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デスゲームの開幕

この物語は、『シニガミヒロイン』のスピンオフですが、前作を読まなくても楽しめます。

 高校生活2年目の始業式開始、2時間前の午前7時。1人の男子高校生は自室に籠り、机の上に並べられた3台のモニターを見つめていた。

 そのモニターには、ゲームのコントローラーが接続されていて、画面にはそれぞれ別の美少女の顔が映されていた。


 右のモニターには、黒髪を腰の高さまで伸ばした巨乳の女子高生。


 中央のモニターには、茶髪のショートカットが特徴的な平均的な胸の大きさのガングロギャル風の女子高生。


 そして、左のモニターには、ピンク色のボブヘアの貧乳な大人しい雰囲気の女子高生の姿が映っている。


 その女子高生は、いずれも二次元の存在。七三分けにした黒髪の少年は、赤色の淵の眼鏡を掛け直し、3台のモニターに映された女子高生の顔を見ながら、慣れた手つきで、床に転がるゲームのコントローラーのAボタンを次々に押していく。


『ハル君。大好き』


『ハル。好きだわ』


『ハル……好き』


 3台のモニターに、それぞれ告白メッセージが表示され、少年は静かにガッツポーズを取る。


「ふぅ。これで全員攻略完了。春休み終了までに間に合って良かったぁ!」


 その少年、岩田波留いわたはるは小声で呟き、心が喜びで波打った。エンドロールが流れる最中、波留は床の上に平積みにされた10本以上のゲームのパッケージへ視線を移す。


 そこにある恋愛シミュレーションゲームは、いずれも春休み初日に購入した物。


 攻略サイトを一切見ないことをポリシーにしている少年は、僅か2週間しかない春休みを利用して、初見プレイでゲーム中に登場する全ヒロイン総勢200人を攻略するという暴挙を、この瞬間に達成した。


 帰宅部で休日は部屋に引き籠る彼にとって、この瞬間は至福の時だった。


 エンドロールが同時に終わり、岩田波留はゲームのモニターの電源を一斉に消して、自室から飛び出した。


 そんな彼が向かうのは、階段を降りた先にあるリビング。そこに顔を出したが、静かな部屋には、誰もいない。その代り机の上には1枚の紙と茶色い封筒と食パンが置かれていた。


『今日は遅いから、昼食と夕食は封筒の中のお金を使って食べなさい』


 母親からの置手紙を読み、息子は深い溜息を吐く。少し落ち込む気持ちを抑え、岩田波留は食パンを齧り、一度部屋に帰って、制服に着替えた。


 いつもと同じ退屈な高校生活の始まり。家族が朝に顔を揃えないのは普通のこと。そう思いながら、少年は制服のズボンにスマートフォンを仕舞い、高校に向かって歩き始める。



 少年の暮らす一軒家の近くに、黒塗りのトラックが停車していることに、彼は気が付かない。


「学校終わったら、兄さんの所に遊びに行こう」


 ぶつぶつと呟きながら、岩田波留は通学路を歩く。その後ろを徐行運転する黒塗りのトラックが迫る。

 そして、トラックが少年を追い越し、彼の目の前で停車した。その直後、トラックから2人組の黒ずくめのスーツを着こんだ男が降りる。

 人通りの少ない通学路。その場所に現れた2人組の怪しい男。2つの条件が重なり、少年は事件に巻き込まれてしまう。


 それは一瞬の出来事だった。怪しい男は岩田波留の首筋にスタンガンを押し当てる。高校2年生の少年は、何が起きたのかさえ理解できず、そのまま倒れた。


 その出来事からどれくらいの時間が経過したのか。それさえ分からず、岩田波留は重たくなった瞳を開ける。

 最初に目に飛び込んできたのは、大きなシャンデリアだった。

 次に騒がしい少年たちの声が聞こえ、岩田波留は体を起こした。周囲を見渡すと、その場所には、40人以上の男子高校生の姿が見えた。

 ここはどこなのか。何も分からない岩田波留は、手がかりを求め周囲を改めて見る。テープの貼られた木目調の床。目の前には赤色の幕の下がったステージ。この場所は、どこかの体育館ではないかと、彼は思った。

