第二話
全く戦闘がない、そんな内容ですw
争いがないわけではありませんw
あまりローカル、いや、現実の情報に興味のない三少女と彼であったが、VRMMOの参加者は逆にそっちがメインフィールドであった。
Wiki等で情報をまとめたり、某大型掲示板で情報を精査したりと、忙しいものだった。
そんな情報通な諸人のフィールドでは、都内中学生である三少女の現実の住所はすでに割れており、リアル三少女の写真なども某大型掲示板にアップされていたりする。
もちろん「紳士」であることの矜持が高い彼らは、住所が割れたからといって突進などせず、彼女たちの日常を生暖かく見つめるだけだったのだが、現実における厨二、いや、中二の彼らは違っていた。
ちょっとエロくて自分勝手な妄想で突っ走ったのだ。
そんなわけで、三人にメールを送る。
「『カエ・ヒミ・ジョー』お前らのリアル住所は割れてるぞ。ばらされたくなければ・・・」
本来であれば、酷くおびえる内容だ。
しかし、三人は別の意味で強かった。
というか、怯えるという理由がわからなかった。
何しろ、彼女たちのとって、VRMMOで遊ぶ段階で、そういう情報が流れていると思っていたので、その覚悟で参加しているし、プレイスタイルでなんらやましい所が無いのでばらされても痛くも痒くもないのだ。
更には、彼からもその手の指導を受けているので、そういうことがありました、と送付元のメールアドレスを添付して警察にメールしなさい、ということだった。
何しろ純粋に彼を信じているカエは、なんの逡巡も無く警察に転送。
ばかばかしいことに、携帯電話アドレスからメールしていたリアル中2はそのまま補導と相成った。
このニュースは某大型掲示板でも話題になり、リアル中二のリアル住所や過去の書き込み、痛い発言、そして顔写真など全てが晒され、リアル中二自身が身動きが取れない不登校状態になってしまうという馬鹿らしいまでのオチがついた。
「・・・ということがあったんですよ~」
自慢げに語るカエ。
正面でそれを聞いていた彼は、内心こう思っていた。
「(カエ、恐ろしい子)」
じつは、彼の個人情報も割れていたが、リアルおっさんなので誰もいじっていなかっただけなのだが、それはそれ、嫉妬に駆られた有志がリアルを監視に行ったりしたのだが、思いのほか真面目なサラリーマンで、かなり苦労をしているのを見てしまい、あいつはいいやつだという評判で固まってしまったのが良い防御線になっているようだった。
VRMMO、となると、現実、レベルは存在する。
ただ、敵をちまちま倒せば上がる類のものではなく、こういうアクションを出来るようになった、とか、こういうものを作り出せるようになった、とか、こういう魔法を詠唱できるようになった、とか、こういう敵を効率的に撃破出来るようになった、とか、そういう意味での、プレイヤーレベルだったりする。
もちろん、選択職業による理想的な動作や失敗のない自動詠唱などもあるが、途中で破棄出来ないことや自動モーションでは不整地などで逆に失敗することもあるため、練習用のモーション、体に覚えこませるための訓練としての意味が強く意識されている。
無論、意識朦朧状態などのバッドステータス中でも自動モーションするので、緊急脱出用としての活用もされているわけだが。
で。
どんなに戦闘経験していても強くならない前衛が存在し、どんなに生産していても上手くならない後衛が存在する、そんなVRMMOにおいて、何を頼りに強くなれば良いか?
