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邪悪龍の猟兵(改稿版)  作者: 昭栄
第一章 星降る村の看板娘
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第三話 後味の悪い旅立ち

 涼真が目を覚ますと、そこは洞窟だった。などという望んだ夢オチはなく、やはり自宅の汚部屋に帰ることも無く、小奇麗な部屋のままだった。


 おのれ、と呟いて、現実まで侵食した悪夢を打ち払うべくベットを脱出する。


 もう昨日までの涼真ではない。ヒッキーは一瞬で強制卒業したので、木の扉をためらいも無く開く。

 続く階段を踏破して広い部屋に出るも、誰もいない。物音一つせず、人の気配が無いのだ。


 それにしても、この家はまるで木の中にいるようである。壁が木の皮のように歪で、部屋が四角ではない。むしろ楕円形だ。

 それにやけに広い。さまよっている内に、元の部屋への戻り方も分からなくなるほどだ。

 しばらくさまよっていると、やっと外へと出た。


 ここ、落葉樹の森の中である。外に立って、涼真は初めてその事実に気づいた。

 加えて、やけに地面が遠い。この玄関から地上まで、四、五メートルはある。降りるための螺旋階段らしきものがあるにはあるが、どうみてもツタ植物の茎だ。人が歩けるほどの茎を持つツタ植物なのだ。


 振り返ると、やはり後ろは木だった。確かに葉をモチーフとしたような木彫りの扉がついているが、どう見ても大木である。つまり、大木が家なのである。そんな大木が、そこかしこに存在しているのだ。

 もう絶対異世界に違いない。


「ま、参ったな。本格的になってきた……」


 そんなに現実を突きつけなくても、もう分かっている。そっとしといて欲しいものだ。


 そうやって再び落ち込んで下を見ると、何やらユストゥスとフルトが村人に囲まれて騒がれている。

 ユストゥスとフルトは村人に何かを指示するように身振り手振りしている。

 

 二人の指示を受けて村人が四散しだしたところで、やっと二人のところまで降りることができた。


「ユストゥスさん、フルトさん。何かあったんですか?」

「リョーマか」


 フルトの鋭い眼差しが、涼真を捉える。まったく、普段から目つきが悪い人だ。


「フェールという村娘が、神託の宝具を持ち出したのだ。全く、何を考えているのか!」

「神託の宝具を!?」


 涼真は驚きの声を上げた。


 頼みの綱としていた神託の宝具が持ち出されてしまったのだ。

 今までの考えが、全て崩壊してしまう。


「これはこちらの問題じゃよ、気にせんでくれ。して、リョーマ君。決心はついたかのう?」

「決心も何も、神託の宝具が……」


 ユストゥスの問いに、涼真は言葉を詰まらせた。


 本当は、即答できるはずだった。あのSF兵器さえあれば、即答できたのだ。

 困惑を隠せない涼真を諭すように、ユストゥスは静かな口調で話す。


「神託の宝具のことは気にしなくともよい。むしろ、これでリョーマ君が狙われる確率は低くなったのう」

「どういうことですか?」

「神託の宝具の所有者を知っているのは、わしらだけじゃよ。欲するものは、神託の宝具の所有者をフェールとみるじゃろう」

「そんな!」


 ユストゥスの言葉の端々からは、悲しみのような、哀れみのようなものが溢れていた。


 しかし、言っていることは残酷だ。そのフェールという子は、神託の宝具を使えないのに涼真の背負うはずだったものを背負うことになるのだ。

 仮にも村の一員だったはずの子を、まるでごみでも捨てるように見捨てようとしている。


 でも、それは涼真も同じだった。


 その子のおかげで、随分旅が楽になった。そんな考えが湧いたのだ。

 襲撃を受ける心配も無く、旅行気分の気楽な旅ができる。そう思ったのだ。


 だから、ユストゥスを責めるようなことはできなかった。


「神託の宝具は、人の心を狂わせる。あの子もきっと力に魅入られたのじゃろう……」

「俺としては、神託の宝具が村から無くなればいい。村を守るのが今の俺の領分だ。お前が所有者であることは口外しないと約束しよう」


 ユストゥスとフルトの言葉は冷たかったが、何かをこらえているようでもあった。

 自業自得。そう切り捨てるのは簡単だが、冷たい判断の中に諦めきれない感情が見え隠れしている。


 特にユストゥスは大きく肩を落としているようだった。俯き加減の顔には、寂しげな瞳を宿している。

 この状況下では、卑怯で、残酷なようで、涼真は言い出しにくかった。でも、意を決して口を開く。


「僕は、やっぱり元いた世界に帰りたいです。だから、シュバルツさんのところへ向かおうと思います」


 フルトはその言葉を認めるように、力強く頷く。


「もし……」


 俯いていたユストゥスが、小さく呟く。そして、力強い目で涼真の目を捉えた。


「もし、フェールに会うようなことが会ったら……。そのときは、力になってやってくれんじゃろうか? 一緒に、シュバルツ伯の元まで連れて行ってやってはくれんじゃろうか?」


 枯れ木のような手が涼真の肩を掴む。震えているほど弱々しいのに、何故だかとても力強い手だ。


「虫のいい話ということは、重々承知しておる。じゃが、あの子にとて親はおる。友人がおる。悲しむものが大勢おるのじゃ。どんな容姿なのかはあえて伝えん。じゃが、もしそれと知るような奇跡が起きたなら、助けてやってほしいのじゃ」

「わ、分かりました」


 断りきれず、涼真は気圧されて頷いた。


 こんなに懇願されて断るなんて、鬼畜の所業だろう。それに、こちらから探さなければ、この広い世界でまず会うことはない。

 互いが互いの心を納得させるための。これはただの、偽善なんだろう。


 でも、見知らぬ人のために危険を冒すなんてことはできない。実力と理想。そして心の平衡を保つためには、最良の選択だ。


 そうやって涼真が自分に言い聞かせていると、駆け寄ってきた村の若い男がフルトに皮製のクーリエバッグを手渡していた。

 そのクーリエバッグを今度はフルトが涼真に手渡す。


「これは?」

「二日分の水と食料、地図とコンパス、船賃と宿代だ。家の中に着替えと旅用のマントも用意してある」


 そういえば、上下共に黒のジャージだったことに涼真は気づいた。

 とても旅の装いとは言いがたい。ありがたくクーリエバッグを受け取り、肩に引っ掛ける。


「ついて来い」


 ぶっきらぼうに言い放つと、フルトは背を向けて歩き始めた。慌てて、涼真はその後を追いかける。


 ユストゥスの耳に声が届かないくらい離れると、フルトは見計らったかのように口を開いた。


「いいか、先ほどの話は忘れろ」

「女の子の話ですか?」

「ああ。かわいそうだが、忘れるんだ。生き残りたければ関与するな。命を粗末にするんじゃない」


 フルトの声に、嘘偽りはなさそうだ。声に人を信じさせる力がある。

 フルトも、目つきは悪いがいい人なのだ。こんなにいい人が、神託の宝具のこととなると全てを切り捨てている。

 神託の宝具を持つ、ということは、全てを捨て去る覚悟が必要らしい。


 理由はどうあれ、それを持ってしまったフェールという少女は不幸なんだろう。村からこんな簡単に切り捨てられるなんて、かわいそうだ。

 でもその反面、そんな災厄を背負わされなくてよかった、とも思う。


 涼真は複雑な思いを抱えたままにオーデンヴァルトを出立し、帰還の方法を探す旅に出ることとなった。

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