第五話 珍客来訪
シュバルツの執務室には、多くの客が訪れる。そのほとんどは、フランクフルテンの市民だ。
ところが、最近珍客が増え始めた。涼真とフェールがその代表とも言えるのだが、その二人が旅立った今日に現れた客もそれに該当する。
白馬の王子を思わせるような銀髪のフェルグスと、無骨で野獣染みたヘグニ。ヤルダット教派の十剣だ。
それに応ずるはずのシュバルツは趣味の魔法書に目を通し、フェルグスとヘグニの話に耳を貸そうとする気配が無い。結局まともに応じるのは、ウェールズの役目だ。
フェルグスは優雅に頭を垂れ、恭しくお辞儀する。
「お久しぶりです、辺境伯、勲功爵。壮健そうで何よりです」
遅れて、ヘグニがフェルグスを真似るようにぎこちなく頭を下げる。
シュバルツは本から目を離さずに小さく頷く。ウェールズはそれを苦笑いしながら見届け、一礼した。
「いや、本当に久しぶりだね。今日はどうしたんだい?」
「実は、昨日神敵と市場にて出会いまして。少々騒がしくなると思いますので、先にご挨拶に上がった次第です」
軽薄な笑みを浮かべながら、フェルグスが答える。すると初めて、シュバルツの視線が本から離れた。
「またそれか。街中では、やるなよ」
「そうですね。そのためにも、ヴァイス・オーデンの力をお借りしたいのです」
フェルグスは白いトレンチコートの裏側をまさぐると、何枚かの紙を取り出して机の上に差し出す。紙には精巧な似顔絵と賞金、名前や経歴が書かれている。
似顔絵の一枚は、眼鏡をかけた大人しそうな少年。もう一枚には、綺麗で慎ましそうな美少女が描かれている。紛れも無く、涼真とフェールの似顔絵だ。
ウェールズは顔を強張らせた。神敵と称されたのが、見知ったものだとは思いもよらなかったのだ。
神敵とは、読んで字のごとく。まさしく神の敵だ。ヤルダット教が直々に賞金を賭ける、特別な犯罪者を指す。
国の指定する賞金首は、他国に行けばそうでなくなることが多い。複雑な利害関係があるからだ。
ところが神敵は違う。世界唯一の宗教が指定するので、国はよほどの理由が無い限り手配の依頼を拒まない。国民がみんなヤルダット教徒なので、拒否すると不利なことが多いのだ。
そんなわけで、神敵はこの世界で一番罪が重い犯罪者なのだった。
しかし、そんな大事でもシュバルツは眉一つ動かすことはない。
この事態を見通していたのか、それとも単に何も感じていないのかは分からない。ただ、シュバルツは滅多なことで驚かないため、いつもどおりの反応だった。
「教団内極秘の情報ですので、他言は無用でお願いします。もっとも、近いうちに正式の手配依頼がアクエサリトスにも行く予定ですが」
こんなときに、とウェールズは心の中で舌打ちする。
シュバルツは、何を思ったのか涼真という少年に直接依頼を与えた。貴族からの直接依頼とは、よほど信頼を得ている冒険者か、もしくは騎士のみに許されるものだ。
だから、涼真の扱いは破格の優遇といえる。
そんな涼真が神敵として捕まれば、当然シュバルツにも責が及ぶ。平民出のシュバルツは敵が多く、その凋落を周りの貴族はこぞって喜ぶだろう。
それに、フェールの事もある。身内を売るような真似はできない。
かといって、ここで協力を拒めば神敵とは言わなくとも、ヤルダット教が何かしらの難癖をつけてくる可能性は高い。賄賂で贅沢をしている神官どもは、まともな法律で守られているシュバルツ領を快く思っていないのだ。
イエスと言ってもノーと言っても、何かしらの不具合が起こる。これが昨日なら何とでもなったものの、今ではタイミングが悪すぎる。
どうすべきかウェールズが迷っていると、シュバルツが口を開く。
「二人の咎は?」
「ヤルダット教の十剣、ディートリヒ様への敵対行為です」