実は結構簡単。
現実可能な範囲で脳みそで妄想し、それにあわせてアバターを動かす、これだった。
魔法で機敏さを変えることも出来るし、力強さも変える事が出来る。
しかし、敵の攻撃をよけたり防御したり、カウンターを決めるのはプレイヤースキルに依存するという実にハードでサディスティックな設定のこのゲーム。
思いのほか人気が高い。
「常に想像するのは最強の自分」
という合言葉で解るとおり、このゲームをする人々は「最強の自分」の設定を膨大に持っており、その動きにおいての最強の結果を理解しているため、逆にシステムアシストが邪魔な扱いになっている。
いや、第一陣はそういう人間ばかりだった。
が、アップデートが進むに従い、尖りすぎた設計へ徐々に普通要素が入り込み、最近ではモーションアシストのみの戦闘をするプレイヤーのほうが多いぐらいになっていた。
そういう意味では、彼、タイチは、第一陣に近いモーションアシストはめったに使わない前時代的プレイヤーであり、古参の一人とも言える。
そんな彼が、なぜ少女たちのリハビリプレイに付き合うかというと、実は彼の会社の上司、その息子もまた不登校で、いろいろと相談されており、かなり人事に思えなかったのだ。
その為、彼は自分のホームをギルドホームとして開放し、彼女たちが羽ばたく日を見つめようと思ったのだ。
間違っても、十代前半のおんにゃのこと同居、VR最高とか思っていたわけではない。
そんな彼の実生活は、かなりの割合でVRに傾倒し始めていた。
今までは若さ溌剌の自分を再認識する、そんな作業だったのだが、最近は三人のリアル少女と会話やイベントや依頼をこなすと言う、自分が中学生であれば「リア充」と自称できる生活を楽しんでいたからだ。
もちろん、節度ある大人としての態度は崩していないつもりだが、それでもネット巡回するときのエロ画像に童顔が増えたのは仕方ないだろう。
大人とは、節度や理性という仮面をかぶった小僧なのだから。
ともあれ、タイチにとってのVRは、本格的な癒しとなっており、実生活の会社員としても大いに張りある生活と感じられていたのだが、連休を前にしてこんな話が飛び出した。
「・・・あの、タイチさん」
「どしたの、カエちゃん」
視線を向けた彼だったが、その先にいるカエは、真っ赤になってうつむいていた。
いや、すごい勢いで迫ってきたシルバーワーウルフを、後ろ回し蹴りで吹っ飛ばして、物凄い殺気で追加攻撃した後、再び真っ赤になって俯いた格好に戻る。
・・・カエちゃんや、ずいぶんといい感じになったねー、と内心苦笑の彼。
「あ、あ、あ、あ、あの!!」
「うんうん、おちついて、ね」
「(すーはーすーはーすーはー)、はい」
深呼吸して、少し落ち着いたカエちゃんは、真っ赤になった顔で彼を見た。
もちろん、興奮した赤もあるが、シルバーワーウルフの返り血のほうが赤かった。
「あの、今度の連休なんですけど・・・」
「あー、そういえば俺も久しぶりにカレンダー道理の休みだわ」
瞬間、あの純真なカエが、微妙にほほをゆがめた。
あたかも、「ちゃーんす」と微笑んだように。
「・・・連休中に、ギルドでオフ会しませんかぁ!!」
勢いだろう、すごい大きな声で叫んだカエちゃん。
しかし、彼女は忘れていないだろうか?
そこは、普通に狩場になっているフィールドで、普通にプレイヤーが結構いて、普通に彼女や彼のことを知っている人たちばかりで・・・
しばらくの静寂の後、津波のようにプレイヤーが押し寄せる。
「「「「「ギルド『ノルン』にいれてくれーーーーー!!!」」」」」
「「「「「リアル中学生とオフ会だとぉ!? てめーを殺して俺も死ぬーーー!!」」」」」
「「「「「頼む、場所と時間だけ教えてくれ!! 邪魔はしない! せめて見学だけさせてくれぇーーーー!!!」」」」」
とりあえず、速攻でホームに転移して、懇々と説教をする彼であったが、逆になぜかオフ会の件は了解させられており、連休初日に都内に行くことになってしまった。
事務会社員とはいえ、自分の車で施主に会いに行くこともあり、汚くも出来ないという意識から、彼は結構車をきれいにしていた。
タバコもすわないし、女性を乗せることも無いので、ナビシーとはきれいなものなのだが、おっさん臭が少女に悪い気分を与えるという確信があるため、彼は二本のファブリ◎ズを使い切ったものだ。
あと、緊急用にもう一本隠しているのは秘密だ。
ともあれ、休みの日の中学生の行動は早く、地元6時出で東京に向かい、下道をグネグネさせて到着したのは8時ごろであった。
私鉄の地方駅らしく、彼女たちはすでに待っていた。
「あ・・・・、すごい、タイチさんってば、結構そのままだったんですねぇ」
「おなかのお肉を削れば、イメージどおり」
