二章 アルジェンとの出会い。 3
全員で移動していき、途中で父だけが別れて、会議室のある方に行く。
そのまま私は、ライルと一緒に行動する。
彼が先導し、反対の方角に向かって歩きだす。
「此方です。」
私も素直に付いていく。
だんだんと城の奥へと入り込む。だが城の三階部分から階段を下りていき、一階を過ぎても、まだ下へと向かうようだった。
私は首を傾げていた。不可解だが無言のまま付いていく。
やがて地下へとやってきた。
ふと廊下の先には、目立つ朱色の扉があった。
ほぼ同時に「…彼方の部屋です。」と、ライルが告げる。すぐに扉に近寄ると、ノックを三回もしていた。
…コン、コン、コン。
「ライルだな?…入れ。」
と部屋の中から、誰かが返事をしてきた。聞き覚えのある声だ。
ヴィシュー殿下で間違いない。
「失礼します。…どうぞ。」
ライルが扉を開けながら、此方に手で指示を送り、入る様に促している。
「…は、入ります。」
私も部屋の中に足を踏み入れていく。
扉を潜り抜けると辺りを見回した。
その部屋は簡素な内装だ。表の扉の豪華なイメージとは裏腹に、真逆の印象である。
石壁に囲まれた四角い部屋。奥の壁側に、古いベッド、ボロボロ机と椅子、スカスカの本棚しかない。
まるで牢屋の中みたいだ。
「…やっと、来たか。」
そこの椅子に、ヴィシュー殿下は怒った表情で、背凭れに身を預けて深く腰掛けていた。
此方に鋭い視線が向けられる。
「…連れて参りました。」
とライルが側まで行くと、すぐに膝を付いて頭を下げながら報告をする。
「あぁ、そうか。」ガン!!
すると突然、ヴィシュー殿下が頷いたと同時に、ライルの頭を思いっきり蹴り飛ばした。顔面を的確に当てている。
ライルは衝撃で、後ろに仰け反ってながら、床に倒れてしまう。
「!?…ねぇ、大丈夫?!」
すぐに私は彼の側へと寄っていき、抱き起こそうとした。
「……痛っつぅ。」
それよりも先にライルは、顔面に手を当てながら、ゆっくりと立ち上がる。まるで何事もなかった様に振る舞う。
「ふん。…貴様のせいで、しくじったんだろうが。」
対してヴィシュー殿下は文句を言い、此方を睨み付けてきた。
ふんぞり反った様子は、なんとも態度が悪い。
「えっと、…」
私は目の前の状況に唖然としている。彼等を交互に見回していた。
ふとライルの赤い両目と、視線が合った気がした。
若干だが彼は、身体を強張らせていた。
「ふん。…よりにもよって、この女も時戻りの力で、未来の意識を持って帰ってきたのだろうが。…余計な事をしてくれたもんだ。」
とヴィシュー殿下の文句も、また聞こえてくる。
「時戻り?…」と、私は思わず、知らない単語を聞き返していた。だが頭の中でも、舞踏会の様子が鮮明に甦っていた。
するとヴィシュー殿下が鋭い目付きを、ライルに向け、指で指示を送っている。
それを受けて彼は、躊躇しているも、
「…し、仕方ないか。」
と諦めた様に呟く。此方へと向き直ると、片手の掌で顔を隠しつつ、前髪を掻きあげる仕草をした。
その直後に、私は驚愕した。目の前のライルの姿を見て、声を漏らす。
「?!…アルジェン!!!」
布の擦れる音がし、ほんの僅かの間に、彼の姿が変貌していた。
まず顔にペルソナマスクを装着しており、さらに身につけた衣服も変わっている。
見覚えのある姿だった。
間違いなく目の前には、舞踏会で見た怪しい人物ーー怪盗アルジェンが真正面に立っていた。
「!?」
私は焦っていた。反射的に腰に携えた鞘から剣を引き抜こうと手をかける。だが手が空振りしてしまう。やや遅れて視線を向けて確認すれば武器がない事に気がつく。
先程まであった筈なのに、何処にもなかった。
「あ、あの。」
と、アルジェンは話しかけてきた。
しかし、私は焦っていた。
「…いきなりの事で、申し訳ありません。…ですが落ち着いて話を聞いてください。」
ほぼ同時にアルジェンが宥めてくると、指をパチンと鳴らした。さらには空の手を目の前に差し出したら、一瞬のうちに掌に私の剣が出現したのだった。
「……!?…」
もはや私は驚き過ぎて、目を見開いたまま声が出なくなる。呆然としながら、成り行きを見守るしかなかった。