「それだけか?」
「それだけ……?」
フェルグスは、軽薄な笑みを邪悪な笑みへと変えていく。その瞳には、明らかな敵対心が伺える。
「妹弟子が関わられていることは、お察しいたします。ですが、今は神に弓引く敵であることをお忘れなく。ご自分の立場を危ぶまれることは避けるべきかと」
「おい、何もそこまで……!」
食って掛かろうとしたウェールズの肩を、シュバルツの手が掴んで静止する。そして、一息の間を取ってやおら頷いた。
「いいだろう。街の外でなら特別に抜刀を許可する。ヴァイス・オーデンも助力しよう」
「さすがマルクグラーフ。ご慧眼、感服いたします」
儀礼的な謝辞を述べて、フェルグスは恭しく一礼する。ヘグニもおずおずと一礼した後、チラリとフェルグスの顔を見た。
「えっと、結局どうなったんかよ?」
小さな声で尋ねるヘグニを見て、フェルグスは、仕方ないな、といった様子で答える。
「ま、要するに。街の外なら暴れていいってことかな。ヘグニさんが色々ぶち壊すし」
「ああ、そういうこと。よっしゃあ! じゃあ冒涜者を引きずり出して、この街を浄化してやるかんよ! 任しといてくれ、シュバルツさん、ウェールズさん!」
ヘグニは、親指を上に立ててガッツポーズをし、あまつさえ無骨に笑っている。いつもこんな調子だからヘグニには全く悪気はないと分かってはいるが、今はウェールズでも苦笑いせざるを得ない。
フェルグスさえもシュバルツの冷たい視線に苦笑し、誤魔化すように頭をかいた。
「いやほんと、デリカシーも知能もなくて申し訳ありません。今日はこれにて失礼します」
「うるせえ! デリカシーがねえとか、お前が言えることかよ!? つーか、知能がねえってのはどういう……!?」
フェルグスは慌ててヘグニの口をふさぐ。そして、ヘグニを引きずりながら逃げるように部屋の外へと退場した。
二人の言い争う声が離れていき、辺りは静寂が支配していく。ウェールズはそれを待ちかねていたように、即座に口を開く。
「どうするシュバルツ? まさか本当に協力するのか?」
ウェールズは、シュバルツの言葉を鵜呑みにしてはいない。
涼真とフェールは、まだまだ子供だ。どういう経緯でディートリヒと対峙することになったか分からないが、神敵とされるには酷だ。誰かが助けないと、簡単に捕まってしまうだろう。
そして、神敵の末路というのは相場が決まっている。生きたまま焼かれる火刑だ。そんな苦しみを味わわなければならないほどの罪を、ただの敵対行為で吹っかけるなど正気の沙汰ではない。
それは重々承知しているらしく、シュバルツも深刻そうに何かを考えている。
「ウェールズ、お前はフランクフルテンの西、例の地帯に全軍を配置しろ。各都市には最低限の治安兵力だけでいい」
シュバルツの命令の意味するところは、対リバティの布陣だ。先ほどの話とは、一切関係のないことだ。
シュバルツの考えが分からないのはいつものことだが、見知った者たちが関係している分、ウェールズは憤る。
「何故だ!? こんなときに……!?」
「リバティは任せた。詳しい命令は追って沙汰する。こちらの問題は任せておけ」
取り付く島も無く、シュバルツは執務室の扉の方へと歩いていく。
「シュバルツ! どうするつもりなんだ!?」
ドアノブに手をかけたシュバルツは、一度だけ立ち止まった。
「神敵とはな。状況が変わった。書簡で済む話ではないだろう」
「そうだ。だから、俺たちが何とかしないと! 子供に打開できる状況じゃないだろ?」
「……状況は、既に無情だ」
扉が静かに閉まり、再び静寂が支配する。ウェールズは友人の言葉を信じられず、ただ肩を落としていた。
フランクフルテンを出立し、西へ歩くことほぼ一日。涼真とフェールは、魔族のいるという森の中にいた。
