大災害直後のとある美容師さん
試験的に一人称での形式を採ってみました。
…儂は新規拡張パック実装に間に合わす為、何時も以上に早く店の片付けを済ませ、帰宅前にコンビニで茶ぁやら軽く摘まめるモンやら買うて帰宅後に炊事、洗濯、遅めの夕飯ば喰うて、さっさと食器を洗い風呂はシャワーで軽く済ませ、髪もテキトーに乾かし頭にタオルを乗っけて部屋着をテキトーに羽織りPCを立ち上げて何時でもゲームを出来るように準備をした。
普段の店での立ち振る舞いを知っちょるスタッフや常連さんが観たら幻滅するやろうけど、んな事は知ったこっちゃなか、なんぼ好きでなった美容師とはいえ、あくまでんそりゃ『仕事』、今は仕事も終わり帰宅して完全にプライベートなんやけん、どげんしようが儂の勝手やん。
約2年振りの拡張パックでレベル上限も上がるっちゅー事で大将達ゃ、ばっさ気合い入れとるし、<D.D.D>やら<ホネスティ>みたいな大所帯のギルド差し置いてTOPで新規 大規模戦闘を攻略する気、満々やもんなぁ~まぁ、一番槍は儂か大将やろうけど。
実装までもちっと時間もあったけん、ギルドのメンバーと合流する前に本拠地アキバン中ば徘徊しよった。
儂ゃなんとは無しに時計ば観て、そろそろギルドのメンバーと合流しようと集合場所に向かう。
「そろそろ、時間やね…。」
■
…目の前の光景、いや!だけやないね…今、儂が置かれちょる状況はなんち云うたらいいっちゃろうか?一瞬、意識が無うなって目ぇが覚めたら儂は草ボーボーの廃墟に立っちょった。
廃墟から観える景色はどこか見覚えはあるんばってん、それより不思議なんは儂はMMORPGエルダー・テイルの12番目の拡張パック<ノウなんたらの開墾>が実装されるんを自室のPC前で半裸待機しちょった筈なんやけど?ここは何処な?儂ゃなんしちょると?
周りっちゅうか下ば見下ろしたら、エルダー・テイルのアバターんごつ格好をした連中が泣いたり喚いたりしちょりますやん。
「運営は何してんだよ!なんだよこれ?!」
「やだ、私PCの前に座ってたのに此処どこ?」
「何だよ!この鎧に剣?夢か?おい!誰か教えろよ!」
「おい!なんで俺こんなに毛深いんだ?あん?なんだよ?これ…。」
「あれ?キーボードは?マウスは?ヘッドホォンは??」
なんかギャーギャーしゃあしかね…。下の連中ば観よったら馬鹿んごつある。…ばってんこりゃ儂だけが、変な事に巻き込まれちょっちゃっないっちゃんね…、どけんしょっか~思いながら廃墟ん中ば見回したら姿見があったけん覗いてみた。
「な、なんねこれ!こりゃ『エンクルマ』の格好やん!何なってこれ?」
薄汚れた姿見に映る儂の姿は職業:美容師の六車円では無く長年エルダー・テイルで儂が使っていたアバター<武士>のエンクルマやった…っちゅうても顔の基本ベースは六車円で姿形がエンクルマと云うんが正しいんやろか?ドレッドヘアでこの悪趣味な着流しって…ゲームなら良かばってんリアルやと…ダサッ!美容師としてセンスを疑うわ!
しかし、エルダー・テイル始めたばかりの頃は儂自身ドレッドでトレードマークにしちょったしなぁ~『脇毛の左』ってヤツやね…。
『阿呆が服着て歩きよる。』を自他共に認めちょる儂にとって今の状況は [ゲームの世界に迷い込んだ] くらいにしか考えられん!多分、誰かがどうにかするやろう難しい事はレザリック辺りかヴィーやんに任せときゃ良か!
