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#02

 陽太と彼の両親がこの神戸に引っ越してきたのはつい三日前。そして、例

の不幸な事故が起こってしまったのも、同じくつい三日前のことである。

 外食で済ませよう、と渋る父を、せっかく大っきいキッチンになったんだ

から、と母が説得し、結局閉店間際のスーパーに二人して駆け込んだ、あの

日のこと。

 陽太は散らばった段ボール箱の整理と留守番を言い渡され、夕食の買出し

への干渉については、ハンバーグでいい? という母の問いに軽くうなずく

だけで済まされた。空間が違うというだけで、普段と何ら変わりのないやり

取りだった。

 二人が出て行った後、陽太は言いつけどおりダンボールの空き箱を片付け

る仕事をこなしていたが、あまりの空腹の響きにたまらずむき出しのフロー

リングに寝転がった。

 新しい木のにおいのするそれは、母が昼間何度も雑巾がけしたせいもあっ

て、手を擦り付けるときゅ、と滑りの良い音を立てた。

 窓の外で雷が鳴る。

 神戸とはいえ、六甲山を越えてさらに北、有馬温泉のあたりに位置する住宅

地だ。三宮や元町のような華やかさはなく、むしろ中途半端に田舎なところ

だ、と前日父が言っていた。

 確かに、東京の遠い雷鳴とは違って、こっちの轟きは思わず身もすくむほ

どに近かった。

 ホント、田舎って感じだな。天井を見上げたまま、ひきつったような笑顔

を一人作った。


「うおっ」


 その時突然彼の携帯電話が爽快なハードロックを刻み出し、陽太は妙な声

をあげながら立ち上がった。

 ボタン付きのポケットの中をまさぐるが、先ほど、自分専用のものになる

予定の部屋に置いてきたことを思い出し、舌打ちする。

 まだ多少散らかったままのダンボールを蹴飛ばし、ひんやりと冷たいノブ

を回して部屋に駆け込むも、そこで着信音は止まってしまう。手を伸ばし、

サブディスプレイを光らせている携帯を掴み取ると、折りたたみ式のそれを

片手で開いた。

 画面の中心には母からの着信を報せるメッセージが刻まれている。ついで

にその右脇に目を移すと、デジタル式の時計は二人が家を出てからすでに一

時間以上の時間が経過していることを示していた。

 何かあったのかな。わずかに胸騒ぎを感じた陽太は、今度は出るからもう

一度かけなおしてくれ、という意味を込めて母親にワンコールを送った。

 数分その場に直立したままサブディスプレイを睨み続けていたが、それが

先ほどと同じハードロックを演奏しながら光り始めると、陽太はすばやく応

答した。


「はい」

「……もしもし?」


 一瞬、陽太の肩がびくん、と震えた。

 電波が少ないところにでもいるのか、少し遠くに聞こえたその声は、しか

し、耳慣れた母のものではなかった。



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