森はオーデンヴァルトに勝るとも劣らないほどに古いものであるらしく、立派な幹を持つ巨木が多い。とはいえやはり誰かが住んでいるらしく、獣道より少し広い、人が通れる道が整備されている。
日が高いのに森の中は薄暗い。こんなところで夜を迎えたくない涼真とフェールは、せっせと道を急ぐ。
「いちにいのとこで食べたご飯、凄かったね!」
「んー。そうだったね」
笑顔で話しかけてくるフェールに、涼真は気のない返事を返す。
フェールは人との沈黙が苦手らしく、しきりに話しかけてくる。どうでもよさそうな話題だろうと、なんだろうと。
普段なら涼真も同類なので、楽しく応対するところだ。でも、今はそんな気分じゃないのだ。
確かに、シュバルツは気を使ってくれたのか、食事は凄かった。世界各地から集まったと思われる食材を使った、日本の高級レストラン顔負けのフルコースだった。何と、銀飯まであったから驚きだ。
それでも、胸のつかえは取れなかった。これから一人でこういった寂しい森を抜けていかなければならないと思うと、心が底なし沼に囚われたように深く沈むのだ。
フェールがこの世界で生きていける目途がついたのは、素直に喜ぶべきことなのに。自分のことばかり考えている自身のエゴが、心を憂鬱にさせる。
そんなわけで二人の会話が弾むわけも無く、いつしか村と思しき場所へと到達していた。
その場所には高さ三メートルほどの丸太で作られた壁が建っており、中が見えないようになっている。周囲には水が張られた小さな堀があり、紅や橙色の鮮やかな魚が泳いでいる。壁の切れ目には丸太を組み合わせて作られた門が構えられ、その端では鉄の台の上で炎が踊っていた。
そして、お決まりのように門番が一人立っていて、周辺を警戒している。門を守る役割なのに、服装が普段着みたいだ。
もっとも、普通の村かもしれないので確認してみようと二人は近づく。すると、門番が気づいたらしく歩み寄ってきた。
「何者だ!?」
そう言い放った門番は、青い髪と赤の瞳を持ち、美しい顔立ちをしていた。スルツバッハで出会った、魔族の女性と同じ色の髪と瞳だ。
大きな根拠ではないが、何となくここが魔族の村であることの確信を得て、涼真は懐から書簡を取り出す。
「シュバルツ伯より、伝言を持ってきました。村長に会わせて下さい」
「なに、シュバルツ様の?」
書簡を受け取った門番は、神妙な面持ちで目を通している。
「確かに、シュバルツ様の書簡だ。しかし、いつもの金髪男はどうした?」
「ウェールズ様のこと? 今日はわたしたちだけしかいないけど、駄目なの?」
困ったように、フェールが首を傾げる。何故だか、今にも泣き出しそうに瞳をうるうるさせて。
門番はバツの悪そうに、く、と歯噛みする。
「そうは言っていない。ついて来い」
相変わらず天然でうまいな、と思いつつ、涼真は門番の後に続く。
門がミシミシと音を立てて開かれると、そこはただの村だった。三角屋根の丸太小屋が整然と並び、中央の広場では子供たちが皮製のボールを蹴ったりして遊んでいる。
一際大きな丸太小屋は学校らしく、中では子供たちが整然と机に向かっている。八百屋や肉屋などもあり、本当に何の変哲も無い村だ。
ただ一様におかしいのは、村人全員が青い髪と赤い瞳を持ち、とても美しい外見である点だ。モデル体系の美男美女だけが集まる村なのだ。
フェールはまだしも、自分ここにいていいんかな、と変な劣等感に苛まれるほどだ。どうにも、現実を突きつけてくるこの村は精神衛生上よくない。
いや、目の保養にはいいのだ。グラマラスで女神のようなお姉さまたちが、友好的な笑顔で手を振ってくれると真顔にならずにはいられない。