「……ステ……画面……ど……なっ……。」
廃墟の奥からなんか人の声らしきモノが聞こえてきよる、多分 お仲間が此処にも居るごたる。取り敢えず、声の聞こえる方に向かった儂は、でたん変なモンを目撃してしもうた……。
空気椅子で何もない空間をエアブラインドタッチしちょる頭のてっぺんからつま先まで真っ黒なローブ?げな服を着た仮面の男?うん、声に聞き覚えもあるし、あの変チクリンな仮面は間違いなか!同じ<黒剣騎士団>の<召喚術師>のヴィーやん!
「ヴィーやん!なんばしょっとな?」
「ん?その声はエンクか?俺のPCがオカシイのか、イキナリ拡張パックに不具合があるのか?画面が真っ暗で自分のステータス画面しか表示されねーんだよ?お前はどうよ?ん?なんか音声がクリアっつーか、生々しいな?新しい仕様か?」
…ヴィーやんはこの非常事態を理解しちょらんのか?真っ暗でステータス画面しか見えんって…え?真っ暗?ステータス画面しか見えん?イヤイヤ、ちょっと云いよる意味が理解出来んのんやけど?アレね、あの仮面は『穴』が開いちょらんと!?それなら真っ暗の意味は判るばってん、ステータス画面ってなんなん?ちっと混乱して小首を傾げ、眉をひそめてビックリ!
◇◇◇◇
エンクルマ
種族:狐尾族
メイン職:武士LV90
サブ職:傾奇者LV90
HP:ーーーー
MP:ーーーー
所属ギルド:黒剣騎士団
◇◇◇◇
お~!!見覚えのあるステータス画面、装備品やらなんやら、はいはい!あーあー!そういう事ね!はーほーへー、ヴィーやんの方ば意識を集中したら、ヴィーやんのも見えるやん、やっぱりゲームに閉じ込められたっちゃん!ホーヘーハーって!!感心しとる場合やないやん!儂ゃ、慌ててヴィーやんば引っ掴んだ!
「ヴィーやん!ボケるにゃ、まだ5年ばかり早いばい!その変チクリンな面ば外しない!儂らエルダー・テイルン中に閉じ込められちょる!我がん目ェで確認しない!」
「?何んだ?どうなってる?お前何を云ってるうぅぁアイエエエエェ~!」
儂ゃ、力っぱいヴィーやんを振り回した……?振り回した!?な!何な、この馬鹿力は!?ヴィーやんがボロ布んごと空中を舞っちょる!
「お゛お゛お゛~エンク!どうなってんだ!?地震か?地震なのか?!」
いかん、ヤバい!取り敢えず、床に下ろさんと話が進まん!兎に角、ヴィーやんにしかっと状況ば説明せんと!
~数分後~
儂ゃ、正座してガタガタ震えちょる…そん儂の前には<死神>が浮いちょる…ゲーム画面で観る分には怖くもなかったばってん…いざ目の前に現れたらこげん怖かとは思わんかった…、因みに目の前ン<死神>は<召喚術師>の特技の何とか云うヤツで従者と中身が入れ替わったヴィーやん……状況を説明してお面ば外そうとしたら、ばっさ怒るんよ?このおいちゃん…、この機会にお面の下の顔ば見ちゃろうって下心が無かった訳やないばってん、そげん怒らんでも……ちょっ……そんな顎ば、カタカタいわせて説教されたら怖かろうもん!それに結局、お面の下は見ちょらんのやけん、許しちゃってん!痛っ痛っ!!!鎌の柄で頭小突くの止めて!痛いちゃ!
「イマイチ、お前の説明じゃ状況を把握出来んが、改めて視界がハッキリすると云わんとしてる事は理解出来た…取り敢えず、レザと連絡取って、大工達と合流するか。」
…何やろ、何でこのおいちゃん、儂より遥かに年寄りの癖に、こげん順応性が高いと?もう何か色々と機能使いこなしちょるやん?やっぱこのおいちゃん、変人ばい…。
…後で色々、ステータス画面の扱い方ば教えてもらおう…。
エンちゃんメインですのでナインテイル自治領にお住まいの方以外は方言が理解出来ないかもしれませんが!もし標準語バージョンを御所望でしたらご一報ください。