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相談

 ホームルームが終了した教室では、各々の生徒が帰宅の準備を整えている。今日は始業式ということもあって、学校は午前中で終わった。早急に帰宅する生徒や、部活動へ参加するために学校に居残る生徒。当たり前な行動が、仮想空間内でも起きる。

 そんな中で岩田波留は、咄嗟に阿部連に近づき、彼の耳元で囁くように話しかけた。


「阿部君。どうして、さっきの学級委員選挙の時、間違えることなく漢字で候補者の名前を書けたんですか?」

 突然岩田の口から発せられた疑問に、阿部は小声で答えた。ヒソヒソ話をするように。


「よく分からないけど、覚えているんですよ。なぜかフルネームを漢字で書ける」

 同じだと感じた波留は、阿部に頭を下げ、彼から離れた。そして、波留が自分の席に戻ると、その机の周りを、3人の男子が囲んだ。啖呵を切ったのは、お河童頭の垂れ目な少年、達家玲央だった。


「岩田君。早速だけど協力してほしい。どうすれば、三橋悦子さんと仲良くなれる?」

 上手い質問の仕方だと波留は思った。この表現なら、ここがゲームの世界だとNPCに悟られない。目の前に立つ少年は、この世界の住人に真実を知られれば即死亡というルールを回避したいのだと波留は思う。それから席に座る彼は、質問してきた少年の左右に立つ2人の少年の顔を見た。短い黒髪で目の下まで前髪が伸ばした少年、中田蒼汰と貧弱という文字が似合う程痩せた体型の西山一輝も同じことを聞きたそうな顔をしている。

 自分を囲む3人は同じ要件だろうと察した波留は、首を縦に振った。


「分かりました。とりあえず……」

「悦子と仲良く?」


 波留の言葉を遮り、小倉明美が4人の男子生徒に近づいてくる。それから小倉明美は、にっこりとした表情を見せ、岩田波留に話しかけた。


「早速クラスメイトから相談を受けるなんて、岩田君はお人よしなのね。悦子と仲良くなりたいっていう相談なら、私に任せて。悦子って意外と可愛い物が好きなんだよ。規則に厳しいから、プレゼントとかは受け取らないけど」


 話に割って入った明美に対し、波留は優しく微笑む。


「小倉さん。ありがとうございます」


 メインヒロインに感謝した岩田波留は、彼女の言動から可能性を見出す。その瞬間、突然に問題の三橋悦子が近づいてくる。そして彼女は静まり返った教室の中で、小倉明美の右腕を優しく掴んだ。


「明美。帰りますよ」

「うん。じゃあね。岩田君」


 三橋悦子の言葉に頷いた後で、小倉明美は嬉しげな表情を波留に向ける。その笑顔からは、人には言えないような哀しさが混ざっているように、岩田波留は思った。

 そうして2人にヒロインは、教室から立ち去った。その後ろ姿を波留は、疑念の目で見つめている。


 教室からNPCの女子生徒が全員消えた時、岩田波留は両手を一回叩く。

「兎に角、続きは僕の家で話します。三橋悦子と仲良くなりたいなら、来てください」


 波留の提案に3人は納得する。そして彼らは恋愛シミュレーションゲーム上級者を仲間にして、デスゲーム攻略を目指すべく、下校した。


 丁度その頃、小倉明美は下駄箱の前で深い溜息を吐く。その反応を心配した三橋悦子は、彼女の顔を覗き込んだ。


「どうしましたか?」

「また皆に頼られるんだなって思っただけ。去年も学級委員だったから」

「本当にそれだけ?」

 親友の問いに明美はクスっと笑う。

「やっぱりお見通しなんだね。この悩みを打ち明けられるのは悦子だけ。だから離れないで。またワタシが暴走したら……」

 三橋悦子は優しい聖母のような笑みを浮かべ、親友の右手を握る。

「今は大丈夫。それでいいです。私は明美の味方だから」


 同じ頃、プレイヤーの動きを監視するモニターが設置された部屋で、黒服の男はラブに対し疑問を投げかけた。

「ところで、学級委員選挙の時、阿部連はフルネームで候補者の名前を書けたんですか? 初対面のはずなのに、どのプレイヤーも自己紹介をする素振りをしないのもおかしいですよ?」


「かなり今更な質問ね。仮想空間に送り込む段階の時に、彼らの顔と名前に関するデータを強制的に覚えさせたってわけ。そうしないと、設定がチグハグになるから。ヒロインは男子のことを同じ学校で高1の時から一緒のクラスメイトと認識しているのに、男子同士は初対面っておかしいよね?」

「しかし、そんな過程を無視する方法もありますよね? 全員を同じ高校に通っている男子高校生と拉致して、ゲームに参加させる。そうしたら、一々顔を覚えさせるなんてことをやらなくてもいいと思いますよ」


 黒服の男の最もな意見を聞いたラブは、人差し指を振った。

「全員同じ学校に通う男子高校生だったら、目的が達成されませんよ。いろんなところからランダムで拉致しないと……」

 ラブは部下に真意を伝えることなく、モニターに映る男子高校生達の顔を見つめた。

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