「ディカーニカ近郊夜話」 Evenings on a Farm Near Dikanka ゴーゴリ原作 民族民話の豊饒な世界 試論
これはゴーゴリのデビュー作で、ゴーゴリの生まれ故郷のウクライナに伝わる民話に題材を求めて、
アレンジした、民俗色あふれる、とても楽しい魅惑的な物語り集である。
濃厚な小ロシアの民間伝承や風俗はまさに色彩にあふれている。
アラビアンナイトのような奇譚のロシア(ウクライナ)版といったらいいだろうか?
内容的には民話であり
全8編の物語からなっている。
その全てが妖怪や魔物の登場する奇譚となっている。
以下あらすじを紹介することとしよう。
「ソロティンツイの定期市」
失われた赤い長上着を探す悪魔が定期市に現れるというお話と市場の人々の人情話を絡めた好編。
「イワンクパーラの前夜」
一年に一度蕨の花が咲きそれを手に入れたものは埋蔵金を見つけられるという。
主人公は悪魔と妖婆に魂を売り富と恋を手に入れるが結局は良心の呵責に苦しみ発狂してしまう。
『5月の夜、または水死女」
月夜に水の精が遊び戯れるという伝説と、ウクライナの5月の情景が活写される、村の人物の
描写が面白い。
「紛失した国書」
悪魔に取り付かれた男を救おうとしてかえって大事な国書を奪われた主人公が妖女と深夜カルタを
して勝ち、国書を取り戻すというお話。
「降誕祭の前夜」
冬のウクライナの農村風景や農民が活写された好編、悪魔や妖女も登場するが全然怖くない。
「恐ろしき復讐」
魔法使いが自分の娘に邪恋を抱き婿を殺し果ては娘まで殺してしまい、最後は自分も破滅するという
恐ろしいお話。他のお話は滑稽な面がたっぷりあるがこれはそれもない、シリアスドラマ仕立てと
なっている。
「呪禁のかかった土地」
悪魔が宝を見つけられないように様々な恐怖を使って宝を守るというお話。
「イワンフヨードロビッチシュポーニカとその叔母」
これは全然空想的な要素のないお話。(悪魔も出てこない、)
ある主人公の幼年時代から青年時代を、事細かに描きつくしている。
邦訳は岩波文庫に戦前の訳本のみ、ありますが
挿絵がまたいいですね。恐らく原書の挿絵でしょうが
ウクライナの往時の風俗がじかに見れてこの挿絵は抜群です。
岩波文庫はもう絶版でしょうが古書店を探せばあるでしょう。
文章は昭和12年刊ですからかなり旧漢字も多くてさすがに読みずらいです、
(青空文庫に訳本の全文がありました)これは岩波文庫版ではありませんが。
http://www.aozora.gr.jp/cards/000207/card47123.html
この本はゴーゴリの傑作と私てきには思います。
後の「検察官」や「死せる魂』『外套」は私には余り興味ない作品ですね。
ゴーゴリの作品ではほかには
民話系の妖怪譚の傑作「ヴィイ」が最高ですね?
あとは「ネフスキー大通り」『狂人日記」「肖像画」「鼻」などがいいですね。