01話 異世界へはバカンスで来ています
ボクは異世界の見晴らしが良い草原で、筋骨隆々の大男に襲われていた。
「うぉー」
と叫びながら、ロングソードを振りかぶってきた。
まるで、犬だな。
ボクは、冷静に大男を見つめて、気の技を使った。
『意識飛ばし』
大男は動きを止めた。立ったまま意識を失っている。
「サンダーブレーム」
ボクが大きく横に振った光の剣が、大男の首を通り過ぎた。
次の瞬間、大男はうつぶせに倒れた。血は出ていないが首から下が動かなくなった。
ボクは大男に剣先を向けて見下ろした。見苦しい命乞いの声が聞こえた。
「ま、待ってくれ! じょ、冗談だよ。なあ、話せばわかる。な、な」
ボクは返事をしなかった。この勝負はボクの勝ちだ。
だが、油断大敵、残心は忘れない。
ボクは時空のかなたにテレパシーを送った。
『サステナ、納品手続きをお願いします』
『毎度、ありがとうございます。代金は銀行口座に振り込んでおきます』
『ありがとうございます。よろしくお願いします』
次の瞬間、大男の身体が消え去った。納品完了だ。
ボクは光の剣にまとわせていた気を収めて短剣に戻し鞘に納めた。
「やれやれ、異世界にはバカンスで来ているのに」
◇
1か月前、ボクは自分が負け組だということを実感していた。
同年代の人たちは結婚して、3歳の子供がいる。
最新型ゲーム機を買ったり、VRG仮想現実ゲームを楽しんでいる。
でも、ボクには生活費を出すだけで精一杯なので、お金が掛からないライトノベルを書いて、【小説家をめざせ】で公開している。
「夢が現実になれば良いのに」
そうつぶやくと、スマホの着信音が響いた。
電話番号は表示されなかった。その代わりに、文字が表示されていた。
【時空記録社】
ボクが好きな短編小説に出てくる会社だ。【異世界転移アプリ】がもらえるかもしれない。
「もしもし、お待たせしました」
「青空 翔、アオゾラ カケル様ですね」
「はい、そうです」
「時空記録社のサステナと申します。弊社の【気の技】を習得する講座に、ご招待します」
というわけで、ボクは気の技「意識飛ばし」を覚えた。
「意識飛ばし」とは、なにか?
武道のひとつに柔道がある。柔よく剛を制す、背負い投げや一本背負いで有名な柔道だ。今のオリンピックの柔道では、腕力が強いひとが勝っているだけだ。
しかし、本来は、気の技「意識飛ばし」をぶつけ合い、相手の意識が止まった瞬間に投げ技を決めるのだ。
わすれられた、マンガの話だと笑われる気の技「意識飛ばし」を覚えたボクは、ほとんどの相手を倒せるようになった。どんな強敵でも、ザコと同じだった。
◇
多くの人が新型ゲームやVRG仮想現実ゲームを楽しんでいる時間で、ボクは異世界の冒険者として、レベルアップやスキルの習得にはげんでいます。
冒険の最初は、一番弱い敵にさえダメージを負わされるものですよね。
でも、ボクはモンスターに【意識飛ばし】を放つことで、モンスターの意識を刈り取ることができる。動かないモンスター相手に、【最大の一撃】を加えるだけという簡単なお仕事で、ボクはどんどんレベルアップした。
そして、Gランクからスタートして、C級冒険者になることができた。
これで、美女を助けて仲間になってもらう準備ができた。
ボクは依頼をこなしながら、出会いを待つ予定だった。
ギルドの掲示板を見て、良い依頼が無いかと探していると、若い女性の声が聞こえてきた。
「ですから、お断りします。あなたたちのパーティに入るつもりはありません」
「そう言うなよ、新人のかわいこちゃん。俺たちが手取り足取り教えてやるからよ」
「イヤです。誰か助けて! ギルドの受付のひと、助けを呼んでください」
屈強な男3人に囲まれた女性は追い詰められた表情をしていた。
やじ馬は大勢いるが誰も助けようとしなかった。ギルドの受付のお姉さんも書類を見て気付かないふりをしていた。
「おい、誰か助けを呼んでこいよ!」
「あれは、【黒色貴族】だぜ。命が惜しい」
「今のうちに逃げましょ!」
ボクは状況を把握しようと周りを見ていた。たしかに3人は強そうだ。
助けを必要としている女性は、初期装備をまとった気立ても優しそうな美女で、魅力的な肉体だった。そして、露出が少なく化粧をしていない元気印の可愛い女の子で、好みのタイプだった。
『神様、出会いのチャンスをありがとう』
ボクは、彼女を助けて仲良くなるために、一歩前に踏み出した。
「彼女はボクのパーティに迎え入れる!」
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