しかし、しかしだ。フェールの視線がモデル並みの男へ向いていると、何か心がざわつく。
フェールも多分にもれず、イケメンは好きのようであるし。そりゃみんなそうで、涼真だって美人が好きだから人のことを言えた義理じゃないけども。
あーくそ、男の嫉妬は見苦しいぞ、などと心の中で戦っているうちに、一際大きな屋敷が見えた。
その辺に建っている丸太小屋とは違い、白い壁と木組みのハーフティンバー様式みたいな屋敷だ。学校よりも大きく、二階建てで、何坪と表現するのが馬鹿らしくなるほどの広さを持っている。
門番に促され、涼真とフェールは屋敷の中へと入っていった。
屋敷の一室に通され、涼真とフェールは緊張の面持ちで椅子に座っていた。目の前のテーブルには、とげとげしい葉と赤い実を持つヒイラギが飾られた白い花瓶が置かれている。部屋の壁には燭台が設置され、部屋の中は煌々とした明かりが照らしている。
部屋の奥には主を待ちわびるかのように椅子がぽつんと佇んでいる。その主たる女性は、部屋の奥にある扉を開いて現れた。
魔族特有の青い髪と赤い瞳は勿論のことだ。しかし、美しいだけでなく、髪の先から睫毛に至るまで高貴なものだけに許された気品が漂っている。
よく手入れされた髪は腰元まで伸び、計算されつくした彫刻のように完璧なウェーブがかかっている。少し釣り気味の猫目は可愛らしさよりも美しさを引き立てている。
シルク製の手袋は肘まで女性をやさしく包み、着ている純白のドレスはウェディングドレスと言われても疑わないほどだ。何より、どんな女性も羨ましがるような体の曲線が、くっきりと浮かび上がっていた。
魔族の女性は、椅子に腰を下ろして足を組む。そして肘掛に頬杖をつくと、物憂げな瞳を涼真に向けた。
「わたしはサガモア=サン=ド=ラ=フォンティーヌが娘、リュシー=サン=ド=ラ=フォンティーヌ。お父様は忙しいから、わたしが用件を伺うわ」
一挙手一投足、リュシーはため息が出そうなほどに優雅な仕草だ。
明らかに見下されているにも関わらず、頬が熱病に冒されたように熱くなる。女の子であるフェールでさえ、頬を赤らめて何も言い出せないようだ。
「どうしたの? わたしもそれほど暇じゃないのだけれど」
「あ、と、すみません。実は……」
しどろもどろになりながら、涼真は答える。これほど美しい女性に断りを入れるということに、拭いきれない不快感があるのだ。
「リバティのこともあり、シュバルツ伯はフランクフルテンを動けないんです。せっかくですが、会食には参加できないと……」
返事を聞き、気に入らなさそうにリュシーは眉をゆがめる。
「その言い訳は聞き飽きたわ。第一、こことフランクフルテンまでは一日の距離じゃないの。馬で駆ければ半日、どうってことないはずよ」
リュシーは頬杖をついたまま、空いている左手を花瓶に向けてかざす。何だろ、と見ていると、でこピンをするかのようにリュシーが指で空気を弾く。
その途端カチンと音がして、花瓶に綺麗な穴が開き、ちょろちょろと音を立てて水が抜けた。
「馬鹿にしてるのかしら?」
リュシーの瞳には、いつしか冷たい炎が揺らめいていた。涼真とフェールを焼き尽くさんとするほどに。
そう、たいそうご立腹なのだ。
しかし、そんなに怒られても涼真にはどうしようもない。
どうすべえ、どうすべえ、と時代劇の百姓ばりに混乱していると、フェールが腕を必死になって掴んできた。びくびくしながらもリュシーを見すえているのは、生存本能だろう。
ともかく、リュシーのお怒りを納めないと命が危ない。そう悟った。
「お嬢様!? 気持ちは分かりますけど、暴力は駄目だと思いますよ!?」
「じゃあ、早くシュバルツを連れてきなさいよ。説得なんて必要ないわ。このわたしが呼んでるのだから、ぶん殴ってでも連れてきなさい」
