六章 ライルの正体と犯人の正体と目的と。4
全員で事務机を囲み、天板の上の見取り図を覗き込む。
それは大広間の配置図だ。表面には兵士達の配置位置に、細かく印が付いている。
「…警備は万全にした。…しかし、どうやら犯人は内部にいる。」
最初にドギアス王が喋りだす。
「…それも私達に怪しまれず、ナンリーの側へ容易に近寄れる人物だ。…ヴィシューよ、誰かに心当たりはないか?」
「…………いや、それは。…」
対してヴィシューは、歯切れの悪い返答をした。
だが直後に、ハッと何かに気がついていた。
「ん?…待てよ。…まさか。」
途端に表情が変わると、絞り出す様に喋りだした。
「…一人だけいる。…それも、すぐ側にいた人物だ。」
※※※
そうして、私達は話を聞いた。
部屋の中が凍りついたようだった。
するとドギアス王は眉間に皺を寄せ、静かに地図の線を見ながら指でなぞると、再び喋りだす。
「…なるほど。…確かに、条件は当てはまっている。…城の中や大広間を自由に行き来しても、ナンリーの近くに居ても怪しくない。」
そして顔を上げて、ぼそりと呟く。
「…犯人は、ナンリーの側使えのメイドだ。」
「っち。…やはり、あの女か!!」
とヴィシューも舌打ちし、苛立ちを隠さない。
「そう言えば、…。」
ふと私も思い出す。
あのお茶会での出来事だ。
側使えのメイドは、落ち着いた佇まいをし、隙のない所作だった。
どこから見ても、完璧なメイドである。
しかし、ヴィシューに紅茶を運んだ時に、一瞬だけ此方を睨んできていた。
「…なら、あの時のは気のせいじゃなかったのね。」
ようやく私は事実に気がつき、合点がいった。ただ背筋にも寒気が走るのを感じるのだった。
「…俺も前から、あいつは気味の悪い女だと思っていた。」
さらにヴィシューも吐き捨てる様に言う。
「…いつも妙な視線を送るし、…俺の物も何度か消えていた。…今思えば、ナンリーと一緒に奴が来た時ばかりに被害があった。」
「うわぁ、…。」
とライルも驚愕し、一歩だけ後ずさる。明らかに、ドン引きしている様子だ。
やがて周囲に重苦しい沈黙が落ちる。
それでもドギアス王は、話を続けた。
「…残る問題は、後二つ。…犯人から魔法を奪う算段と、ナンリー達の身の安全を確保する事だ。」
「あの?…」
と私も口を開き、頭に浮かんだ疑問を問いかけた。
「…そう言えば、肝心な部分を聞いてなかったけど。…そもそも実際に、どうやって魔法を奪うの?」
「…魔法を奪うには、条件があります。…最も重要なのは、実際に魔法が使われている場面じゃないとならないんです。」
「…なら、舞踏会の前に奪おうとしても駄目。…魔法を使わせないと意味ないのね?」
「はい。」
例の如くライルが答える。
「だから此方は、舞踏会で迎え撃つしかない。」
と、ドギアス王も同意する様に頷いた。
「…今まで犯人が動いたのは、社交ダンスの時でした。…ヴィシュー様とシヤリー様が最も近づいた時に、感情を揺さぶられて魔法を使う様です。」
さらにライルは、続けた。
「だが人手が足らん。」
だが途中で、ドギアス王が指摘してくる。
「…近衛騎士団を会場に入れても、ナンリーやシヤリー嬢が危険の真っ只中にいるのは変わらない。」
「…どうするべきでしょうか。」
彼等の表情には、眉間に皺が寄っていた。
「そうだ!…」
すると突然、ヴィシュが大きな声をあげ、悪どい笑みを浮かべだす。
私は嫌な予感を感じ、背筋に寒気が走る。
そして互いに目が合う。
「カレンナ・スカーレット」
とヴィシューは名を呼ぶと、自信満々に提案してきた。
「…お前が私の相手をすれば良い。」
「はぁ?!」
と、私は戸惑う。頭で理解が追い付かない。
「えぇ?!」と、ライルも隣で驚き、上擦った声を漏らした。
「舞踏会で、シヤリーの代わりをすれば条件はクリアされる。」
「ちょっと、何を言って!?」
「お前なら、戦えるんだろう?…それも、かなりの実力だとか。」
そんな様子にも関わらず、ヴィシューは平然と喋り続ける。
「…例え招待客が襲いかかってきても、一人で対処も出来る筈だ。…その間に、俺がナンリーを連れて逃げる。」
「な、…。」
「はは、そうだ。…そうすれば、いい。…上手く行けば。…」
さも当然の様に言いきる。
あまりにも軽い発言だった。
「ふざけないで。」
私は頭に血が上り、重く低い声を出す。
「…舞踏会は、アンタとシヤリーの婚約の発表の場でしょ。」
真っ直ぐに相手を睨みつけ、事実を突きつける。
「…婚約者を放ったらかしにして、私が代わりに出るって、なんて説明するのよ。」
「簡単な話だ。」
だがヴィシューは、歪んだ笑みを浮かべて反論する。
「…その舞踏会の最中に、シヤリーとの婚約を破棄して、なかった事にする。」
ぞっとする程に軽い口調で、ー
「…その代わりに、こう言えばいい。」
あっさりと告げる。
「…お前と俺は、以前から密かに愛し合っていた。…だが互いの思いを抑えられなくなって、真実の愛を求める事にしたとな。」
まるで紙でも、破り捨てる様だった。
「お前えぇぇぇぇぇ!!」
ようやくして私は理解し、ついには叫ぶ。
(…こいつ、今、何て言った?…シヤリーを捨てて、…その理由に私を使う?)
さらに怒りが一気に沸き上がり、拳を強く握って振りかぶる。
(…何で、シヤリーの気持ちを、何一つ考えてないのよ!!)
その事実が何よりも、許せなかったのだ。




