

 西山の発言から訪問の目的を察した波留は、彼らを自宅に招き入れる。そうして、昨日と同じように波留の自室にて、作戦会議が行われた。

「早速だけど、岩田君。今日はどうすればいい」

 中田から発せられた問に、波留は思わず唸った。

「とりあえず、このゲームはヒロインと接触しなければ、好感度を上げることは困難です。休日は、街中を探索してヒロインを探さないといけない。だけど、三橋悦子はマニュアル人間。真面目な性格だから、休日は家に籠って勉強している可能性の方が高いでしょう」

「それなら、今日は好感度が稼げないのですか? 折角昨日は、メインヒロインアンサーで370稼げたのに」

 不安そうな顔付きになる達家の発言に、西山が食いつく。

「本当っすか? 俺は300しか稼げなかったっす。死亡フラグケージが20%溜まっているから、今日全問不正解だったらゲームオーバーっす」

 西山の声から絶望感が漂う中で、中田は腕を組む。

「甘いな。俺は全問正解で400稼げたぜ。どうやら俺が一歩リードしているみたいだな」

 中田が白い歯を見せ笑った後で、西山は不満そうに両腕を震わせ抗議した。

「聞いてないっすよ。計算問題も出題されるなんて。あの問題がなかったら、僕も全問正解だったっす」

「計算問題?」

 西山の発言に興味を示した波留は、首を傾げてみせる。それと同時に、達家は西山の意見に同意するように首を縦に振った。

「確かにあれは、酷かったですね。3問目の二次方程式。あれを1分以内に解くのは、難しいでしょう。ところで、中田君は計算が得意なのですか?」

「まあな。こう見えて理数系の高校に通っていた。そんなことより、岩田君は俺達を騙したんじゃないか? あれに、計算問題が含まれるなんて、寝耳に水な話だが」

 達家達は波留に疑いの視線を向ける。しかし、波留は両手を叩き、開き直る。

「なるほど。どうやらシニガミヒロインは、普通の恋愛シミュレーションゲームではないようです。これまで数多のゲームをプレイしてきたけど、あのジャンルの4択問題で、計算問題を解いたことはありません。これは僕の予想ですが、ヒロインのプロフィールにまつわることと、今日の出来事に関することの他にも、ヒロインが得意とするクイズも出題されるのでしょう」

「あの高校レベルの問題を1分以内に解くスピードも求められる。鬼畜ですね」

 達家の発言に他の3人も同意する。それから波留は、3人に尋ねた。

「ところで、昨日のメインヒロインアンサーについてですが、1問目はどんな内容でしたか?」

「どんな内容って。RPGのエンカウントみたいだったな。あっ、三橋悦子が佇んでいるっていう問題だ」

「そうっすよ。選択肢は、やあって挨拶するのと、三橋さんって名前を呼ぶ奴。それとスラ……」

 言葉を詰まらせた西山を助けるように、達家が言葉を続ける。

「スラマッパギ。少し前に流行ったインドネシア語の挨拶です。それで1番最後の選択肢は、とりあえずチョップだ」

 予想通りの答えに、クスっと波留が笑う。

「やっぱり。御馴染みな問題でしたか。序盤は、大抵ヒロインに話しかける時の対応が問題として出題されます。この問題の答えは、ヒロインによって様々です。それでは中田君。昨日のメインヒロインアンサーでは全問正解だったようですが、1問目は何を選びましたか?」

「Bの名前を呼ぶ奴にした」

 西山は中田の回答に納得を示す。そして達家は、ハミカミながら必勝法をまとめた。

「つまり、1問目はBを選べば、確実に好感度を100上げることができるということですね?」

「その通りです。それでは、今から街を探索しましょうか?」

「でも、三橋悦子は自宅に引き籠っている可能性が高いんすよね? 探索なんて無駄っすよ」

 西山は岩田の発言をあっさりと否定した。だが、波留は反対意見を認めない。

「西山君。昨日の話は覚えていますか? 恋愛シミュレーションゲームは情報を多く持っていた方が有利です。メインヒロインとの接触する可能性は低いかもしれない。だけど街には、シニガミヒロインというゲームを攻略するための情報が溢れているんです。最も、このスマートフォンには連絡先を交換する機能がないから、リアルタイムでの情報収集は難しいでしょう。だから、集合時間を決めて、二手に分かれた状態で探索しましょう」

 それならと西山は納得した。そうして彼らは炭酸ジュースを飲み干し、波留の自宅から街へ飛び出す。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