「エスカレートした!?」
駄目だこのお嬢様止まらん。半ば諦めかけていると、おもむろにリュシーが立ち上がった。そして、つかつかと目の前まで歩いてくると、ガラス細工のような人差し指を突きつけた。
「そもそも、あなた劣族の癖に態度がでかいわ。気に食わないわね」
何か知らんが差別されている。そのことだけは、この世界のことをあまり知らなくてもニュアンスで分かった。何のせいで煽られちゃったか分からないが、リュシーは怒りで燃え上がっている。
「涼真、サンプルが目の前にありますよ。採取すべきと進言します」
それなのに、無機質な声でバルムンクがいらぬ油を注ぎまくった。思わず、涼真とフェールは立ち上がる。
怒りが最高潮に達しつつあるのか、リュシーが口の端をぴくぴくとゆがめている。
「サンプル? 採取? 下賤な民族が考えそうなことだわ」
「いや、今のは僕じゃな……」
「お黙りなさい!」
お黙りの言を頂戴すると同時にリュシーが腕を振ると、テーブルと花瓶がヒイラギもろとも灰と化す。涼真は手を震わせながら、元花瓶だった白い山を指差した。
「は、灰になった? 何で灰になったんですか、お嬢様?」
灰になってんのか、ハイになってんのかよく分からない頭で、ようやく言葉を搾り出した。フェールはいつの間にか腕から離れて、リュシーの向こうで震えている。
心を落ち着けるように、リュシーは一息つく。そして、背を向けるとフェールの前に歩み寄った。
「言うことを聞けないというなら……」
リュシーの手が、フェールの下あごを絡めとるように撫でる。次いで、頭を後頭部から捕まえ、フェールを包み込むように抱き寄せた。
二人はかなり背の差があるので、フェールの頭はリュシーの豊かな胸に沈む。フェールは恐怖と緊張で混乱の極みにあるらしく、全くされるがままだ。
即座に、涼真はバルムンクを背中に隠しつつ、後ろ手に銃化した。
「何を!?」
「……食べちゃおうかしら」
フェールの頭を撫でつつ、リュシーは唇をそっと顔に近づける。そのままフェールの鼻先まで持っていくと、ぺろりと舌を這わせた。
鼻先を舐められたフェールは、真っ青な顔をして振るえながらリュシーに抱かれている。
普段なら、何かに目覚めそうな光景だ。しかし、魔族に食べてやると脅され、心臓が緊張で締め付けられる。
指を弾いたり、腕を振ったりするだけで物を破壊するようなやつだ。邪悪龍の血液が通用するかは定かじゃない。いやでも銃を握る手に力が入る。
そんな涼真を見るリュシーの瞳が、悪戯っぽく笑う。
「冗談よ。劣族を食べるなんて悪趣味、わたしたち優族にあるわけないわ」
リュシーの手が離れると、フェールはストンと床にへたり込んだ。腰をぬかしたらしい。
涼真は胸を撫で下ろし、後ろ手に隠した銃をSDカードに戻す。
リュシーは再び席につくと、優雅に足を組んで頬杖をつく。
「でも、会食の断りは認められないわ。何度断ったと思っているのよ? これ以上断られたら、面子が立たないわ。そうシュバルツに伝えなさい」
「ですが……。いえ、分かりました」
渋々、涼真は頷く。こうなったら、しばらくこの村に滞在して何とか説得する方法を探すしかない。
魔族側にだって、これほど会食にこだわる理由があるはずだ。もしかすると、本当にシュバルツの暗殺をたくらんでいるかもしれない。だとするなら、いくら断ったって無意味なことだ。
「しかし、今日の出発ですと、森の中で夜になってしまいます。村の中で泊めてもらえませんか?」
「そうね。大切な使者が、野獣の食事になったとあっては大変だわ。今日一日は、この屋敷に泊まりなさい」
そう告げるとリュシーは席を立ち、つまらなそうにあくびを一つすると部屋の外へと出て行った。




