とある猫の物語
「プリン、おはよう!!」
チュッ......
私の朝はおでこへのキスから始まる。
私がこの家にやってきてからもう4回寒くなった。
いつの間にか私も、この家の一員になったんだなぁ.....と実感する。
「プリンー。はやく起きてよぉ」
また、名前を呼ばれた。
そろそろ起きなくちゃね。
「ん......ん!」
私は眠たい目をこすりながら背伸びをした。
まだ体が言う事をきかないけど、あんまりダラダラしていたら怒られそうなので
もう一度背伸びをして彼女の元へ歩いた。
「プリンー。おはよう!!」
彼女はそう言ってまた私の頬にほおずりをした。
女の子どうしなのにネ....。っていつも思うんだけど、これが、私と彼女との日常なのだからそれはそれでいい。
彼女の名前は「あすみ」明日海と書いてあすみ。
17歳の少し背のちっちゃい女の子。
「あすみ おはよう!!」
と私も彼女のひざの上に乗っかる。
4年前の今頃.....私はまだ小さな子供で
自分だけの力だけじゃ生きていけなかった.........。
あの日も、私は何日も何も食べるものがなくって、動く気力もなくなって
寒くて.....寂しくて......このまま死んじゃうんじゃないかって思ってた。
助けを求めて、ただただ鳴く事しか出来なかった。
私には家族と呼べるものがなかった。
私は本当の名前も知らない。
お父さんもお母さんもいつの間にかいなくなっていて
気が付いたら私はいつも一人ぼっち......。
それでも、父と母を憎んだ事はなかった。
憎んだって現実は何も変わらない.....。
そんなことよりも毎日を生きていくのに必死だった。
寒さと空腹で動けなくなって、もうダメかもって思っていた時
私は明日海と出会った。
「おかあさん!!家の前に子猫がいるの!!
すごくふるえてるの!!はやくきてー!」
「ほんとうね......。こんなに痩せちゃって.....
そうだ!明日海ー冷蔵庫に牛乳があるから暖めて持ってきて?」
「はーい」
「もう大丈夫だよ。温かいミルク持ってきたからね」
この時に飲んだミルクの味は私は一生忘れない。
この日から私は、明日海の家の一員となった。
それから私は、明日海にイロイロなことを教わった。
私が「猫」であるという事。
明日海は「人間」であるという事。
いつまでも「猫」という呼び名じゃかわいそうだという事で
「プリン」という名前をつけてもらった事。
人間と猫では生活習慣がまるで違うという事。
でも、そんな事とは関係なしに「家族」になれるという事......。
私の言ってる事は明日海に伝わらない事も多いけど
それでも、彼女の愛情はしっかりと伝わってくる。
あぁ.....これがぬくもりなんだなって最近わかってきた。
本当のお父さんとお母さんは今どうしているかわからないけど
私は今、それなりに幸せに生きています。
「それじゃ、行ってくるね♪」
そう言って明日海は家を出て行った。
部活動というものをしているらしく
まだかなり早い時間だが私も一緒に玄関を出た。
通学路の途中まで一緒に行くこの時間が私は大好きだ。
「プリンも一緒に行きたいの?」
明日海はそう言って私の頭をなでた。
この暖かい手も私は大好きだ。
通学路の途中まで来たところで明日海はいつものように私を抱きかかえる。
そしていつものように おでこにキスをする
そして、いつものように「私も女の子なんだけどな」って思いながらも
まぁ、いいかって変に納得して家に帰るハズだった......。
でも、今日はいつもと違った。
明日海の体から降りて、少し歩いた時だった。
後ろから車が来ていた事に、その時の私は全く気が付く事が出来なかった。
「プリン!!あぶない!!」
って明日海の声がして......。
気が付いたら私の目の前には血を出して倒れている明日海がいた......。
そのまま、車は去ってしまった....。
「うそでしょ!?」
私は呆然となりながら明日海のもとへと駆け寄った。
明日海は無事なの?
ただ、そう思いながら彼女の顔を覗き込んでみた。
「明日海!!大丈夫?」
いくら叫んでも返事をしてくれない!
朝も早いので周りには誰もいない。
すぐにでも助けを呼びたい。
でも、いくら叫んでも私の言っている事は人には伝わらない......。
こんな時、私は無力だ......。
どうしようもなく私は、ただただ鳴く事しか出来ないの!?
明日海は私を助けるためにこんな目にあっているのに!?
私は鳴く事しか出来ないの......?
私は力いっぱい走った。
明日海と出会えて.......
いろんな事を教えてもらって......
私の大切な家族になって......
それでも
ただ、助けを求めて鳴いていたあの頃と同じなの?
そんなのは嫌だ!!!
私は急いで家に帰り、少しあいている玄関から中に入った。
そして明日海のお母さんに必死に呼びかけた。
お母さんには私の言っている事は聞こえないのかもしれないけど
それでも必死に呼びかけた.......。
「お願い!!伝わって!!!」
「!?......何かあったの?」
私の願いが通じたのか、お母さんはいつもとは違う反応をしてくれた。
私はとにかくついてきてほしくて玄関の前まで走った。
「あの子ったら.....どうしたのかしら?」
お母さんは私の後を......
ついてきてくれた!!
私は少し走って、後ろを振り返りお母さんの姿を確認すると
必死に明日海のもとまで走っていった。
やはりまだ明日海は倒れている。
私は明日海の前にすわり、冷たい頬を舐めた。
しばらくして.....息を切らしながらお母さんがやってきた。
お母さんは私と明日海を見るなり
急いで駆け寄ってきた。
「明日海!!明日海!!」
お母さんの大声で近所の人がびっくりして出てきて.....。
そして、しばらくして救急車がやってきた。
そして、数日後......。
幸いにも明日海の怪我は命に別状はなく
しばらくしたら家に帰ってこれるらしい。
明日海が入院している間、私はお留守番をする事が多くなったが
無事に帰ってくるなら全然苦にならない。
しばらくして、明日海が帰ってきた。
そして......後ろにはなんとTV局の人が一緒にいた!!
なんでTV局の人がいるのだろうと思っていたら
「飼い主の女の子を助けた猫」
というドキュメント番組を作らせてほしいとのことだった。
番組を作り終えて
謝礼として私はキャットフード1年分をもらった。
嬉しい反面、しばらくはコレが続くんだろうな......
と少しうんざりしながら
私は番組が放映されるのを心待ちにしている。
大好きな家族と一緒に........。
Fin