 ステージの両脇には、大きな黒色のスピーカーが設置されていた。


 ステージの両端にある用具入れらしいドアの前には、多くの男子高校生たちが集まっている。

 体育館という密室から、様々な声が響く。この体育館には出入り口がないということを、聞こえて来た見知らぬ男子高校生の声から察した岩田波留は、ズボンからスマートフォンを取り出す。

 何が起きたのか、ここはどこなのか。何も分からないが、この場所で多くの男子高校生が監禁されているのは事実。今すぐ警察に知らせれば、何とかなるのではないかと、岩田波留は考えてしまう。

 だが、彼は異変を知ってしまう。取り出されたスマートフォンは、岩田波留の物ではない。それは黒色のスマートフォンで、ホームボタンを押すと、赤色『5』という文字が書かれた壁紙が表示される。


「くそ、強化ガラスかよ」


声の方向へ見上げると、低身長の野球少年が舌打ちしていた。どうやら、その少年は手にしていたスマートフォンを投げ、窓を割ろうとしたらしい。

 その少年は、梯子から男子高校生たちが集まる、体育館の床へと降りた。

 バラバラな制服を着た男子高校生。一体ここはどこなのか?

 

 不安な空気が流れる中、スピーカーからボイスチェンジャーの不気味な声が流れた。


『皆様。お目覚めでしょうか?』


 赤色の幕が上がり、ステージ上にいるのは、額にピンク色のハートマークが印刷された白色の覆面で顔を覆った白色のスーツを着た人物が、姿を現した。その奇妙な風貌の人物はスーツの背中に、日本刀らしき物を背負っている。

 その不気味な人物はマイクを握り、ステージ上から、集められた男子高校生の顔を見下ろす。

「そうですね。全員起きているようです。それでは、第13回ラブバトルロワイヤルを開催します」


「何だよ」


「ふざけるな」


「とっとと俺たちを返しやがれ」


「ここがどこか。説明しろ」


 次々にヤジが飛びステージ上の謎の人物は、マイクを右手から左手に持ち替え、クスクスと笑った。

「やっぱりね。どこの男子高校生たちも同じ反応でした。さて、皆様はとあるデスゲームのプレイヤーに選ばれました。とは言っても、こっちが無作為に選んだだけだけどね」

 謎の人物は、覆面の下で不敵な笑みを浮かべる。

性別も分からない人物によって、集められた男子高校生。そして、発表されたデスゲームの開催。

 これは悪夢ではないかと岩田波留は思った。通学路で睡魔に襲われた自分は、眠っているだけ。

 そうに違いないと少年は思ったが、その悪夢は現実であることを、彼は知ってしまう。


「まずは、皆様をこの体育館に招待した私の仲間を紹介しましょうか」  



仮面の人物の言葉を聞き、ステージ上からぞろぞろと総勢13名の全身黒ずくめの男たちが姿を見せた。その中には、恵一を拉致した大男と痩せた男の姿がある。


「君たちを拉致した犯人たちです。ハッキリとカミングアウトすると、私たちは世間を騒がせている男子高校生集団失踪事件の犯人でもあります。ご存じでしょう? ここ1年の間、1か月に1回ペースで起きた謎の怪事件。私たちはある目的を達成するために、全国各地12か所で、デスゲームを開催してきました。しかしゲームを全クリできる男子高校生は1人も現れませんでした。つまり、1か月以内に家族の元に失踪した男子高校生の遺体が送られてくるという事件は、私たちが企てた物。彼らは私たちのデスゲームの敗者なのです♪」


 仮面の人物の話が事実なのかは、岩田波留には分からない。だが、ここ1年間、全国12か所で仮面の人物の言う怪事件が発生しているのは事実だ。1か月に1回のペースで特定の地域の高校に通う男子高校生48人が、失踪する事件。同様の事件が2か月連続で発生した時から、マスコミが毎日のように事件の情報を報道していたことを、彼らは覚えている。

