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六章 ライルの正体と犯人の正体と目的と。1

 ※※※


 「…!!?」

 私は意識を取り戻した。

 すぐに顔を上げて周りを見渡す。

 だが頭がはっきりしてくると、いち早く状況を理解した。

 もう以前程の混乱はない。

 此処は、赤い扉の部屋の中だ。

 目の前には、白いクロスを掛けた机がある。

 その上には、テーィーセットと、空になった菓子の箱が置かれていた。

 この前の光景を私は見て、思い出した。

 (ー今は、あのお茶会をした日だわ。)

 そして次の瞬間、床で倒れている人物に気がつく。

 ライルだった。

 私は急いで駆け寄ると、傍らで跪く。さらに肩を揺すりながら、呼び掛ける。

 「…ライル!!…大丈夫?」

 「……うぅん。…」

 微かな声が返ってくる。

 ライルも、静かに目を覚ました。

 ただし視線は虚ろで、意識も朦朧としていているようだ。

 ついでに、ぶつぶつと何かを呟きだす。

 それは、次第にハッキリと聞き取れてきた。

 「…いたい、よ。」

 「…ライル?」

 「…もう、嫌だ。…痛いのは、やだ。…時戻りなんて、したくない。」

 「……っ?!」

 「…でも、頑張らないと、…ぼくがやらないと。」

 「………。」

 私は静かに息を飲んだ。

 彼の言葉を耳にし、脳裏に衝撃が走る。

 やがて何となく、事情を察した。

 そして己の拳を強く握りしめだす。爪が食い込み、掌から血が滲み出ている。

 「…カレンナ、…さん?」

 ようやくライルは、我に返ったようだ。ゆっくりと上半身を起こしたら、此方に顔を向けてきた。

 ほぼ同時に私も、両手を伸ばして彼の顔に触れる。じっと注意深く、顔の角度を変えて怪我がないか確認する。

 「か、カレンナさん?!…離して、…今は時戻りをしたので、何処も怪我してませんよ。」

 とライルは慌てて弁明していた。頬を赤くし、顔を反らそうとしている。

 それでも私は構わず、彼の顔を正面に向けさせ、まじまじと見つめる。

 ライルは、綺麗な顔をしていた。

 短めの銀色の髪は煌めき、赤い両目は印象的だった。

 小さな輪郭に白い肌。長い睫。

 まるで少女の様である。微かに身動ぎする様子も、まるで小動物の様に、愛らしい。

 「っ!!」

 ふと私は気がつくと、涙を流していた。

 それが頬を伝っていったら、言葉が止めどなく溢れ出してきた

 「ライル、…ごめんね。」

 私の声は震えていた。

 「……辛い目に合わせて、…私、自分から勝手に首を突っ込んだのに、何の役にも立たなかったし。」

 「え、…いや。…違いますよ。」

 ライルは即座に、庇ってきた。

 「…今回のは、僕が余計な事を提案したからです。…だから、シヤリーさんも大変な目に。…なので、悪いのは僕、…。」

 だが私も首を横に振って否定し、ー

 「…うぅん。…あれは、誰も予想してなかった。…貴方だけが悪い訳じゃない。」

 そして静かに続けた。

 「…それに私が言っているのは、別のこと。」

 一瞬だけ声が震え、言葉にが詰まってしまうも、

 「…貴方が時戻りをする時って、…」

 最後には、はっきりと問いかけた。

 「…貴方が命を落とす時なんでしょう。」

 「!?」

 するとライルは目を見開き、僅かに肩をビクつかせた。

 どうやら図星のようである。

 暫くの間、部屋の中に重苦しい空気が漂っていた。

 「…本当は。…」

 やがてライルは、此方の手を掴んで離すと、喋りだす。

 「…本当は、誰にも知らずに、隠さなきゃ、いけなかったんです。」

 「うん。」

 と、私も言い、話に加わる。

 「…でも、バレたのなら、仕方ないです。」

 そしてライルは、真っ直ぐ目を合わせてきた。


 「カレンナさんの、仰る通りです。」

 とても静かな声である。

 「…時戻りの魔法の発動条件は、ーー」

 さらに少しだけ、言葉を区切ると、

 「…僕の命が尽きた時です。」

 と、はっきりと答える。

 「…そうして魔法が発動すると、私の意識のみが過去の時間へと強制的に飛ばされます。」

 「やっぱり。…そう、なのね。」

 「そして何度も何度も、同じ出来事を繰り返してます。」

 「……今まで、何回も、やり直したの?」

 と、私は震える声で、問いかけた。

  「…今回の事件だけなら、…10回は繰り返してます。…どれも失敗してましたけど。」

 と、ライルも答えると、遠くを見るような目をしだす。

