1日目のメインヒロインアンサー
午後8時丁度となった頃、岩田波留のスマートフォンに下駄箱の前に立つ小倉明美の姿が表示される。背景は悠久高校の昇降口と同じだと波留は思った。
『あっ、小倉明美が佇んでいる』
『A。やあ』
『B。小倉さん』
『C。スラマッパギ』
『D。とりあえずチョップだ!』
敗者決定戦で行われたゲームと同様のシステムを流用しただけのため、画面構成はプロトタイプアンサーと酷似した物になっている。
「なるほど。鉄板ネタで来ましたか」
岩田波留はスマートフォンの画面越しに頬を緩め、Bという文字をタッチする。
タイムリミットを57秒残し、画面上の小倉明美は背後を振り返る。
『岩田君?』
スマートフォンから聞こえてきたのは、小倉明美の声。波留は、メインヒロインアンサーもフルボイスだと咄嗟に理解した。
そして休み暇なく次の問題が表示される。
『そういえば、岩田君は私と同じ……』
『A。学級委員』
『B。図書委員』
『C。保健委員』
『D。クラスメイト』
2問目の内容に、波留は失笑して、迷わずAを選択した。
『そう。同じ学級委員だったね。それで岩田君は学級委員として、達家君達に何か相談されていたけど、何の相談だったっけ?』
『A。そんな相談あったかな?』
『B。小倉明美と仲良くなる方法』
『C。どうやったら勉強の成績が上がるのか』
『D。三橋悦子と仲良くなる方法』
岩田波留は1秒にも満たないスピードでDの文字を触る。すると、それまで真顔だった小倉明美の顔付きが、にっこりとした笑顔に変わった。
『あの時も言ったけれど、岩田君ってお人よしだね。今後も私と一緒に楽しい高校生活を送れるように、クラスメイトの皆を助けようね』
『A。もちろんさ』
『B。面倒臭い』
『C。そう……だね』
『D。悦子とも一緒にね』
最後の問題は難しいと波留は思う。BとCは不正解であることを、彼は一瞬の内に見ぬいた。そこで残るのはAとDだが、どちらが答えでもおかしくない。
「落ち着け」
二択で悩みながら、波留は独り言のように呟く。タイムリミットは少しずつ減っていく中で彼は悩み続ける。
残り時間30秒。AかDかで悩む岩田波留は、何の前触れもなく数年前の兄の言葉を思い出した。
「いいか。波留。どこかに正解の糸口があるんだ」
その言葉を思い出した瞬間、彼は選択肢の違和感に気が付く。明らかにおかしいと思った波留は、高笑いしながらスマートフォンをと右手の人差し指を近づけた。
「悦子と呼び捨てにしたら怒る」
悩んだ末に導いたAという結論を信じ、彼は正解を選んだ。
『岩田君。じゃあね。一緒に学級委員を頑張ろう』
画面から小倉明美の姿が消え、事務的な結果発表が表示される。
『結果発表。S評価4回。A評価0回。B評価0回。不正解0回。合計400好感度経験値を獲得しました』
これで岩田波留の1日のトータル好感度は800となった。何とか全問正解した彼は自信満々な顔付きになり、スマートフォンを凝視する。
それから数秒後、画面が切り替わり、クラスの好感度経験値獲得ランキングが表示された。
『2年B組。好感度経験値累計獲得ランキング』
『第1位。岩田波留。800経験値』
『第2位。横山雷斗。750経験値』
『第3位。森川瑠衣。740経験値』
ベスト3は、小倉明美攻略組が独占した結果となった。この調子なら大丈夫だと思った波留は、かなり早くベッドで横になる。
しかし彼は知らなかった。シニガミヒロインの本当の恐ろしさはここからだと。