 数々の目撃証言から、何者かが男子高校生を拉致していることまでは判明したが、それ以上のことは分からない。

 嫌な予感が男子高校生たちを襲う。それとは裏腹に、一部の男子高校生たちは密に期待してしまう。これは何かの撮影、または不謹慎なドッキリではないかと。

 様々な思考が体育館を渦巻く中で、岩田波留は思い出した。高校に登校中、何者かに襲われて、気が付いたらこの体育館で目を覚ましたことを。

 ニュースで知った情報が正しいとするならば、目の前に並ぶ男達は、世間を騒がせている男子高校生集団失踪事件の犯人ではないかと、少年は疑う。そんな中で覆面の人物はマイクを握り直す。


「自己紹介がまだでしたね。私はゲームマスターのラブと申します。皆様が全クリできることを密に願っていますよ。これで少しは不安が減りましたかね。やっぱり相手の名前が分からないと、不安になりますもん♪」


「違う。お前らは何人の男子高校生たちを殺してきた。お前らがやっていることは犯罪だろうが!」


 黒色のベリーショートの男子高校生の怒りが、体育館に響く。だが、ラブは彼の声に聞く耳を持たず、冷たい視線でステージ上から男子高校生を見つめた。


「これまでゲームオーバーになった576人は、負け犬だったと言うだけの話ですよ? 長話もあれなので、ゲームのルールを説明します。皆様はデスゲームと聞いて、どのような事を連想しますか? 異世界RPGの世界に閉じ込められて、プレイヤーを次々と殺していく。そんなゲームを連想して不安に襲われた、か弱い男子高校生の皆様。ご安心ください。皆様にプレイしていただくデスゲームは、拳銃や槍でプレイヤーを殺し合うと言う暴力的な内容ではありません。皆様には恋愛シミュレーションデスゲームをプレイしていただきます!」


ラブの一言に男子高校生たちは驚愕を露わにする。岩田波留は、デスゲームと聞いてRPGを連想していた。それは大半の男子高校生も同じだろう。

 恋愛シミュレーションをモチーフにしたデスゲーム。RPGよりも恋愛シミュレーションゲームの方がプレイ時間の長い岩田波留にとって、その発表は最高な物だった。

 恋愛シミュレーションならば、確実に勝てる。そういう自信が岩田波留にはある。

 その時、頭に傷がある不良少年らしい高校生が、突然ステージに上がった。

 ラブの横に並ぶ黒ずくめの男たちは、彼を止めようと足を踏み出す。だが、それをラブが静止した。


「こういう馬鹿には、身をもって教えないと分からないから動かないでよ」

「俺たちをとっとと帰せって言ってるんだ!」

 不良少年はラブに殴りかかろうとする。だがラブはそっと自分のスマートフォンをスーツから取り出し、画面をタッチした。

『ごめんなさい』


 幼い少女の声がスピーカーから流れ、不良少年の手が止まる。それだけではなく、この体育館に集められた男子高校生たちも体が動かなくなった。

 唯一動くことができるのは、ゲームマスターのラブのみ。


「皆様。聞こえていますか。ゲームマスターに歯向かったら、こうなるんですよ。覚えておいてね」

ラブは背中に背負った日本刀を抜き、軽く不良少年の首を切断してみせた。

10秒後、時間が動き始めた瞬間、47人の男子高校生たちは大きく目を見開く。

ステージの上で、10秒前まで生きていたはずの不良少年の首から、大量の血液が噴き出しているのだから。


 不良少年の首は空中を飛び、彼の眼球がギロリと動いた。それがステージ下の床に落ちると同時に、少年の体は膝を床につき、前へと倒れた。首の断面から、ドロドロとした血液が漏れ、階段を血の色で染めていく。

 返り血で白色のスーツや覆面を汚したラブは、そんなことを気にする素振りを見せず、手を叩き、説明を続ける。


「分かりましたか。ゲームマスターに歯向かったら死ぬんですよ? あなたたちは強制的にデスゲームに参加するしか選択肢がないのです♪」


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