 「…それから先は、覚えてません。…それに、幼い子供の頃から、数えきれない程の時戻りを経験していますから。」

 「子供の頃から?」

 「えぇ。…もう自分でも訳が分からなくなってます。」

 「…どうして、…そんなに何度も繰り返してまで、続けているのよ?」

 「耐えきれずに逃げた事があります。…でも結局、何処かで時戻りが発動してしまえば、また元に戻ってしまいます。」

 「そんな!?…」

 「…自分ではコントロールするのも、出来ない。…これは、謂わば僕にとっては、呪いなんです。」

 「………。」

 私は絶句し、何も言えなくなる。

 「…私は怪盗アルジェンなんです。…その立場から、逃れられない運命なんです。」

 そしてライルは、語りだした。

 「すべては、ドギアスが魔導国と呼ばれ始めた頃の話です」

 彼曰く、切っ掛けは一人の魔法使いだったらしい。

 魔法使いは、独自の魔法を生み出す事に長けていたという。

 そして彼は、誰しもが自身だけの魔法を使える様になる術を確立した。

 すると街中の人々に広められ、人々の生活は大きく変わる。

 誰もが魔法を使い、暮らしは豊かになっていた。

 やがて国王や王妃にも、知れ渡る事となる。

 すると魔法使いは功績を認められ、より一層に魔法を国中に広めて行く事にした。

 しかし、一方で、ーー

 国中には、恐怖と混乱も渦巻いてしまっていた。

 何故なら、魔法は善人だけのものではなかった。

 悪人達も魔法を使える様になり、人々の生活を脅かすのだった。

 さらに城の内部でも、魔法を扱える者が現れた。

 次第に彼等は反乱を企て、国家の転覆が図られる事となってしまう。

 国王は事態に逸早く気がつくと、

 「…魔法使いよ!…お主の力で、この国から全ての魔法を消し去るのだ。」

 と、命令をだした。 

 その命令に、魔法使いは行動に移った。

 ある方法を用いて、国中の人々から、全ての魔法を取り上げてしまったのだった。


 その様子は、異様だったらしい。

 魔法使いは、神出鬼没に姿を現す。

 犯行後には忽然と姿を消してしまい、誰も捕まえる事すらできない。

 何故か容姿も定まらず、様々な姿が囁かれる。

 噂では、ある者は老人と言い、ー

 ある者は二枚目の若者と言い、ー

 はたまた絶世の美女とも言われていた。

 しかし彼を見た者は、全員が決まって銀の髪をしていると証言する。

 やがて街の人々は、その存在を、ある名前で呼ぶ様になった。

 「それが怪盗アルジェンの始まりです。」

 とライルは、一度だけ言葉を区切り、

 「…彼は国中から魔法の概念を盗み続けて、国の混乱を治めたそうです。…やがて人々は魔法の存在を忘れました。」

 最後には、重苦しいく息を吐いていた。

 「…そして【ドギアス】には魔導国だった伝承と、怪盗アルジェンが現れる噂だけが残ったのね。」

 と、なんとか私も言葉を絞り出した。

 互いの間には、沈黙が重くのし掛かる。

 しかし、ーー

 ライルが再び話し出した。

 「…それでも事態は、収まらなかったんです。」

 「え?」

 「…魔法使いの作った独自の魔法は、一度盗んでも、…長い時間が経つと、また人々の中から、また魔法が発言しまっていたのです。」

 「はぁ?!」

 私は思わず、声を漏らす。

 「この国の魔法は、魔法使いの想定を越えてしまっていたんです。…いくら盗み続けても、完全に消し去る事が出来ない。」

 ライルは静かに呟く。

 「…まるで草木が根を張る様に、人々の中で残り続けていたのです。」

 「…っ!?」

 私は、また言葉を失った。

 ライルは構わず、説明を続ける。

 「…だから魔法使いは、最後の手段として、自分の命をかけて、三つの魔法を発動させたんです。」

 そして、ゆっくりと指を一本立てる。

 「…一つ目は、自分と同じ銀髪と赤い両目の男子を、この世に生まれる魔法。」

 二本目。

 「…二つ目は、その子供に、魔法を盗む技術や知識を与える魔法。」

 そして三本目の指を立てた。

 「…そして三つ目は、人々から全ての魔法を消し去るまで、何度でも時を繰り返す魔法です。」

 彼の目は、此方を真っ直ぐに見つめてくる。

 「…それじゃぁ、…。」

 私は胸が締め付けられるも、震える声で言った。

 「…ライルは。」

 ようやく名前を口にする。

 だが、それ以上は言葉が続かない。

 あまりにも衝撃的な内容に、頭の中は真っ白になっていた。


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