「あ、あ、あ、あの、今日はよろしくおねがいします・・・」
VRとほとんど見た目が変わらない三少女に彼は微笑む。
「じゃ、乗って乗って」
助手席にカエ、楓ちゃん。
後部座席に譲汝ちゃん、秀美ちゃん。
そんな感じで始まったドライブ感覚のOFF会の開催は、さすがにネット市民も予想していなかったらしく、一気に見失ったのだった。
すでに観光名所として名高い「スカイツリー」。
都内名所の「レインボーブリッジ」。
そのままぐるっと「フジテレ◎社屋」。
ちょっと戻って関内、中華街。
今度も名所「ベイブリッジ」。
今ではちょっと低く感じる「ランドマークタワー」。
ぐるり、関東圏の観光のたび。
というか、実のところ、彼、中学生の東京修学旅行を意識していたりする。
そのお陰か、三人とも、実に大喜び。
というか、友人関係だけで車の移動なんて、彼女たちにとって初めてであり、車すごい、というイメージにもなったりする。
「た、た、タイチさん、今日はありがとうございました!!」
元気いっぱいに挨拶の楓。
どうやら引っ込み思案は彼に関しては改善された模様だと、内心の安心を感じる彼。
「でも、よかったの? 車代とかお昼とか、全部出してもらっちゃって」
「あのね、中年のおっさんが、中学生と割り勘? VRならいいけど、リアルじゃ格好悪すぎるよ」
「・・・ということは、これってデート?」
「で、で、ででででで、でーと!?」
「オフ会です」
さすがに中学生を相手にデートでは、世間体が許さないと思う彼だった。
おじさん世代において、女の子を連れまわして割り勘なんか格好悪くて出来ない。
たとえ、千円でも、百円でも、男が背負うものなのだ。
では女性は得なのかといえば、さにあらず。
身奇麗に自分を磨き、女性としての格をあげることに腐心する、これがデート前の女の努力である。
というのが、おじさん世代の常識。
もちろん、それを少女たちに押し付けるつもりはないが、譲れない一線というものがあったり無かったり。
そんな訳で、彼は、今日一日を反芻しつつ、少女たちの残り香をファブリ◎ズするかどうか、大いに悩む彼であった。
帰ってログインしてみれば、すでに三人ともログイン済みであった。
実はヒミ、リアルの父親に本日の事を報告しており、その際に父親から正面から聞かれたそうだ。
「あー、その年上の男性と、そのー付き合っているのかね?」
実に不器用で、娘とどう付き合っていいか解らない父親の典型だったが、ヒミは軽く笑い飛ばしたとか。
「タイチさんは、年の離れた兄貴、って感じ。実兄より頼りになるし、交換してもらえないかしら?」
それを聞いたリアル兄貴は、泣きながら家を飛び出したそうだ。
兄貴、合掌。
同じく、カエ。
両親に今回のOFFのことを報告していたのだが、両親に泣かれたそうだ。
・・・感動で。
実際のところ、保健室登校まで回復しているカエが、自分から外出する気になり、そして楽しかったと、実に嬉しそうにどこに行ったかとか話す姿を見て、心底感動したとか。
VRを薦めたヒミにも感謝のメールがカエの両親から届いており、かなり前向きな話だったのだが、ジョーはニヒルな笑みを浮かべているだけだった。
「あー、何か問題あった?」
「捜索届けを出されたわ」
「「「え?」」」
何でも、今回のオフ会は、ネットで有名になっていて、実況と呼ばれるリアルタイムにアクセスして状況を書き込む掲示板が立っていたそうだ。
で、ジョーの両親は、その実況を監視することで娘の動向を追うつもりだったのだが、いきなり駅前で車に拉致。
ナンバーから行動を追跡したが、まったく追跡できず、夕方の段階で警察に捜索届けを出したとか。
もちろん、そんな状況で受け取ってもらえるはずもなく、警察署で両親大暴れ。
さすがの警察も受けきれず、実家に電話してみれば娘帰還済み。
それを聞いて、すごすごと帰ってきた両親だったが、さすがに気まずくて話もせずにお互いの部屋にもどたっとか。
彼もさすがにジョーの両親がおかしいことに気づいたが、実生活に突っ込みを入れるのも難しく、「厄介な両親だねぇ」としか言いようがなかった。
無かったのだが、どうもその一言が琴線に触れたらしく、一気に愚痴が始まった。
曰く、ジョーの両親は、現在働いていない。
では収入はというと、ジョーが趣味でやっているネットトレード。
一応父親の名前だけ借りてやっていたそうだが、現在は表向き、父親がやっていることになっているという。
つまり、ジョーはトレードの時間が必須のため、日中学校に行っている時間がない。
そして、取引外時間になってはじめて時間が出来るということを話した。
さすがにそこまで深い話を聞いていなかったヒミとカエは、ジョーに抱きついて泣いた。
