大災害直後の残念職と呼ばないで(仮)
サブタイトルまんまです。
「なんじゃこりゃ~!」
それが彼の第一声だった、見慣れたようで見慣れない風景や、周りで立ち尽くしたり、その場に座りこむ者、自分と同じように絶叫しているファンタジーなコスプレ集団よりも、彼は自分の足元を観て絶句している。
「自分のあ…足が見えるって中学3年生以来か…。」
彼の云っている事はイマイチ判らないが彼にとっては自分の置かれてる状況よりも、立ったまま下を見下ろして足元が見える事の方が重大事のようだ、ペッタンコな胸を撫で回しながら感慨深げに呟く。
「・・・ヨシ君、それは私に対してのイヤミですの?」
「ヨッシー・・・、もう少し周りを観なよぉ♪」
見覚えが在るような無いような、声にも聞き覚えのあるコスプレの2人組に咎められ、改めて自身の衣服や辺りを見回して記憶を辿る。
彼は自室のPC前で20年の歴史を持つ老舗MMORPG<エルダー・テイル>の最新拡張パック<ノウアスフィアの開墾>の実装を待っていた筈だった・・・其処までは記憶に在るのだがその後、気が付くとこのどこかで見覚えの在る景色の場所に彼は立っていた。
「もしかして、ここはアキバ?で・・・。」
彼は恐る恐る、自分の股関に手を当てた。ソコには本来、彼には付属している筈の無いモノが付属していた・・・彼の顔から血の気が引き真っ青になる、そして今度は見る見る内に顔が赤くなり耳が獣耳になり、尻尾まで生えまた絶叫する。
「なんで私に、ち○こ生えてるのよ~!!!」
彼・・・もとい、義盛こと『佳香』は“天よ裂けよ”と云わんばかりに絶叫しその場に座りこむ、その様子を観た周囲の連中は『何云っているのコイツ、頭オカシイのか?』と云わんばかりの顔で義盛を観る、無理もない姿だけならまだしも、声も明らかに男が『ち○こ生えてる』発言すれば当然の反応だ。
そんな周りの反応を余所に、おさげに狐耳の眼鏡っ娘、ヘルメスが呆れた顔で義盛の肩を叩く。
「ヨッシー♪仮にもうら若き乙女がそんな言葉を大声で叫ぶのはよそうよ~♪私らも恥ずかしい・・・。」
「・・・全くですわ!恥ずかしいったらありゃしない!」
顔を真っ赤にしてサツキが怒鳴る、彼女達も内心動揺し混乱しているのだが、知り合い2人が取り乱している様を観てると段々と思考が冷静になってくる『余所から観てるとみっともない…』因みにもう1人の取り乱した知人はサツキが道楽者の叔父に教わったナンチャッテ軍隊格闘術で失神させてある。
ヘルメスが周りを改めて見回し、自分自身、サツキ、義盛、そして気を失っている朝右衛門を見て頭を抱える。
「あんまり、突飛な事は云いたくないし、考えたくもないんだけどねぇ…♪私達?否、<ノウアスフィアの開墾>が実装された時に<エルダー・テイル>にログインした人間は皆、ゲームに取り込まれた…?みたいだねぇ♪じゃなかったらヨッシーが男になって、私より背が低い、皐月より胸が無いは有り得ないでしょ?」
「沙代?最後の一言は余計なお世話です!浅ちゃんみたいに、『キュッと』落として差し上げましょうか?」
指先をワキワキさせるサツキの眼は全く笑っていない、緩いウェーブの掛かった銀髪に法儀族の証である顔のタトゥーが普段以上の迫力を上乗せしている、そんなサツキをモノともせずにヘルメスは話を続ける。
「まぁ♪そんな怖い顔してたら、何時もの可愛い皐月が台無しだよ♪で、本題に戻るけどちょっと集中して私を見てみ?皐月。」
そう云われたサツキは怪訝そうにヘルメスを観て『あっ!』と驚いて呟く。
◇◇◇
ヘルメス
種族:狐尾族
吟遊詩人:LV90
HP--
MP--
所属ギルド:黒剣騎士団
◇◇◇
ヘルメスの前方にゲーム時同様にステータスが観える、驚くサツキにヘルメスは言葉を続ける。
「見えたね?私のステータス♪今度は目を瞑るなり、片目だけ瞑るなりして、自分自身に集中してみなよ?サツキのステータス画面が観れるから♪」
促されるまま片目を瞑り意識を集中するとサツキ自身のステータス画面が眼前に現れる、やはりゲーム時同様のステータス画面だ、サツキは虚空を見詰めながらある2ヶ所を何度も押すようなジェスチャーをする、押す度に彼女の表情は曇る。
「GMコールとログアウトが反応しない…。」
「…うん、私も試したけど駄目だったよ♪」
あまり何時もの変わらない調子のヘルメスの口ぶりだが『ログアウトが出来ない=この世界から抜け出せない』と云う現実を突き付けられたようなものだ、周りからは『GM出て来い!』『運営は何をしてやがる』などの罵声や啜り泣く声が聞こえる、そんな中今だに場違いな泣き言も聞こえる…。
「うぅ~ち○こが~…もうお嫁に行けない…。」
この場違いな泣き言の主、義盛を見ていると『あんたにとって、そっちの方が深刻な問題か!』とツッコミを入れたくなるサツキとヘルメス。
これが大災害直後の<黒剣騎士団>の4馬鹿娘達である、この後否が応でもこんな馬鹿なやり取りが出来なくなるとはこの時は誰も知る由もなかった。