そして彼も腕組で頭をひねる。
一応、現在の状態は「児童虐待」に相当する、と。
「・・・でも、暴力とか、全然されてない」
「ちゃんと子供を育てない、ってのも児童虐待なんだよ」
「・・・そっか」
しかし、大きな問題がある。
虐待児童であることを声を大にして叫べるか、という問題だ。
それは痴漢を受けて、それをイヤだという勇気に近い。
いや、実の両親が失格であることを叫ぶのだ、それ以上だろう。
「ね、タイチさん。タイチさんがジョーを養女にするってだめ?」
「あー、独身男性が養子を受けるのって、すごく難しいんだよ、うん。ほら、養女で行った先で性的虐待とかまずいでしょ?」
「あー、ごめん、さすがに不味いわね」
思わず、頼りになる兄貴に相談してみたが、それはそれで障害が高いことに気づいた。
「・・・ち」
思わず舌打ちのジョーは、実のところ、その辺を狙っていた模様。
金は自分で稼げるので、安心して、とかいう文句まで妄想していた自分を恥じるジョー。
「いろいろと裏道はあるけど、正攻法が一番かな?」
「正攻法、ってなんですか?」
カエの言葉に彼は苦笑い。
「役所に届けるんだよ」
「「「え?」」」
細かな手法や手続きを説明する彼であったが、一応ジョーの意志を確認。
ジョーは正面から四つに組める状況があることを理解して、逆に安心していた。
だから「しばらく様子を見る」という結論を出し、重い話はさておいて、本日のオフ会の話になった。
彼女たち自身、どちらかというと都内の観光なんかした事が無かったので、今日の都内観光はすごく楽しかったと語り合う。
「あれよあれ、スカイツリー。想像を絶する高さだったわ」
「比べると、マリンタワー。しょぼ」
「でも、カメラに入らないのは一緒だったよね?」
わいわいと話す中、彼がVR端末に転送しておいたデジカメの映像を呼び出す。
「あ、見せてください!」
「うわ、結構いい感じに取れてる!!」
「タイチさん、これ、こぴー、いい?」
アルバムっぽいVR内フォトビュアーを指さして、これが良いとかあれが良いとか、大いに盛り上がる三人を横目に、人生いろいろあるよなぁ、とか感慨深い彼であった。
では、そろそろクエストでもやろうか、という話になったところで、VRの警報が出た。
システムメッセージが飛び込み、タイチはその場で拘束された。
警告メッセージ内容は、
「誘拐容疑における事情聴取要請」
と、実に不穏なものであった。
ことの始まりは、ノルンのギルド参加拒否であった。
徹底的に拒否してるからには、絶対に人様に見せられないことをしているに違いない、というのが通報者の意見であった。
もちろんのこと、その程度の電波な意見など日常茶飯事なのだが、本日のOFF会を前後して、ジョーの両親が捜索願を出したという時点で火がついた。
やっぱり監禁しているんだ。
やっぱりイカガワシいことをしているんだ。
ほらみろ、システム、こんな奴、そのままでいいのか!?
大いに燃え上がる意見を聞いて、及び腰だった運営会社は、勇気を持って捕縛したのだが・・・
「まことに申し訳ありませんでした」
VRでも冴える土下座技を目の前にして、彼。彼女たちは大きなため息をついた。
よけいな人を入れなかったのは、ギルド自体が建前で、実際はカエたちのメンタルケアのための集まりだったことや、家庭事情で外出できない少女へのケアであることをぶっちゃけたところ、その誤解は完全にクリアーされた。
とりあえず、炎上させている奴らのリアルを公表して、ゲスな事をいっている奴の実名へ反論するが一番なんだが、その手のゲスも同じくユーザーなので保護しなければならないと言うのが運営会社の意見。
今回の捕縛に関して、重ね重ねの謝罪が入り、リアルマネーかもしくはネットマネーによる賠償に応じてほしいという大要請をうけ、彼は決断する。
「個別への火消しは任せますけど、こっちのリアル事情を流すのは禁止です」
「・・・はい、十分理解しております」
「あと、こっちも無茶なリアルマネー要求はしませんけど、一応賠償請求は考えますので、一週間時間をください」
「・・・はい、こちらとしましても穏便に済ませていただきたく、伏してお願いいたします」
とかなんとか、なんだかよく判らないうちに燃え広がって、某大型掲示板でもサーバーが落ちるほどにアクセス数を稼いだ騒ぎも、情弱の空騒ぎとして安定してゆき、その手の騒ぎを起こした瞬間に「情弱」呼ばわりされる結末になったとか。
プライドが高く、屈辱に弱いネット市民には、実に的確な差し込みなのかもしれない。
自分が思う範囲でしか人を理解できません。
それは仕方のないことですが、少女三人を囲っていればエロエロとかいう段階で、それはもう、誰が犯罪的かが知れる話ですよね?




